ようこそ木須岳通り商店街へ   作:デオク・レ・ダークホース

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ようこそ木須岳通り商店街へ6

「あ、あのこれ、チイタくんに」

急なプレゼントに驚いた様子の彼に

若い子に人気のあるブランドの袋を手渡す

 

 

◆ようこそ木須岳通り商店街へ◆

 

 

俺は帰りにあの店の店長へ、金はいくらでも払うからチイタくんを自分の専属にしてくれと直談判した

足繁く通おうか…とも考えたが暇なわけじゃないし、かといって急に時間ができた時に彼が他の男の相手をしていて無理、という状況はなんだかモヤモヤするというか、きっと俺もチイタくんもはじめての相手がお互いというのもあって特別に感じてる部分もあるし…

 

グダグダ理由をつけてるけど俺以外の客は取らないでくれ!と、気持ちが悪いことに思ってしまったのだ

 

俺は休みにトレーニングと本格的にカレーでも煮込んでみる以外に趣味もなく、もともと家賃と車にしか金の使い道のない男だと自覚していた

足元を見られたような金額を吹っかけられてもいい

こんな店で働いてるくらいだからきっと多少なりとも金に困ってるんだろう、とんでもない料金でも一括で支払って経済力をチラつかせれば俺の株も上がるかもしれない…という良くない考えもあったが、意外と良心的な値段を提示された

本人の意向に沿わない事があれば即刻出入り禁止で返金はなし、という事とオプション等は更に別途料金が発生することを条件に1ヶ月間お試し期間を言い渡される

この期間内にコイツは金になる、とかイケメンだし悪くないな、とかずっとこの人だけならいいのに…、なんて思ってくれるように頑張るしかない

店長が言うには彼は入店したばかりで慣れておらず、更に少々やんちゃで他の子よりもオプションは期待出来ないかもしれないと説明されたが、そんな事は承知の上だった

 

普段はカードしか使わないので一括で支払って帰ろうとすると、なんと初回は料金の内の半額を頭金として現金で支払うように言われた

まってくれそんな金額持ち歩いてねぇぞ、ということで二種類のカードに分けて現金をおろして本日三度目のご来店という必死さの甲斐あってか、幸運にもその日にチイタくんと運命の再開を果たせたというワケだ

 

あの日は店が管理しているらしい無人パーキングに車を停めていたが、流石に俺の車じゃ不安なのと、来てることが先輩にバレるのが嫌で今日は近くの駅までタクシーで来た

ほかの客と同じ方向に向かうのは気まずいなぁと思ったが不思議とそういうこともなく無事に辿り着き、フロントに行くと直ぐにこの前とは違う個室に通された

VIPルームらしい

風俗店のVIP…なんだかすごく恥ずかしい待遇だが、自分はお気に入りの男の子を金にものを言わせて買い上げる富豪のようなことをしてるので口を噤んだ

「VIPのお客様はサービスと致しまして、ご指名のキャストの写真が自由にご覧になれます」

差し出された端末を見て、衝撃に倒れそうになった

 

この前見た写真と違って顔にモザイクがない

そんでもって枚数がすげー増えてる

撮影したやつ全部載せてくれてんのか?

VIPルーム最高だぜ…

 

ずっと写真ばかり見てたら気持ちが悪い奴だと思われかねないし、おそらく学生であろう彼を、平日に夜遅くまで拘束せず帰してあげたいと考えているので時間も限られている

俺はスコアをチェックする時でもここまで集中しないぞという集中力でそれらの写真を目に焼き付けた

 

 

 

 

「え、俺に?開けても?」

チラっと俺に目を合わせながらお伺いを立てる仕草に、先ほど目に焼き付けた写真が過ぎる

「あっうん、えっと、ほらこの前パーキングでさ…」

そう、パーキングで運命の出会いを果たした俺は数日間ずっとあのパンツのことが頭から離れなかった

うんうん、と口角をくるんと上げて俺の話を聞きながらチイタくんが中身を取り出す

「あの、さ、こういうのが趣味なのかなって…」

持って帰るということは私物だったのかな、と考えて

あんなえっちなパンツどうやって買ってんだ?

まさか店頭?いやネットだよな、ネット!

なんて『男性用 下着 エロい』で検索して実は大量に購入してしまった

その中から一番お気に入りの下着を、これだけじゃキモいおっさんになると思ってブランドのキャップとかと一緒にその袋に入れて誤魔化している

しかし予想外に、よりにもよって忍ばせていたパンツを真っ先に取り出されてしまい

『 こういうのが趣味かなって』

とか言った俺の発言がとんでもねぇことになっちまった

 

違う、違うんだよ!パーキングであった時にキャップかぶってたから、それのこと言ったんだよ!あっダメだすげー顔固まってる!!言い訳すんのもウソっぽいしスケベオヤジにかわりねぇだろこの状況!!

