「…では状況を説明する」
どこかくたびれた様子で千冬は旅館の大部屋に集まった一夏と箒を含めた1年生の専用機持ち(ワンオフ・ユーザー)達に現時点において彼女が持つ情報を知らせた。
「現在、米開発の半無人IS『銀の福音』が先日”原因不明”の暴走を初め、この旅館目掛けて一直線に向かっている」
千冬の説明を受けた者達の反応は様々だった。
「そんな…」
自体の深刻さを重く受け止める一夏。
「はぁはぁ…」
一夏を襲う妄想で頭の中が一杯な箒。
「Oh my God…」
日本語能力をとうに喪失し、母国語しか喋れなくなったセシリア。
「ぜぇぜぇ…」
一夏のフェロモンを至近距離で浴び心肺停止にまで陥り、半死半生の状態で蘇生し呼吸機が手放せない鈴。
「ばぶばぶ」
クラスメイトからのハードな性教育を受けた結果、精神崩壊からの幼児退行を起こし、未だ回復の兆しのないラウラ。
「よしよし良い子でちゅねー…」
そのラウラを溢れる母性に突き動かされるまま、自分の子供のように世話を焼くシャルロット。
(………もう駄目だ…我が学園の戦力は既に半壊している…!)
千冬は今作戦の失敗をほぼ確信していた。飛車角落ちどころじゃない、こんな状態でどうやって軍用無人機を止めろというのか。千冬は頭を抱えた。
「ばぶー」
そんな混沌を極める作戦会議中に突如、赤子のような声が大部屋の中に響く、千冬は声の主に視線をやった。そこには親指をしゃぶるラウラと、それを抱き抱えるシャルロットが居た。
「よしよしラウラー…今おっぱいをあげまちゅよー」
突如制服の上を脱ぎだすシャルロット、千冬は彼女の肩に手を当て制止する。
「…おい、お前…さっきから何しているんだ?」
「何って…ラウラにおっぱいをあげないと…」
「…」
さも当然のように答えるシャルロット、百戦錬磨の強者である千冬すらたじろぐ程の狂気がそこにはあった。
「あ、あぁ…沢山与えてやれ…」
「はいっ」
戦乙女(ブリュンヒルデ)と呼ばれたこの身にも救えぬ者が居る、導けぬ者が存在すると悟った千冬は大人しくシャルロットの肩から手を引いた。
「HAHAHA! What you playing house or Charlotte」
英国のお嬢様とは思えぬ下卑た顔でシャルロットを囃し立てるセシリア、今の彼女よりまだスラムの物乞いの方が品性があるだろう。
「ご主人様の言うことが聞けないというのか一夏ァ…悪い子にはお仕置きだぞォ…!」
例の水〇敬ランドみたいな顔で一夏を襲う妄想をする箒、どうやら彼女の脳内では一夏を侍らせているようだ、もう彼女が正気に戻る事はないだろう。
(ナターシャめぇ…!!)
海を隔てた遠い国に居る今回の騒ぎの元凶に怒りの矛先を向ける千冬、実は既に千冬は今回の騒動の原因を把握していた。
それというのも先程、千冬が一夏達に説明をするその少し前、ナターシャ本人から千冬の電話に直接連絡があったのだ。
『千冬センセーすみませーん!!』
「この馬鹿がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
時計の針は冒頭から約10分ほど前に遡る、宛てがわれた部屋で千冬はスマホを耳に当て、電話の相手を怒鳴りつけていた。
『だって千冬センセーの弟さんの写真がエッチなのが悪いんですよぉー!!』
「貴様私の弟が悪いと言っているのかぁぁぁぁぁ!!!」
『ごめんなさーーーーーーーいッッッ!!!』
最早会話と言って良いのかわからない罵倒と謝罪の応酬、元教え子の凶行にぶち切れる千冬と必死に謝るナターシャ。
ナターシャが学園を卒業して早2年が経とうとしているが、ナターシャ自身、千冬と”また”こんなやり取りをするとは思わなかった。
「本当に変わらんなナターシャ…お前はいつも訳の分からんイタズラをしてほぼ毎日私に怒られてたよな」
『む、昔の話じゃないですかぁ…』
「あ?」
『スイマセン…』
ナターシャ・ファイルス、千冬が教師になってから初めて受け持ったクラスの生徒であり。彼女がIS学園を卒業するまでの3年間、色々と手を焼かされた問題児だった。
「まさかなーちゃんが今回の騒動の発端だったなんて」
「”まさか”じゃない、アイツしか居ないだろ、あの馬鹿全く変わらんな」
千冬は電話で散々ナターシャを叱った後通話を切った、項垂れる千冬と力なく笑う真耶、『なーちゃん』とはナターシャの学生時代のあだ名である。
弟のフェロモンの効果がここまでとはと、千冬は改めて我が弟の行く末を案じる。
(何とか対策をうたないと日常にも支障が出るんじゃないかアイツ…?)
今までの出来事の大半は学園内で起こったものだった、だが今回の騒動はこれまでのものとはスケールも深刻さも桁外れだ。何だよ人工知能すら暴走させる程の性的魅力って。
「とりあえず後でナターシャに一夏の写真を送った2組のハミルトンをシメておくとして…無人機をどうするかだな…」
「えぇ…」
「ところで気になったのだが私たち以外の教員はどうした?」
「…みんなお酒飲んで寝てます…」
千冬は今日何度目かわからないため息を零した、いずれにしろ今回の騒動は自分と真耶、そして専用機持ち(ワンオフ・ユーザー)の生徒数名で解決する他ない。
「既に2年の更識さんやその他上級生に連絡を入れましたが…」
「…間に合う訳がないか」
一応戦力の当ては他にも居る、居るが彼女らの到達を『銀の福音』が律儀に待つわけがない。
「四面楚歌とはこの事か…」
覇気のない顔で千冬は呟いた。
かくして、様々な不安要素を抱えたまま『銀の福音討伐作戦』は開始されようとしていた…
※作中出てきたワンオフ・ユーザーという単語は適当に作者がでっち上げた造語です。原作のネーミングセンスに寄せる形を取りました。