「Hey Bitch!!」
セシリアの叫びと共に、ライフルから閃光が飛ぶ。文字通り光速で標的である無人機『銀の福音』目掛け一直線に、矢のように。
「Did you do!?」
間髪入れずセシリアの専用機『ブルーティアーズ』のハイパーセンサーが『銀の福音』への攻撃命中を報せる。
セシリアは警戒を怠ることなく、再度スコープを覗き込み。無人機の動向を観る。これで怯んで帰ってくれるのであれば有難いが、相手は高度学習型人工知能と多数の火器をふんだんに搭載したモンスターマシンだ。
「…Fuck」
『銀の福音』はその速度を変えず、一直線にセシリアのいる空域にまで迫ろうとしていた。
「Shit!!」
セシリアの駆る専用機はミドルレンジからロングレンジでの戦闘を想定した機体だ、接近戦は不得手としている。セシリアは急ぎ距離を取るために機体のスラスターを吹かし、再度狙撃を試みる。
『イチカ!イチカ!』
「!?」
『ブルーティアーズ』のハイパーセンサーがセシリアの鼓膜にノイズ混じりの声を届かせた。それが『銀の福音』から発せられてるものだとセシリアが理解するのはさほど時間を要さなかった。
『銀の福音』が、作戦前に千冬から知らされたスペックとは大幅に異なる速度でセシリアに迫る。それは無人機の人工知能によりもたらされる進化を既に遂げている事を意味していた。大きさも事前に知らされていたものを遥かに超えた巨体だ。
そして、何より。
「キモ!!」
『銀の福音』度重なる進化を続けた現在のビジュアルは、セシリアに自身が忘却した日本語を僅かながら思い出させる程に難があるというか、ハッキリ言うとキモかった。
その姿を簡潔に言い表すなら、翼の生えたタコだろうか。数多の触手から粘液を垂れ流すタコ。
英語圏ではデビルフィッシュとも呼ばれ、生理的嫌悪をもって唾棄される生物だ。そんな生き物を模した巨大なモノがセシリアに向かって猛スピードで迫る。
「No!No!!No!!!」
半狂乱になりながらライフルとBTを乱射するセシリア、無理もない、彼女はそんなタコを嫌悪する文化圏の出身なのだ。
『銀の福音』が触手をセシリアに向かって延ばす、ぶちゅぶちゅとした粘着質な音を伴って迫り来る触手はセシリアに地球外生命を連想させた。
「Nooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!!」
絶叫しながら更に『銀の福音』に対する攻撃を激化させるセシリア、しかし彼女の攻撃の全ては触手の表面に隙間なく張り巡らさた吸盤のようなものに弾き返されており、表面を僅かに焼く程度のダメージしか与えられていなかった。
「Ooooooooooooooooooooooooooooooou!!!!!!!!」
『銀の福音』の触手がセシリアに触れるまさにその瞬間、白い閃光が対峙する双方に割って入るように飛来した。白刃が触手を斬り捨てる、刃の主がセシリアに向かって振り向いた。
「大丈夫かセシリア!?」
己の専用機を纏った一夏がセシリアの安否を確認する。セシリアはその整った顔を蒼白にしながらも、ライフルを両腕に抱きながらカクカクと首を縦に振った。その尋常ではない怯え方に一夏は無人機への怒りを燃やす。
「よくもセシリアを…!」
そして一夏は『銀の福音』に向き直り、零落白夜の切っ先を向けた。そこで一夏は改めて無人機の現在の姿を確認する事となる。
「キモッ!!」
無人機の姿を見た一夏の第一声は奇しくも数分前にセシリアが放った言葉と同じものだった。
「全く一夏め!無理に飛び出して…!」
箒はセシリアの危機に居ても経ってもいられず飛び出した一夏に悪態をつきながら、その後を追う。
その途中に箒の搭乗する『紅椿』に通信が入り、箒はそれに応答する。通信の相手は千冬だった。
『どうだ篠ノ之?無人機の姿を確認したか?』
「それが一夏が先に飛び出してしまって…!」
『何?飛び出した?先行したのかアイツ』
「セシリアのピンチに居ても経ってもいられなかったみたいで…」
『あのバカめ…!相手は最早どんな武器や能力を持っているかわからんというのに!』
他人の危機に手を差し伸べられる、それは平時では美徳とされるものだが今は状況が状況だ。
千冬は頭を捻り、現状で箒が可能な行動を指示した。
『よし、篠ノ之。お前も至急織斑の追い、合流と同時にそのままヤツの支援に当たれ!』
「わかりました!すぐにイきます!」
『それと無人機の姿を確認したらこちらに現在の姿を映像でも画像でもいいから送ってくれ!このまま相手の姿かたちもわからんのでは埒があかない』
「はいっ!」
箒は大声で返事をすると千冬からの通信を切り、一夏とセシリア、そして『銀の福音』がいる空域までバーニアを吹かし、急行した。
(待ってろよ一夏ァ!すぐにお前を助け、そして犯してやる!!)