 

「も…しかして、あれ自分のじゃなかった…?!ご、ごめん!キモイよね!」

 

キモイよ!!!!

めっちゃくちゃ気持ち悪いよ俺!!!あああ!!

しかもこれ個室で店員に中身確認されて、開いてまで見られなかったけど確実に普通のじゃないパンツだってバレてっから!

やっぱり言い訳したい!

 

これは冗談で、このキャップが?なんて言い出そうとした俺に、ふっと表情を緩めたチイタくんが

「ビックリしただけです…俺こんな感じなのに、こういう下着好きってバレたの、恥ずかしいし」

と神対応を見せる

元ヤンで今は猫被ってますって雰囲気の見た目のことを言っているのか、目を伏せながらそう言う彼に、その見た目でえっちな下着をはいているだと?そこが君のいいところだよ!なんて口が裂けても言えない

しかも、今度これはいてきますね、と照れ笑いしながら俺の手をそっと握りやがった

なんだ?!慣れてないって聞いたぞ!話が違うじゃないか!そんな営業トークしやがって!!と混乱してよく分からない怒りを感じていたが

「ありがとうございます、嬉しいです」

そう小さく笑って口角をくるんと上げられると、運動もしてないのにドッドッドと自分の鼓動の音が聞こえた

 

負けました

かわいいです

 

最初から惨敗してる勝ち目のない、勝手に始めた勝負の負けを認めてグッと締め付けられる胸と、よからぬ気配のする股間をそっと膝を軽く立てて隠した

ソファーで膝が当たらない程度に距離をとる俺の右手に重ねたチイタくんの手がもぞもぞと動くので、やめてください降参です…とその手に気を取られていると

「次会える時は、俺がなにかプレゼントしますね」

指を絡められ膝立ちになったチイタくんが顔を近付けてきた

 

ちゅ、と一回触れるだけのキスをされ、あまりの柔かさに興奮と感動で震える

この間は不意打ちだったし記憶が飛ぶという不甲斐ない結果だった

今度は、今度こそは残りの時間を楽しんでやるぞ

なんてったって前と違ってこれだけじゃないんだからな

オプションはまだ早いと思ったし、なにより嫌がられると困るので付けてないが、今回は口の中へお邪魔できる権利がある

 

これ以上気持ち悪がられないよう少しだけ顔を離して呼吸を整えていると、じっと目尻のつり上がった目で見つめられていることに気付いた

「あの…メガネ、どうします?」

「あっ、はずそうか…な…」

瞬時に応えたが、そうだ、チイタくんもこんなキスだけじゃ今日は終わらないってわかってて、そう聞いてきたんだと思うと全身がソワソワしてしまう

 

メガネを机の上に置くと

「目、どのくらい悪いんですか」

これ何本でしょ、というふうに指を顔のあたりで揺らしている姿がなんかグッときて、この距離なら全く問題なく見えるが、俺乱視なんだよなぁ?とよく見えないフリをしてみる

俺が適当なコトを言ってるとわかったのか

「へ?大変っすね」

と口調を少し崩して笑った

よかった、正直中指立てられるんじゃねーかと一瞬考えたけどお互いに固さが取れたと思う

「そー、大変なんだよ」

ニッと笑ってみる

腹黒いのがわかって笑顔が嫌味ったらしいってよく言われるけど、スケベオヤジに見えるよりはマシだろう

「ここらへんは?」

チイタくんが顔を少し寄せてきた

 

なるほどね、こういう駆け引きは苦手じゃねぇ

俺だって大人の余裕ってやつを少しは見せたい

「んー…まだぼやけてるかなぁ」

もう息のかかりそうな距離にいながら目を細めたりしてみる

 

「じゃあ…どこからだったら、見えます…?」

 

これはもう誘ってるだろうあぁそうだ間違いねぇ

でも俺だって今日は童貞みたいにがっつかないぜ

 

さっきチイタくんにされたようにツンとした唇に軽くキスをして、

額をこつんと優しくつけて囁く

 

「みえた…」

 

決まった

これは決まっただろ

これまで格好悪いとこしか見せてなかったけど今のは女だったら抱いてください状態だ

自分で言うのもなんだけど顔も身体も人気はあるが、肝心なのは声だと思ってる

今のはここ数年で一番TPOにハマった声だった、よくがんばった俺の声帯!

 

ふふん、と得意気でいるとチイタくんが本当に?と笑う

その声に少しだけ、からかいとは別の声色が混じっていたので

ごめんウソ、と俺もくすっと笑って

 

なにこれ

付き合った女ともこんなことしたことねぇぞ

めちゃくちゃいい雰囲気じゃね?

