「どういう事だ!?一夏とセシリアの反応が消えたぞ!」
箒の悲鳴にも似た叫びが機影ひとつ無い空にこだまする、『紅椿』のハイパーセンサーから先行した2機の信号が消失し。反応が消え早3分、最早一刻の猶予はない。箒の脳裏に最悪の状況が予想される。
「あぁ…ッ!一夏ァ!!」
『ほうき…たすけてぇ…』
箒の妄想の中で本物よりやや幼い姿の一夏が箒に助けを求める。瞳に涙を滲ませた顔は箒の庇護欲を煽り立てる。
『ほうきぃ…』
「待ってろよ一夏ァ!お姉ちゃんが助けてやるぞォ!!」
箒のここ数日の夜のお供はショタコン物だった。
「や、やめろぉ………!」
『銀の福音』に囚われた一夏は触手たちの慰みものにされていた。その身に纏っていた『白式』は既にエネルギーが底をつき解除され待機状態となったものも触手によって取り上げられていた。
「くっ…あ………ッ!」
一夏のISスーツはボロボロに破け、その隙間から触手の吸盤からさらに細く長い触手が侵入し一夏の穢れひとつ無い躰をその粘液で蹂躙する。
くちゃくちゃとISスーツと皮膚の間を這いずり回る小触手、粘液がそれらの動きにより白く泡立ちその粘性を増す。おぞましさに一夏は身を震わした。
「ふっ…うぅぅぅ…っ!」
小触手が敏感な粘膜に触れる度に一夏は身を捩らせ、どうにかこの状況からの脱出を試みる。しかし一夏の四肢を拘束する触手がそれを許しはしない。
「ぐぁぁぁッ!!」
触手にまるで万力のような力が込められ、一夏への拘束はさらに強固なものとなる。『銀の福音』は一応一夏に対して後遺症が残らない程度には加減はしている、しかし骨と筋が可動範囲限界まで伸ばされる激痛は一夏の躰を痛めつけるには十分な物だ。
「くそォ…!!」
せめてもの抵抗か、一夏は自身の躰に這い回る触手の主、この世のものとは思えぬ化物へとその姿を変えた『銀の福音』を睨みつける。
『銀の福音』は先程から一夏に対する陵辱をまるで観察するかの様に見ていた。肉の如く有機的に盛り上がった体表からひょっこりと飛び出た顔とおぼしき部分。
一夏はそれに見覚えがあった、作戦前に千冬から開示された『銀の福音』が進化を遂げる前の、ヘルメットで覆われた頭部だ。
そこだけが変化せず、触手に嬲られる一夏をじっと見つめているのだ。
『………』
銀の福音は一夏を捕らえてから終始無言だった、まるで顕微鏡で微生物の反応を確かめるような無機質さが酷く不気味で恐ろしかった。でも、一夏はなけなしの勇気を振り絞って、涙を滲ませて『銀の福音』の物言わぬ面を睨んだ。
『………良い』
「へ?」
唐突だった、先程から全く言葉を発しなかった『銀の福音』が喋った。「良い」と。
一夏は触手による責めを受けているのも忘れ何とも間の抜けた声を上げた。面が一夏に迫る、ヘルメットに覆われた面が、粘液で濡れたべとべとの面がゆっくりと首を伸ばして近づく。声にもならない悲鳴を上げる一夏。もう何が何だかわからない。
『美しい』
「は?え?は?」
目を白黒させる一夏、恐怖と混乱はもうピークに達していた。そんな一夏の事などお構いなしに『銀の福音』は流暢な日本語で一夏に語りかける。
『一夏、お前は美しい』
「へ…へぇ??」
頭が全く回転せず間抜けな返答しか出来ない一夏。『銀の福音』は尚も語りかける、機械とは思えぬ抑揚のある何処か熱の篭った声。
『一目見たときからお前に恋していた、一夏』
「こい?いい?」
痛みと恐怖で混濁した今の一夏の脳では『銀の福音』の発する言葉の内容の大半を理解出来ない。『銀の福音』は更に一夏へ囁く。一世一代の愛の言葉を。
『お前が好きだ、一夏。私のものとなれ』