限りなく邪な感情を抱えながら。
「気持ち悪ッ!!!」
一夏は作戦開始前に見たデータと全く異なる『銀の福音』の姿に混乱とその生理的に無理な外観に鳥肌を立てながら迫り来る触手を斬り捨てる。
「Fuck!!!!」
セシリアも愛する一夏が合流してくれたからか、幾許が精神的に安定し、冷静にライフルとBTによる射撃を続ける。相変わらず英語しか喋れないが。
一夏とセシリアの2名による斬撃と射撃を織り交ぜた苛烈な攻撃。しかしそれ等はおびただしい数の触手に阻まれ、肝心の『銀の福音』本体に未だ届かないでいた。
「クソっ数が多すぎる!」
粘液を撒き散らしながら迫る触手を斬りながら一夏は焦る、このままではこの気持ちの悪い触手に押され、『白式』のエネルギーが尽きてしまう。セシリアの『ブルーティアーズ』も同じだ。一刻も早くコイツを倒さないと、絶対防御があるとはいえ下は大海原だ。無事で済むかどうかはわからない。
「気持ち悪いんだよォ!!」
怒りと焦りが一夏の動きを大振りにさせた、それがいけなかった。
「!?」
そこに生じた隙を『銀の福音』は見逃さなかった、触手が一夏に殺到し、手脚に巻き付き拘束し、一夏の身動きを塞ぐ。
「うわぁぁぁッ!!」
びちゃびちゃと粘液を吸盤から噴き出しながら触手が一夏の全身に這いずり回る、粘り着く触手が生理的嫌悪を煽り、一夏は全身をバタつかせて触手の拘束から逃れようとするも凄まじい力で締め上げられ、一夏を逃さんとする。
「One summer!!!!」
ライフルを構え、一夏を救出せんとするセシリア。しかし…
「!?……shit!!」
触手が一夏を拘束したまま、ゆっくりとセシリアの射線上に掲げられる。セシリアはすぐさまBTを飛ばし、『銀の福音』の正面以外からの攻撃を試みる。しかしそれらの攻撃全ては触手に阻まれ完封される。仮に本体に届いたとしても、シールドエネルギーに防がれたであろう。
「Holy shit!!」
セシリアは諦めずに『銀の福音』の周囲を旋回し、隙を探る。だがそれを妨害せんと無人機は触手を大きく振り回し、粘液を撒き散らす。
「Oh my God!!」
セシリアの顔面に粘液がべっとりと付着し視界を塞ぐ。ISにはハイパーセンサーがあるものの、搭乗者が目を瞑ってしまってはそれらの機能も意味を成さない。
セシリアは急いで左腕に装着されているISを部分的に解除し、顔を拭おうとする。視界の塞がれたセシリアの鼓膜に『ブルーティアーズ』からの警告音が聴こえた。接近する機影アリと。
「!!」
顔を拭き終え急いでライフルを構え直す。セシリアの回復した視界に映ったのは無数の触手がその先端で自身に殴りつけるまさにその瞬間だった。
「Intercep…!」
セシリアが接近戦用装備を展開したのと、触手の大群に呑まれるのはほぼ同時だった。
触手プレイって良いよね!(血走った目)