やったぞ俺

 

と心の中で大勝利と拳を振り上げたとき

 

俺の鼻筋に、唇と同じように気の強さの現れているツンとした小ぶりな鼻をすり寄せながら

「しってるし」

ずっと目、合ってたじゃん

そう言ってチイタくんが独特な笑い声を小さくあげた

 

 

 

負けました

 

 

 

ぐぐぐぐっと音が聞こえたんじゃないかと思うくらい喉が鳴って、手汗が吹き出た

 

ごめん、ごめん気持ち悪いよなごめんな、でも全部お前のせいだ!お前の!せいだからなー!!

振り上げていた心の中の拳を自分の頭にぶつけ、また飛びそうになる意識を奮い立たせた

目尻を面白そうにつり上げ、動揺する俺を見てしてやったりといった表情が可愛くて可愛くて

「く、くち、ちょっとひらいててねっ」

もう童貞みたいでもいい!

そうやって俺をからかって振りまわしてくれ!

そういう心境になった

 

ちゅっ、ちゅ、と数回軽くキスした後、彼がゆっくりと濡れた唇をほんの少しだけ開いたのが見えて、おじゃまします…と舌をそろりと驚かさないように入れると

「ン、っ」

なんとチイタくんもすぐに舌を合わせてきた

おあおお出迎えまで!

触れたのが舌だと分かった瞬間、全身が痺れるような感覚がして思わず声が出てしまった

 

あのンッて声は俺だ

 

チイタくんがキスしながら口角をあげて笑っているのがわかってカアァッと顔に熱が上がったが、もう格好付けても意味なんて無いので素直に照れておいた

それでも悔しいので、大人をからかいやがって?と強弱をつけながらどんなキスが好みなのか色んなキスをしながら探る

 

小さく何語かわからない音楽の流れる暖色の間接照明だけが淡く光る部屋に俺達の息遣いが響いて、二人の間で鳴る体液と空気がまざる音が頭に伝わり、手コキでも本番でもなく、それらよりもすごいことが今まさに起きているような気になる

 

唾液の味を知っている

触れることが許されていない服の下がどうなっているのかも知っている

どんな身体をしているのか知っている子の服を一枚も脱がせられずに、手以外に触れられずに、こんなキスだけはするなんて

今すぐに押し倒して全身舐めしゃぶってやりたいとか、させたいとか、そんなことしたらもう会えなくなるとか、嫌われたくないとか、嫌われてもいいからあの細い腰を掴んで思いきり揺さぶりたいとか、色んな葛藤と闘いながらキスしてるうちにフリーだった左手で無意識に首筋を撫でようとしていて、慌てて止めたのでその手は中途半端に行き場を無くしていた

横目にそれが見えたのか雰囲気でわかったのか、宙で固まってる手に指を絡められ、両手を繋ぎながら身体だけは少し離して軽く膝立ちをしているチイタくん

かなりきつい体勢かもしれない

 

くそ!なんで抱きついちゃダメなんだ!わかる、わかるけどキスしにくくないか?皆どうやってんだよ…いや絶対聞けねぇし先輩には聞きたくもねぇけど

 

「っは…チイタくんごめん、きつくない?」

俺が変わってやりたいが、いま姿勢を変えると変形している股間を突き出すことになってしまう

「ふぅ、大丈夫です、思ったより体力使うんすね

でも体力には自信あるんで」

一旦やめたいたキスをチイタくんがまた再開する

 

お、おおおお…そうかキスが好きなのかな?そんながっつかれると俺勘違いしちゃうよ…

 

 

 

 

そんなこんなで終了十分前のコールが鳴るまでインターバルを挟みつつ、指を絡ませながら体液を交換し合った

 

残りの時間で必死に股間を鎮め、気を付けて帰ってねとお互いに言葉を交わして軽く手を振って別れる

もう気分は最高潮で満塁HR打った時の興奮にも勝る勢いでタクシーに乗り込みすぐさま自宅へ帰って思春期かというくらい抜いた

 

野球も絶好調!と思った矢先、球団の二軍の選手とリハビリ中だった元一軍の先輩の不祥事が発覚

それから週末に入れていた予約を急に入ったチャリティーイベントでキャンセルすることになり、泣く泣く諦めることになった

その月はオフにも雑誌の取材とニュース番組のゲストに突然呼ばれて球団のイメージアップの為にも頼んだと言われ、愛想笑いで魔のイメージアップ月間を乗り越えてやると必死に闘うも、スキャンダルになるような事は厳禁だと夜の活動を制限された選手たちはみんなトボトボと自宅へ帰る生活がなんと三ヶ月も続いた

お試し期間なんてとっくに過ぎたが、俺はやけくそで予約をキャンセルした時に半年分を一括で払い込むことでチイタくんの予定をおさえ続けている

 

 

この頑張りが幸か不幸か後々俺を喜ばせることになるなんて、女子アナからのアタックをかわし苦手な子供たちとのイベントを必死にこなしていたこの頃の俺は知る由もない

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