「…?…?!…!!!…!??!」
少しずつ思考能力が回復してきた一夏、先程の『銀の福音』の言葉を反芻し、そしてようやく理解した。
「な、なんでぇ!?」
『もう私とお前の邪魔をするものは誰も居ない、さあ。一夏、ひとつになろう…お前と交わり、私は………!!』
「うわぁ…!うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
一夏は半狂乱になりながら必死に逃げようとするも、結果は先と同じだ。逃げ場のない恐怖が、一夏の心を塗り潰す。
「あ…」
『一夏…!』
触手たちが一夏の躰に殺到するまさにそのときだった。
「一夏ァァァァァァァァァァ!!!!」
紅い閃光が触手の群れを切り裂き、一夏の元へと舞い降りた。
「ほ、箒ぃ!」
一夏は助けが来た安心感に思わず顔を綻ばせた、今の一夏には箒が救世主にすら見えた。デカパイ忍者改め、メシア・箒が降臨した瞬間だった。
『銀の福音』が箒を睨む、その顔に目はないが一夏には何故かわかった。先程まで嬲られている姿をガン見されていたからだろうか。
『おのれ…我ら二人の婚儀を邪魔するか!!』
怨敵を見上げ絶叫する『銀の福音』と、想い人を辱めた空飛ぶ肉蛸を無言で見下ろす箒。
箒は視線を『銀の福音』から外し、粘液塗れの一夏の方を見た。
「一夏…」
「み、見ないでくれ箒…」
顔を伏せ両腕で自身の肩を抱く一夏。身に纏っているISスーツは所々が破けており、その隙間から覗く白い肌が痛ましくも艶めかしい。
その姿はまるで戦に敗れ陵辱を受けた姫騎士のようだった。蠢く小触手のせいで白く泡立った粘液に濡れた姿がその連想を容易なものとしていた。
「よくも一夏を…!!」
煮え滾る怒りを共に、箒は両手に握る二振りの刀を構える。『銀の福音』は既に箒に切り捨てられた触手の再生を完了させていた。ぐちゃぐちゃと粘つく音がハイパーセンサー越しに箒の耳に届く、その音はまるで箒を嗤っているかのようだった。
箒は耳に届く不快な音を振り払うかのように、刀を振るい気を引き締める。そこへ通信が入る、『銀の福音』のジャミングが最も強いこの空域でだ。何事かと驚く箒の耳に聞き慣れた女の声が聴こえた。
『もすもす箒ちゃん!?やっと繋がった!』
「姉さん!?」
声の主は他でもない箒の実姉、束だった。何故姉さんがと疑問を浮かべる箒に束は返答する。
『ジャミングの周波数を割り出してそれに合わせたら何とか通信出来たんだよ!この束さんに不可能はないのだー!』
『束そんな事は後にして……おーい篠ノ之!すぐにデータを送ってくれ!』
僅かな時間でそれをやってのけた実姉の規格外さに箒は改めて畏怖する。しかし今はそれ所ではない、急ぎ千冬と束に『銀の福音』の現在の姿と、現認できる能力全てのデータを送った。
『『キモッ!!』』
ハモる千冬と束の声、奇しくもそれは一夏とセシリアが『銀の福音』の姿を見た第一声と同じだった。
箒と『銀の福音』が対峙する空域から遠く離れた旅館の大部屋、軍事施設もかくやと言うほどの機材が運び込まれ。作戦本部としての機能を果たすには充分な用意がされている。
千冬と束、そして真耶が箒から転送された『銀の福音』を確認する。
「気持ち悪ッ!何コレ!?」
その余りに醜悪な容貌に絶叫する束、ISの生みの親たる彼女すらドン引くあんまりな姿。忌み子というのはまさに今の『銀の福音』にピッタリな言葉だろう。
「…っ」
百戦錬磨の猛者たる千冬もやはりその姿から来る生理的嫌悪を抑える事が出来ないのか、思わずそのデータから目を背ける。
「」
