「おいカズヤ、面白いとこ連れてってやる!」
この先輩の誘いは大体しょーもないってわかってる
「あははは、俺ちょっといま禁酒してて」
「大丈夫大丈夫!酒はいらねーから!」
周りの先輩たちからドンマイと声をかけられた
一体どこに何しに行くんだ…
明け方までに解放されたらラッキーだと思わねぇとな…
二、三時間じゃ済まないと半ば諦めかけてたらえらく古びた商店街に連れてこられ、ますます不安が加速する
「実はこの奥にさ、とっておきの店があんだよ
ヤらしてはくんねーけど本当に好みのコが揃っててよ~」
「っえ!?風俗じゃないですか!まずいっすよ」
「いやいやいや!紹介じゃねーと場所すら教えてもらえないようなとこだし!広告も出してねぇから!」
あやしい、あやしすぎる、あやしさしかない
もうほんと最悪だ!こんなんで雑誌載りたくねぇよ…
帽子を深く被り、マスクを付けサングラスまでかけた俺をみた先輩は
「まぁまぁ、受付で写真見たら絶対来てよかったって思うぞ!」
俺もそうだった!と下品に笑う
本気でキレそうになったが、この一回だけ我慢して何もせずさっさと帰ろうと心に決めて、人気のない商店街の奥の角を曲がった
■■■
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
周りをいくつかの建物の裏口にぐるりと囲まれ、薄暗い閉鎖空間になってる場所にその風俗店はあった
想像していたような下品な建物じゃなく、なんというか『え、これ?』って感じだ
慣れた様子で入っていく先輩に付いていくと、中はわりと綺麗に改装されている
「お連れ様へのプランの説明はよろしかったでしょうか」
すぐに受付横のカーテンの奥へ通された
客同士が鉢合わせないようになってるらしい
「あー俺がしときますよ!」
人好きのいい笑顔で店員にそう言うと、それではこれを…と端末を俺に渡して受付に戻っていった
「ほら好みのコ選べよ」
渋々端末を覗き込んで大声を上げそうになるのを必死におさえた
「ちょっ、ちょっと、これ…っ!!」
━━━オトコじゃねぇか!!!!!
パンツ一丁の男のとんでもない写真がずらぁーっと並んでいて気が遠くなる
マジかよ…先輩こういう趣味かよ…マジかー…
「おいおいそんな目でみんなよ!違うって!俺ゲイじゃねーよ!」
こんなとこに入り浸ってるんじゃめちゃくちゃ信憑性がない
「俺だって最初はそうなったよ、なったけどな、ほんっと男でもイケんじゃんってなる位に自分の好みのコいるから!」
それをゲイっていうんじゃないのかと思いつつ、とりあえず見てみろとうるさい先輩に心底引きながら画面をスライドさせていく
あーーなるほどねー…顔にモザイク入ってても
可愛いとかイケメンとかわかる程度には揃ってんのなー…
うっわ俺よりデケェじゃんこいつ…たとえ何もする気がなくてもこれは無理だ…とりあえず無難な一番人気とかでいくか…
不本意ながら人気順に並び替えようとしたとき、パッと画面が更新された
「おっ、新人入ったな」
慣れた様子で端末を取り上げて操作する先輩
「あーなるほどなー、ほらよ」
自分は毎回指名してるコがいるからか、さして興味なさそうに俺へ端末を返す
「は…っ」
先輩が開いたままでいた新人の写真を見た瞬間、今までに感じたことのない衝撃が走った
モザイク越しでもわかる、こっちを睨み付けるような目
引き締まった男の身体のクセに男を誘うように危なげな腰のライン
その腰からしなやかに伸びる脚の野性味
細い顎にツンと尖った唇
完全にキた
ど真ん中ストレート
「決まったか~?」
「っ…はい、このコで、いいです」
このコが!!とは言えない
あんだけ嫌がっといて意気揚々と指名なんかできねぇ
「ほー、まぁ特技に野球って書いてるからな
話だけでも盛り上がるんじゃねーの?」
なに??!マジか!っしゃ!!
俺結構人気あるし、なんで御幸一也がここに~?!ってなれば
そこそこサービスも期待できる…
「そうムスッとすんなよ!新人でも教育されてっから野球選手が来たなんて言いふらしたりしねーよ!ま、今回は俺が無理に連れてきたしこのコースにしとくから許せって!な?」
俺の顔が相当険しかったのか、勘違いした先輩が今ごろになって気を使いメニューの一番ランクの低いプランを選択した
30分3,000円/バード/指名1,000
何てことしやがる!なんて言えずソワソワと見守ってると
ピロロン、と確定音が鳴る
「バードっつーのはな、ちゅっとするだけってことな」
「は?」
は?
ちゅっとするだけ??
「あれ?言ってなかったか?ここキス専門店なんだよ」
は??!
「あとあれだから、お触りがマジで禁止
えげつねぇほど禁止だから、手ぇ握るくらいまでな」
あーー?!??
安いとは思ったけどそんだけ?!?!手コキも無し??!
