「さあ一夏、私の背に乗れ」
「おう…」
一夏は白式を展開し、先に自身の専用機を展開し待機していた箒の背に乗った。いくら作戦とはいえ男をおぶるなんて重くはないのかと箒に尋ねる一夏、箒は恍惚とした顔で返事をした。
「良いぞこの重み…一夏を感じられる…!」
杞憂だったか、うん。
「早く行かないと先行したセシリアが…」
「そうだったな!イこう一夏、しっかり掴まっていろよ」
(大丈夫かなぁ…)
不安要素が時間を追うごとに膨れ上がっていくのを一夏は感じていた、自分と箒がこの作戦の要だという事はわかっている。一夏は不安と悪寒を押し殺した、そうだ、俺がやらなきゃ誰がやる。
「よし!頼むぞ箒、俺を無人機の所まで運んでくれ!」
「応!!」
一夏からは見えなかった、ほくそ笑む箒の顔が。欲情に染まった箒の目が。
(この戦いの混乱に乗じて一夏をモノにしてやる………!!)
どさくさ紛れに一夏を手篭めにしてやろうとしているという魂胆を、一夏は読めなかった。
時間は『銀の福音』討伐作戦開始前まで遡る…
「束、お前何か考えはないか」
「え?」
作戦会議が開かれていた大部屋の隅でぼーっと突っ立ていた束に向かい、千冬が唐突に声をかけた。
紅椿の性能テストをしようとしている最中に今回の事件が起きた為、なし崩しに箒に着いてくる形でここまで来てしまった束であった。
「い、いやぁ私部外者だしー…」
我関せずを決め込み押し黙っていた束であったが、千冬はそれを許しはしなかった。
「何かないか?束」
元よりコミュ障気味の彼女だ、自分が場を引っ掻き回すのは慣れているが、自分が騒動に巻き込まれるのは慣れては居ないのだ。
「う、うーんどうだろうなぁ…」
言葉を濁す束、否が応でも集中する視線。期待に満ちた一夏たちの目が今は痛い。
「束さん!俺からもお願いします!何か、知恵を…」
「姉さん…!」
「Dr. Shinonono…!」
「ぜぇぜぇ…」
「ばぁぶぅ」
「おっぱいおいちいでちゅかーラウラー」
最愛の妹とその想い人の頼みだ、無碍には出来ない。後半の3人は見なかった事にしよう。かの天災にも哀れみというか、情けが存在した。
束は一息つくと、とりあえず戦力の整理を進言した。
「と、とりあえずさ…まずは…」
束の提案により、ひとまず満身創痍の状態の鈴と、幼児そのもののラウラ、そしてラウラの世話にかかりきりのシャルロットの3人は今回の作戦から外れる事となった。
これにより、残る戦力は一夏、箒、そして日本語を喪失したセシリアの3人となった。
戦力の半減を不安視する千冬だったが、もとより彼女らは戦える状態ではない。ここは大人しく束のプランに乗ることとした。
「それとさ、敵のスペックを知りたいんだけど」
「あぁ、それなら…」
『銀の福音』の性能の詳細を束に開示する千冬、元々技術者である束だ、こういったものには強い。束も本調子が出てきたのか、言葉に淀みが無くなりつつあった。
「ふんふん…高機動と広範囲殲滅能力の両立か…如何にもアメリカが作りそうなマシンだね」
「まあ軍事面に関してはあの国は未だ世界一だからな…」
「それと気になるのはこの無人機に搭載されてる人工知能だね、今回の件はそれが暴走したのが原因でしょ?」
「あ、あぁ…」
元教え子が弟のセミヌード写真を見せた事がきっかけとは口が裂けても言えない千冬だった。
「暴走しているとはいえ、今もその人工知能は稼働しているんだよね?」
「恐らくはな」
「問題はそこなんだよね、私の見立てが正しければ…この無人機の持つ攻撃能力より遥かに危険だと思うよ」
「…どういう事だ?」
「この人工知能は恐らく今のこの瞬間にも学習を続けている、ストッパーとなる人間が不在なんだもの」
自己学習機能『銀の福音』が持つ数々の武器の中でも最も危険な武器。学習の果てに待つもの、それは。
「多分、この無人機は学習を続けた果てに『進化』を遂げているんじゃないかな。今、まさにこの瞬間にでも」
「つまり…今、私たちが知る無人機のスペックは…?」
「古くなっているだろうね、可能なら今すぐにでも米軍に連絡して衛星写真でも送ってもらおう。何なら私が人工衛星ちょっとハッキングしようか?」
「いやそれはいい」
束がしれっと恐ろしい事を提案するが千冬はそれを拒否した、手段という物は選り好み出来るのであれば吟味するべきである。米軍からの情報更新と衛星写真の提供を頼むため、千冬は無線で米軍とのやり取りを行う。
「私だ、あぁ…至急衛星からの写真を………何?ジャミング?撮影不可?」
束の表情が曇る、どうやら『銀の福音は』想定を超える速度で学習と進化をしているようだ。
「どうやら情報にはない能力を発現させているみたいだね」
「ではこのジャミングは…」
