ようこそ木須岳通り商店街へ   作:デオク・レ・ダークホース

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ようこそ木須岳通り商店街へ2

「名前どうする?」

 

ドライバーのサトザキさん

ロン毛にヒゲのチャラい兄ちゃんで年齢不詳だ

 

「タケオとか男らしいやつがいいっすね」

「マジ?イメージにあわないけど、まぁいいか」

 

まさか俺に源氏名がつく日が来るとは!

何となくテンションが上がる

 

「それ却下ね」

「あ、お帰りなさいマネージャー」

 

バーテンのような格好をして俺をスカウトしたこの男はこの風俗店の店長だった

ドライバーのサトザキさんはこの男のことをマネージャーと呼んでいる

 

「キミ、あだ名とかはないの?」

「あだ名?あー、まぁ高校ん時はチーターって呼ばれたりは」

「それじゃあチイタくんで」

 

こうして俺の意思は無視され、マネージャーの一言で源氏名が決まった

 

 

 

 

◆ようこそ木須岳通り商店街へ◆

 

 

 

あれよあれよという間にプロフィール用に写真撮影をすることになり、バレたらヤバイから無理と逃げ出しそうになった俺に

 

「髪型変えてれば問題ないよ

顔は隠すし年齢も少し誤魔化してるから」

 

そう言ってサトザキさんは俺のセットしていた髪型を崩してペチャンコにし、これに着替えて準備できたら呼んでくれと部屋を出ていった

 

おいおいおいふざけんなよ

キス専門店だって言ってんのに何でこんな際どいパンツだけなんだよ

もしかして騙されてる?やっぱり俺騙されてる?

 

真っ白い部屋に際どいパンツと二人で呆然と立ち尽くしているとサトザキさんがカメラ片手に戻ってきた

 

「まだ?後詰まってるから急いで

写真だけは際どいの撮るけど接客では一切脱がせないし、自分から脱いだら即刻辞めてもらうから安心しなよ」

 

この写真のコが服を着て出迎え、キスまでしかさせてくれないというのが逆にエロいらしい

それを先に言えよと思いつつ感情を殺して言われるがままにワケのわからねぇポーズを何枚か撮影した

 

「ハイ終了、着替えたら上の事務所戻って

マネージャーから説明あるから」

 

さっさと着替えてカゴに放り込もうとしたが、脱ぎたてのパンツを他人に触られんのは気持ちわりぃなとジャケットのポケットに突っ込んだ

これは洗って返そう

 

薄暗い階段を上がって無機質な重い扉を開くと

 

「撮影お疲れ様でした、チイタくん

もう選んで加工は済ませたんだけど」

 

仕事の早いマネージャー様は顔にぼかしの入った俺のとんでもねぇ格好の写真を見せてきた

 

「これでいいかな?

それともこっちの方が好きですか?」

 

立て続けに、まだぼかしの入ってないすげぇ目付きの俺が椅子の肘掛けに股間を擦り付けてるように見える写真をみせてくる

 

「…最初ので」

 

ぜっっってー選ばせるつもりなかったろ!

てかその写真消せよ?!

 

「それでは今日からキミは

チイタくん21歳です

 

コースの説明はもうしてあるので、あとは接客しながら覚えていってください

 

頑張りましょうね」

 

 

HPにプロフィールが公開され、NEWという文字が名前の横に点滅し、もう一人の自分が生まれる

 

この日は奇しくも俺、倉持洋一の誕生日でもあった

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあチイタくんは205ね」

 

 

元々何かのオフィスだったんだろうこのビルの3階は事務所と待機部屋、2階にある全6室はプレイルーム、1階は受け付けと客が鉢合わせないように色々と改装されてるらしい

 

キャストは正面からは入らず非常階段から直接3階へ行くようになっていて結構しんどい

 

 

205号室へ入ると、無機質なビルから一転して中は普通のマンションの部屋のようになっていた

 

カーペットが敷いてあり、小さめのソファーと机、観葉植物、型の古いCDプレイヤーが何語かもわからねぇ音楽を延々とリピートさせている

あとは間接照明がいい感じに置いてあるだけだが、一人暮らしの1Kの部屋って雰囲気はある

 

部屋を少し暗めにし、パーテーションの奥に洗面台と棚、小さめの冷蔵庫があるのを確認する

 

確か薬でうがいをしてからキシリトールのガムでも噛んでろって言ってたな

あれ苦手なんだよなーグレープじゃだめなのか?

 

ぶつぶつ言いながら準備を済ませると着信音が響いた

 

 

「あ、チイタくん指名入ったからフロントからコール入るまでそこで待ってて」

「えっ?は?!」

 

初日の一発目だぞ?!

 

「本当は常連さんに付いてもらう予定だったんだけど突然指名入ってさ、すごいよ」

「えー…」

 

怖すぎねぇ?

 

「安心して、その人も常連さんの紹介だから」

 

どうやら俺を指名した奴は常連に連れられて来たようで、この店は初めてらしい

初めてで新人指名するって大胆な女だなと思いつつ、わかりましたと電話を切った

 

 

こんなとこに団体で来んの?

頭おかしいんじゃねーか?

この時間なら仕事終わりのOLか手のかかる子供がいない主婦とか?

あーせめてババアではありませんように…

 

 

そんなこんなで二人も座れなさそうな小さめのソファーに寝そべり、ショックを受けないために近所のババアを思い浮かべながらシミュレーションしてゲロを吐きそうになりながら時間を潰していると店から着信が入る

 

「指名の30分コース、バードです」

 

バードとはオプション無しという意味で、唇を合わせるだけのキスだ

 

プレイ内容で一番ランクが低くて正直稼げない、どうせやるなら倍以上の料金のドッグ(ディープキスあり)の方がましだ

 

 

マジやる気しねぇー!

どうせヤんなら黙ってドッグにしとけよ!!

 

 

一瞬でそんなことを考えながらワカリマシタと無になって電話を切った

 

はぁとため息をつきながら入口にスリッパを用意して相手を待つ

 

30分、たかが30分だ!こうなりゃどんなババアでもブスでも俺を指名してくれたんだから楽しんでいってもらうしかねぇ!

 

やるぞ!やってやる!

 

 

 

 

ピーンポーン…

 

 

 

 

むりやり設置されてるインターホンが、まるで恐る恐るというように鳴った

こうなりゃヤケだ、と精一杯の笑顔をつくって重いドアをガシャンと開く

 

 

「初めましてチイ…」

 

 

何回も頭のなかで練習したはずの言葉が続かなかった

 

 

「えっ、あ、の…中入っていい?」

 

 

客にこう言われるまで固まったままでいたことに気付いて混乱した頭をフル回転させながら、やっとの思いで

 

「ドウゾ」

 

この一言をしぼり出す

 

 

鍵を閉め、

客の靴を揃え、

再確認する

 

 

━━━オトコじゃねぇかっ!!!

 

 

完全にオトコ!!!!!こんなバカでけぇ靴の女がどこにいんだよ!!!!

 

ふざけんなよ…!

そういう店かよ…ッ!

俺のバカ…

 

勝手に女性向けのサービスだと思い込んでいた馬鹿な自分と、俺の勘違いに気付いていたはずなのになんの説明もせずにいたクソマネージャーに心の中で思いつく限りの罵倒を浴びせた

 

そんでもって更に驚いているのは、この男を俺が知っていたからだ

 

振り返るとソファーの前でソワソワと落ち着かない様子の男が携帯を確認しながら意味もなく画面を見ている

 

 

 

間違いねぇ

 

 

 

プロ野球選手の御幸一也だ

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