ガンガンにヤル気だったうえに金でイケるんなら交渉次第でその先も…と思ってた俺のパンパンに膨らんだ期待の風船がバチンと弾けた
「俺も先輩の紹介なんだけどよ、もう一人ゴルファーのやつと一緒に三人で来たのに、そいつ出禁くらってさ」
なにしたと思う?そう続ける先輩の言葉に俺はさらに絶望した
「抱き締めて服の上からケツ揉んだんだとよ」
それで…それだけで出禁…
しかも金は後でちゃんと払うからとプランを変えてディープキスしたのが一番やってはいけなかった事らしい
料金は完全前払制、勝手なプラン変更は即刻退場、そのつど追加料金を支払い会計を済まさなければならないのがこの店の確固たるルールだという
そんなんで稼げんのかよっ、なんなんだよ、ふざけんなよ!
そう叫びたかったが、そんなことしたら今すぐ出禁になることはわかったので大人しく『今日は俺の奢りだからな!出禁なんなよー!後でな!』 と、いい笑顔で出ていった先輩に『後で…』と返した
絶対奢りだから一番安いプランにしただろ…
すこし間をおいて店員に「この階段を上って一番奥の205号室です」と階段下まで案内された
はぁ、とため息を吐いて階段をのぼると殺風景なフロアに出た
こんなとこでキスだけしていくのか…やってらんねぇ
ぶつぶつ言いながら奥の205号室の前まで来て、無理矢理設置したようなチャイムを恐る恐る鳴らす
玄関の前で待ってたのか、すぐガタッと音がしてドアが開いた
「はじめまして、チイ…」
ドアからちらりと覗いたその姿を見ると、その瞬間に弾けたはずの風船が元通りになるどころか更にデケェ風船に変わって、しかもガスでプカプカと浮き出すような感覚になった
可愛い
可愛い
なんだこれ
可愛いじゃねえか
おい おーい なんだこれー
写真ではモザイクのかかっていた目元がしっかりと俺をみて見開かれている
気の強そうな目尻にヤンキー丸出しの眉がたまんねぇ
前髪で隠れてるけど絶対デコはつるんとしてて綺麗なはずだ、俺にはわかる
俺をみて固まったままでいるそのコに話しかけようとすると、俺は思ったより緊張してたのか、どもっちまった…かっこわるすぎ
「ドウゾ」
その無愛想な声が更にグッときた
まるで部屋にこっそり遊びにきたみたいなのがコンセプトなのか、普通の部屋のようなそこに立って年甲斐もなく童貞みたいにソワソワしてる俺
俺のあとを追って、そろっと寄ってきた気配にドキドキしてると
「あの、チイタっていいます
新人なんですけど、指名…ありがとうございます」
慣れてませんというのが伝わってくる程たどたどしくそう言うので、そんなんじゃ悪いおじさんに言いくるめられるぜ大丈夫かー!と心配になる
「俺、ここ初めて来たんだけど、なんか、すごいね」
なんじゃそれ
俺のばかばかッ
こんな時ばっかりは平気で恥ずかしいことを言える先輩を羨ましく思った
「すごいっすよね、俺もびっくりしてて…」
そう言って特徴的な笑い方をしたこのコを見て
「はっ、はっ、ごめっ、キスしていい??!」
我慢できなかった
めちゃくちゃかっこわるいし、なんかキモいのもわかってる
わかってるけどもうだめだ
「あ、えっと…は、い」
きょろきょろと目を泳がせたあと、じっと俺を見たと思ったら目を閉じて待ってるその顔があまりに可愛くて
「はーーっ、はーーっ、ちょ、ちょっとまってね、落ち着くわ」
かぶり付きそうになるのを必死に抑える
即刻出禁になんかなりたくねぇ
目を開けてキョトンとしたチイタくんは、だんだん真っ赤になっていって
「すいません、こーゆーのって、あれっすよね」
とモゴモゴなにか言ったと思ったらぐっといきなり顔が近付き
ちゅ…
唇がふにゃりと触れて一瞬で離れていく
「俺から、シなきゃですよね」
照れ隠しの笑顔でまた特徴的な笑い声をあげた
俺はそこから記憶がスパーンと飛び、気付いたら時間が来ていて
「それじゃあ、えっと、ありがとうございました」
バイバイとぎこちなく手を振るチイタくんに送り出され受付けのあるフロアに立っていた
「おーきたかカズヤ!どうだった?」
先にプレイを済ませた先輩がカーテンで仕切られたスペースから顔を出す
「案外よかったろ?まぁお前のことだから喋って時間潰してたんだろうけど」
興味あったら俺に声かけろよ!と笑う先輩と二人で店を出て離れた駐車場まで来た
「今から先輩らの飲み会に参加すっけどお前どうする?あー禁酒してんだっけ?今度は付き合えよ!じゃ!」
ひとりでペラペラと話しながら車を出す先輩を見送り、取り出していた車のキーをポケットに戻し、元来た道を戻り、人が居ないのを確認して奥の角を曲がり、目的地の扉を開き、受付けの男にこう言っていた
「あの、ここの一番偉い人と話せますか」