それではどうぞ(^^)
序章(8)
「がはっ……おのれ虫けらの分際で」
俊一捨て身のタックルで地面に叩きつけられた村上は、転がりながらも立ち上がって睨んだ。
まるで親の仇でも見てるようで、その瞳には憎しみが込められている。
瞳に宿る憎悪の強さだけで、大の男も怯みそうなほどだったが俊一には関係なかった。
何故なら、それを見ずに動いていたから、彼の攻撃はまだ終わっていなかったから。
転がった状態から、立ち上がった村上が見たのは、腰を屈めた状態でタックルにて迫ってくる、俊一の姿だった。
一瞬村上は猛牛が突進してきたように感じ、感じた時には無様に地面に仰向けに倒れるしかなかった。
「これで俺の勝ちだ!!」
仰向けに倒れた、村上に馬乗りしながら俊一は勝利の雄叫びをあげた。
「やったぁー俊ちゃん」
同じ頃、俊一の戦いを祈るように手を合わせて見ていたさおりは、俊一が敵を地面に押し倒すのを見た瞬間、思わず反射的に跳び跳ねた。
更に俊一は、さおりが跳び跳ねている、間に馬乗りになって、村上をタコ殴りにした。
(良かったぁ、後は俊ちゃんが呼んだ
警備員が来てくれたら)
跳ね終わったさおりは、ひたすら馬乗りになって、殴り続ける恋人を見ながらそう思うのだった。
そうしてると、背後から足音が聞こえてくる。
(やっときた)
さおりは喜びを持って、背後を振り向いたのだった。
「全く帰ってくるのが遅いから、
わざわざ様子見に来てやったのによ
男に押し倒されてるとはな、
なにやってんだ?あのバカは」
振り向いたさおりの耳に最初に入ってきたのは、そんな罵声だった。
(俊ちゃんが通報した警備員の人じゃないの?)
さおりは、自分の背後から歩いてきた警備員だと思った男を不思議そうに見る。
身長の低い男だ。さおり自身よりは高いが、恋人の俊一よりは20センチは低いだろう、約160センチぐらいだろうと、彼女は思った。
丸坊主の頭をしており、両腕がとても
太かった。
年の頃は、自分より上だとはわかるが、何歳かはっきりとわからない。
18ぐらいにも見えるし、二十歳ぐらいにも見える。
また服装も、地味な甚平を着てるので
、さおりは警備員の可能性も捨てきれず背後から現れた男に恐る恐る、話しかけた。
「あのぅ、警備員の人ですか?」
小さな声だったため、坊主頭の男には
聞こえなかったのだろう。
殴り続ける俊一を見ていて、さおりの方を振り向きもしなかった。
仕方ないのでさおりは再度、警備員らしき男に話しかけた。
今度は深呼吸してから、意識してさっきより大きな声で呼びかけた。
「すみません!!警備員の方ですか?」
「何だ?」
さおりの大声に体をピクッと震わせた
坊主頭の男が勢いよく、さおりの方に
体ごと、振り向く。
その目には驚きが浮かんでおり、
今、さおりがいるのに気づいたようだ。
坊主頭の男はさおりに、近づき止まると、顎を手のひらで擦りながら、値踏みするような、目付きでさおりを見始める。
「警備員だと、俺が警備員に見えるのか?」
「違うんですか? 俊ちゃんがちょっと前に通報したって言ったから、てっきり警備員の人だと思ったんですが」
さおりは小首を傾げながら、話す。
「通報だと」
坊主頭の男の目付きがまるで猛禽のように鋭くなるが、話すのに集中しているさおりは、その変化に気づけなかった。
「はい、あっ俊ちゃんって言うのは
あそこで、喧嘩してる人なんですけど
でも仕方ないんです。
実は俊ちゃんが殴ってる人は
私たちを殺そうとしたんです」
「殺されそうになったというのか。
随分物騒だな」
「でも本当なんです。
それに俊ちゃんが、連続カップル殺人事件の犯人だって言ってたんで」
さおりは早口で話していたが、それ以上言えなかった。
突然目の前の坊主頭の男が、彼女の口を手で塞いだのだ。
何故そんなことをするのかわからず、
さおりは目をぱちくりと見開く
それから口を塞いでる手を、どかそうとするがその手はびくともしない。
それどころかその力は更に強くなっていく。
「はぁー……全くそんなとこまで知られるとはな。
あいつのつめの甘さにはいつも、苛つかされるぜ」
頭を掻きながら笑みを浮かべているが
その目は笑っていない。
その様子にさおりは恐怖するが、残念ながらすでに手遅れだった。
乾いた笑い声を上げながら、坊主頭の男はさおりの口を塞いでる手を持ち上げ、彼女を浮かす。
凄まじいりょりょくだ。
「この大米りゅううんに尻拭いさせるんだからなぁ」
大米りゅううんと名乗った男はいつのまにか、もう片方の手にナイフを握っている。
ナイフの刃が月明かりに反射して鈍く光る。
「ううぅん」
ナイフを見たさおりが首を左右にぶんぶん振るが、掴んだ手は外れるどころか、力が緩みもしなかった。
「うっうう……ぐっ」
髪が乱れるのも構わずに、首を左右に振っていたさおりに、大米が無言でナイフを突き刺した。
胸を刺したその一撃は、彼女には致命傷と言えるものだった。
さおりの首が横から前にカクンとうなだれる。
その瞳から涙が零れ、徐々に光を失っていくが掴んだ手はそのままだ。
それから大米は掴んだまま、刺したナイフを抉りつつさおりの胸から引き抜く。
抜いた瞬間噴水の様に血が勢いよく
吹き出る。
さおりの意識があったのはそこまでだった。
血が吹き出た時点で、大米は掴んだ手を離し彼女を地面にほったが、
すでにこと切れていた彼女には知るすべはなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
(^^)