「うん、間違いなく『銀の福音』本人から発せられてるものだよ、偵察も不可能となると…」
お手上げ、である。会敵するまで相手がどんな姿をしているのか、どんな能力を備えているのか。これではまるでわからない。対策のしようがないのだ。
作戦すら構築できない作戦会議に一体なんの意味があるのか、千冬は項垂れた。
「まあ…とにかく、やれる事からやってみようぜ!千冬姉」
項垂れる千冬を励ますかのように、一夏が言った。普段なら「織斑先生と呼べ」と訂正するところだが、今回ばかりは一夏の明るさに救われた。
「そうだな…よし、まずは偵察からだな…こちらに来る事は既にわかっているのだ、なら進行ルートは自ずと割り出せる………オルコット!」
「YES!」
元気よく返事をするセシリア、なんだかすっかりステレオタイプな漫画に出てくる白人みたいになってしまったが、これでも専用機を任される立派な代表候補生だ。頼まれた仕事はきっちりこなすはずだ。
「確かお前には先日、本国から専用機の高起動型パッケージが送られて来ていたよな?」
千冬の問いにセシリアはサムズアップをしながらネイティブな発音で答えた。
「Strike Gunner!!」
最早まともな文法すら忘れたようだ。知能まで低下してないかコイツ、まあやる気は感じられる、今はそれで良しとしよう。
「では次に…篠ノ之」
「は、はい!」
些か緊張した様子で箒が返事をした。
「お前には織斑の運搬を頼みたい」
「運搬…?」
「そうだ」
言葉の意味はわかるが意図まではわからないといった顔の箒、千冬は説明を続ける。
「現時点で無人機に対し有効な打撃を与えられるのは織斑の白式が持つ『零落白夜』だけだろう」
零落白夜、それは一夏の専用機『白式』の唯一にして最強の装備。自身のエネルギーを消費する代わりに、ISのシールドバリアを無力化する強力な武器だ。
もっと細かい設定は原作を読むかアニメを観るか、最悪他の二次創作でも読め。作者はもうこれ以上書くのがめんどくさい。
「つまり…俺がその無人機にトドメを刺せってことか…」
「零落白夜の消費は激しい、従って万全の状態で白式を無人機の前まで送り届ける必要がある」
「私が一夏を無人機の所まで…」
「ただ運ぶだけとはいえ危険なのは変わりない、改めて確認するぞ篠ノ之。覚悟は…あるか?」
真剣な面持ちの千冬、ISの絶対防御が存在するとはいえ、暴走する軍用機の相手をするのだ。
しかし箒は、迷わなかった。その目には覚悟の光が灯っていた。
「ヤります…ヤらせてください…!」
これ以上とやかく言うのは無粋かと、千冬はここで話を切り。作戦開始の号令を上げた。
「よし…作戦を開始する!オルコット、まずはお前が先行し、威力偵察を行え!その後直ぐに織斑と篠ノ之も駆けつける!無理はするなよ!」
「Yeaaaaaaaaaaaah!!!」
雄叫びを上げ、大部屋を走って飛び出すと胸をゴリラのようにリズミカルに叩きながら専用機を展開するセシリア。そのままの勢いで飛翔し無人機の元へと向かった。
ネアンデルタールだったかクロマニョンだったか、千冬は学生時代の世界史の教科書に載っていた原人の姿をセシリアに重ねた。もう日本語が話せないどころじゃない、あれはもう原人と変わらん。一体どこまで退化するというのか。
「ぜえぜえ…」
「ばぶー」
「はーいラウラたんおしめかえまちょーねー」
こいつらは…部屋に帰ってもらおう。
かくして作戦は決行に移されるのであった。
作戦開始からおよそ30分、先行したセシリアは間もなく無人と会敵しようとしていた。
「Yeaaaaaaaaaaaah!!!!」
絶叫しながらゴリラの如く胸を叩きながら、高速で飛行するセシリア。何が彼女をここまで退化させたのか。あ、一夏のフェロモンか。
「Come on!!」
ISのハイパーセンサーを介してセシリアの網膜は無人機の姿を捉えた。ライフルを構え、BTを展開し、臨戦態勢を整えるセシリア、流石に武器の扱いまでは忘れていなかったようである。
「Come on Bitch!!」
汚いスラングを吐きながらスコープを覗き込み、指先をライフルの引き金に添えるセシリア。もうこの女の何処がイギリス貴族の令嬢だというのか。
「Come on Come on Come on…!!」
セシリアは待つ、鉄で出来たビッチを。皆が楽しんでいた臨海学校をめちゃくちゃにしたビッチを、今か今かと待ち構える。
そして…
「Hey Bitch!!」
ライフルの引き金が引かれ、銃口から閃光が『銀の福音』目掛けて光の筋を描きながら飛んでいった。
一夏・箒ペアがセシリアと合流するまであと9分11秒。
この作品におけるセシリアのポジションは映画でたまに見るいわゆる面白黒人枠です(白人だけど)