インフィニット・ストラトス 世界への反抗 作:鉄血のブリュンヒルデ
「………んっ、んん…………っ!ここは?!」
見覚えの無い天井に、私は飛び起きた。
「医務室だ」
「お、織斑教官!」
「織斑先生だと言っているだろう」
教官の声は、私達に訓練をつけている時とは比べ物にならない程に穏やかだった。そう、まさにドイツで櫂と話していた様に。
「右手を見てみろ」
「え?」
教官に言われ、私は右手を見た。そこには大きな宝石が嵌った指輪が嵌められていた。
「これは、櫂の」
「詫びだそうだ。アイツ、死ぬ程後悔していたぞ」
「……………私のせいだ」
私があんな力さえ使わなければ………
「違うと思うぞ」
「あぁ、織斑か」
「一、夏?」
私は、酷く困惑した。あの時あんな目を向けられて、正直もう仲直りなんて出来ないとばかり思っていたから、一夏があんな穏やかな顔で話しかけてくれた事が、ただ嬉しくて。
「それと、あんまり自分を責めるな。そんな事してると、櫂が責任感じちまって立ち直れなくなるかもしれねぇし」
一夏は冗談めかして言う。だが、確かに櫂の性格を考えれば立ち直れなくなる程では無いにしろ、心に凝りを残す事となるかもしれない。
「そう言えば、凰とオルコットは?」
「アリーナで特訓中。結局中止になったとは言え、学年別タッグトーナメントに出れなかったからムシャクシャしてんだろうな」
そう言えば、結局あの二人を襲ったのは誰だったのだろう?私では無いことは確かだが、証拠も証言もあるらしいが。
「一夏、教えてくれないか?今回、私にかけられた容疑を。私はそれを晴らして、お前達とまた!「もう終わってるよ」え?」
「櫂が全部解いた。あれはファントムの仕業だったんだ」
「ファントム……」
聞き慣れた名前だった。櫂の口からや、ウィザーズと名乗る組織との会談の際にもその名前をよく聞いた。何より、ソイツはドイツ軍を一度襲撃ていたからな。
「ラウラ、本当にすまなかった!」
「っ?!一夏?!どうして頭を下げるんだ!」
「今回の件は、元はと言えば俺がファントムに気がつけなかったのが原因だ!あの現場を見る前に、強い気配を感じていたんだ。でも、二人がボロボロなのを見て冷静さを無くして……本当にごめん!」
何故ここまで一夏が謝るのか、分からなかった。確かに私は少し傷付きはした。だが、そんな事でこんなに謝罪するのか?
「一歩間違えれば、お前は死んでたかもしれない…」
………何かと思えば、そんな事か。
「なら気にするな」
「何言ってんだよ!俺達は、お前の死を招いたんだぞ?!」
「私は軍人だ。その位の覚悟無くして軍人は務まらんさ。それに、お前達が救ってくれただろう?」
そう。私は櫂と一夏、そしてシャルロットに救われた。いや、もっと多くの人に救われているんだろう。だから、私はまだ死ぬつもりは無い。
「でも!」
「一夏。私はお前達に感謝しているんだ。戦いの際に、お前と篠ノ之の会話が耳に入った。嬉しかったんだ。何も持たなかった私に、お前達がこんなにも沢山の物をくれた。それだけで、私は既に救われている。だから一夏が気に病む必要も、意味も無い」
私は務めて笑顔で言った。少しでも気を抜けば、涙が零れてしまいそうだからな。きっとここで泣くと一夏が確実に心配するだろうからな。
「ラウラ……」
「私は十分に救われた。だから、些細な怪我くらい気にしないさ」
この言葉を聞いて、一夏は涙を流しながら「ありがとう」と何度も繰り返した。
それからみんなの元を巡り、その度に謝罪合戦を繰り広げ、最後の場所へと向かった。
「ここにいたか」
生徒寮の屋上。月明かりに照らされるその姿は、まるで神や天使の様であった。
「ラウラか」
櫂は顔をこちらに向けずに、声だけで応えた。
私は櫂に伝えなければならない事がある。その思いは届かないかも知れない。でも、それでも伝えずにはいられなかった。
「櫂」
私は櫂の制服を掴み、顔をこちらに引き寄せた。俗に言うキスだ。これで私の気持ちを伝えるんだ。
「っ?!」
だが、それは櫂の指に阻まれた。
「もうちょい自分大切にしとけ」
櫂は呆然とする私の手を解き、頭をポンッと叩いて屋上の出口に歩いていく。
「ま、まってくれ!私は、お前の事が好きなんだ!心の底から、お前の事が!」
「多分それ勘違いだろ」
櫂は、何を言っているんだ?
「きっと二度も助けられた感謝とか、そういう感情を勘違いしてんだろ。それに、マジだとしても俺はやめとけ。俺は化け物だから」
アイツは、どうしてそんな悲しい事を言うんだ?自分が化け物だからとか、そんなの!
「そんなの知るか!私は、お前が好きなんだ!勝手に私の気持ちを決めつけるな!私は、ただお前が」
私は気持ちを伝えようと追いかけた。閉まりかけた扉に手をかけて勢い良く開いた。だが
「………櫂」
そこにもう、私の魔法使いはいなかった。