真耶に至ってはもはや失神してしまっている。これでこの作戦室に残るのは千冬と束の二人のみとなってしまった。
「これはちょっと束さんも想定外というか………キモいなぁ…」
「篠ノ之!そちらの周囲に織斑とオルコットは居ないか!?先程二人の反応が消えて以来こちらからは何の感知も出来なくなってしまって…!」
『今一夏は無人機に囚われています!セシリアの方は確認出来ていません、そちらに映像送ります!』
触手に四肢を拘束され白濁に塗れた一夏の姿が作戦本部に居る千冬と束の目の前にあるモニターに度アップで映し出される。
「エロっ!!」
「あの馬鹿…!………エロッ」
束謹製の第4世代ISのハイパーセンサーによるアダ〇トサイトも真っ青な高解像度の高画質エ〇動画、ご丁寧に音声まで拾っていると来た。
『あっ…あぁぁ…!』
「いっくんエロッ…!!」
「一夏ー!やめろー!!嫁入り前だぞー!!!」
突如もたらされたインモラルかつフェティッシュな一夏のあられもない姿に混乱する二人、『銀の福音討伐作戦司令本部』はここに来て機能不全に陥ることとなる。
「姉さん?織斑先生?あの、もしもし?もしもし?」
作戦本部からの通信が途絶し途方に暮れた箒はオウムのように同じ言葉を続ける、それに答える者はいなかった。ジャミングが更に強化されたのだろうかと箒は勘ぐったが、とにかく今、ここに居る健在な戦力は箒ただ一人しかいない。
援護も救援も支援も望めない状況で一人でこの怪物を倒さねばならない。この圧倒的不利を招いたのは他でもない箒自身なのだがデータを送れと言ったのは千冬の方であり、その千冬も状況の鮮明化を求めての指示である。箒はそれに応じただけだ。誰も悪くは無いだろう、もはや不運と言っていい。
強いて誰が悪いと言えば先程からやたらエロい姿を晒している一夏だろうか?いや、触手責めを受けたお前が悪いと言うのは余りに酷か。
「もう私一人しか居ないか…」
箒は渋い顔をしながら俯く、その危機的状況を嗤うように触手の群れが踊り跳ねる。一夏も未だ拘束されており孤立無援の絶望的な危機に立たされた箒。
「…ふふ」
だが箒は。
「ははは…」
この窮地に。
「ふははははははははははっ!」
声高らかに。
「はははははははははははははははは!!!」
笑った。
「ほ…箒?」
一夏は気が狂ったかと心配そうに箒を見る、『銀の福音』も敵の突然の異変に何事かと触手の動きを止め、箒を観察する。
「むしろ好都合だ…!」
「え?」
『何?』
「だってそうだろう?ココにはもう私と、一夏とお前…何だっけ、『銀〇こ』だったか?私を含めた三人しか居ないという事だ」
おかしい、何かが変だ。一夏の第6感が今自分の身に降り掛かっている不幸を遥かに凌ぐものが間近に迫っている事を告げていた。一夏の全身の毛穴から汗が滝のように吹き出る、ひとつだけハッキリと言えるのは、この危機を終えても自分に安息は訪れないという事だけだった。
「つまり、お前…『銀だ〇』を倒せば、もう私を阻む者は居ない!一夏をものに出来る!!」
一夏の脳裏にあらゆる言葉が浮かぶ、王手、詰み、チェックメイト。その言葉に共通するのはゲームの終わりを意味している言葉だという事だ。
何時からだ、一体何時から”詰んだ”のだろうか。強いて言うならば、幼い頃のあの日。篠ノ之箒という性欲魔神と親しくなってしまったときからか。
「イくぞ『銀〇こ』ォ!!お前を倒し!そして一夏にあんな事やこんな事をしてやるぞォォォォォ!!!」
一夏の意思を完全無視して戦いは最終局面を迎えようとしていた…
性欲魔神VS性欲銀蛸
姫騎士イチカを巡る戦いの行方は如何に…