おかしい、何かが間違っている…こんな内容の小説より他にもっとランキング入りするべき小説はあるはず。
あ、後ポロリもあるよ♡
校舎の屋上から双眼鏡を使ってアリーナ内で繰り広げられる戦いを観察している黒いフード姿の少女。彼女の着ている衣服の胸ポケットに仕舞っておいた端末から振動が響いた。
「…今いい所なんだが…」
少女は鬱陶しそうな様子で端末を取り出し、呼び出しに応答した。端末を耳に当てるといくら若作りしようとも加齢を隠せないババアの低い声が聴こえた。
『M、今どこにいるの?』
「…スコール、私は今…」
『すぐに帰ってらっしゃい、お母さん心配だわ』
また始まったとフード姿の少女『M』はため息をついた、Mの現在の上司である『スコール』は妙な癖のある女だった。見込み(スコールの視点から)のある歳若い女や若い男を見るとつい”構ってしまう”悪い癖が。
「スコール、もう何度言ったかわからないが私は…」
『まあ!お母さんがこんなに心配しているのに!』
「…」
話が通じない、今Mとスコールは同じ言語を話している筈なのに、その意思疎通には大きな困難を伴っていた。
Mはとある目的の為に亡国機業に入ったが、こんな頭のおかしい女が居るなら他の有力な組織に入るべきだったと己の浅はかさを呪った。
『ほら、オータムも心配しているわよ』
『Mー!早く帰ってこいよー!今日の晩ごはんはカレーだぜ!』
「………」
オータム、亡国機業におけるMの同僚でスコールの恋人。そしてスコールの性癖によって”壊された”哀れな女。
Mがまだ亡国機業に入ったばかりの頃は粗暴ではあったがまだ辛うじてまともだった。少なくともMをカブトムシ取りに連れ回すなんて子供みたいな事をしない程度には。
『早く帰ってこないとオータムが全部食べちゃうわよ』
「スコール、今私は…」
『お母さん待ってるからね』
その言葉を最後にスコールは通話を切った、端末を仕舞うM、その後ろ姿は年齢には余り見合わない疲れが見て取れた。
「…少なくともあの出来損ないを始末するまでは帰れん…」
お…スコールの言いつけを破ってでも果たさねばならない目的の為にMはわざわざここ迄来たのだ、今更引き下がれるかとMは目的達成の意志を固めた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
「ウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホ」
アリーナの熱狂は変態とゴリラの凄まじい戦いにより更に加熱しようとしていた、熱が熱を生み、その熱が更なる熱を生む。
剣と拳のラッシュによるダメージが両者に疲労という形で蓄積され始めた頃、一夏と鈴の戦いが静かに始まろうとしていた。
「ゲホゲホッ…喰らいなさいッ」
鈴が咳き込みながら放ったのは彼女の専用機『甲龍』の特殊兵装『衝撃砲』だ。
ちなみに甲龍と書いてシェンロンって読むんだって、おかしいね。
「くッ!」
一夏は躰を翻してそれを回避した、姿の見えない不可視の弾丸を幼少期から学んでいた武術由来の巧みな体捌きで躱す一夏。
反り上がり、翻る一夏の躰を包むのは四肢”のみ”を硬質ナノマシンで覆い、そして胸と胴とち…下腹部を衝撃の一切を吸収する透明ジェルスキンを内包する専用ISスーツだ。
しかしそのままでは一夏の大切な部分が透明故に丸見えになってしまう為、透明ジェルスキンの部分、胸とちん…下腹部を辛うじて紐ビキニで隠しているだけというとんでもねェ位にスケベな姿だ。
そんな姿をした少年がまるで少女を惑わすかのような動きをするのだ、無論一夏本人が意図してこのような動きをしている訳ではない。偶然だ。
「!?………ッッッ」
見る者全てを魅了する艶やかな姿に鈴は鼻血を垂らしながら魅入った。無自覚なフェロモン攻撃が鈴の呼吸器を襲う。
鈴にしてみればたまったものではない、あのスケベボディの持ち主が様々な角度から自分に躰を見せつけながら誘惑するのだから。
「どうした鈴!そんな攻撃じゃ当たらないぜ!」
お前のせいで狙いがまともに付けられないんだよと鈴は声を大にして叫びたかったがそれが出来ない、最早このフェロモンは凶器だった。剣一本しか武装のない『白式』に新たに備わった凶器。それが一夏のあのドスケベボディだった。
「今度はコッチから行くぜ!鈴ッ!」
「!?」
冗談じゃない、遠距離ですらあのフェロモン攻撃に私はもうままならなくなっているというのに接近までしてくるのかと鈴は狼狽えた。
「うぉォォォォォォォ!!」
「うわっゲホッ…来たっ!」
気合いの掛け声と共に一夏の専用機『白式』の単一仕様『零落白夜』が発現し、それと同時に一夏の腋と胸とヘソと太ももが鈴に迫る。
戦術のせの字もない単純な勢いと機体の性能に任せた突撃、本来ならば代表候補生たる鈴には通用しない単純な攻撃だ。しかし今は違う。一夏のフェロモンにより蝕まれた鈴の呼吸器が鈴の行動を著しく阻害していた。
「ゲホゲホッ…!ちょ…一夏、近ッ」
「うぉぉぉぉッ!」
やめろ、近い。遠目で見るのと至近距離から見るのでは一夏のドスケベボディの破壊力は全く違う。光の刃とキメ細かい肌が迫る。鈴は一夏の太刀筋を必死に捌きながら極力一夏の肌が見える部分を視界に捕らえないようにする。無理だ、この距離では嫌でも見える。
「ゲッッホッ!やめ、一夏…エロ…!」
「やぁぁぁぁッ!」
防戦一方の鈴に対して一夏はここぞとばかりに鈴を攻め立てる。
一夏の閃く刃と弾ける汗のコラボレーションが鈴に襲い掛かる、それと同時に見える、否。否が応でも見えてしまう一夏の腋とヘソと太腿が鈴の攻撃を阻む。
正に攻防一体。阿呆らしいが呆れるほど効果的な戦術だ。まあ一夏は特に意図する訳でもなくただ戦ってるだけだが。
(不味い…このままじゃ負ける…!)
鈴は目の前に迫るドスケベボディに対処しながら必死に策を練る。どうすればこの状況を打開出来るか。どうすれば勝つことが出来るかを。
「たァァァァっ!」
「………」
一夏が動く度に揺れる、紐ビキニの紐。そう紐。ちなみにこのタイプのビキニの両サイドにある紐は飾りである場合が殆どだ、夢がないね。
「どうした鈴っ!この勝負、このまま貰うぜ!」
「…」
しかし今一夏が身につけているコレはどうなのだろうか?あの水色頭の生徒会長がそこを妥協するだろうか?鈴の中でそのような疑問が浮かんだ。
(…確か公式ルールだと試合中に衣服が破けた場合は負けになるんだっけ…)
鈴が祖国の代表候補生となる前に読んだ電話帳みたいに分厚いISの勉強の参考書には確かそう書かれていたと鈴は記憶していた。相撲で言うところの所謂『不浄負け』である。
(………)
一夏の腰の部分で揺れる、紐。リボン結びで結ばれたその姿はまるで深い森の中に迷い込んだ人間を惑わす妖精の羽のようだ。
(妖精さん…)
ごめんね紐の妖精さん、でも妖精さんが悪いんだよ?妖精さんが余りにも魅力的だから。人間はつい妖精さんに手を伸ばしてしまうんだ。
そう、それは紐の妖精の仕業。そう結論付けた鈴の行動は早かった。
「あ」
「え?」
白熱するアリーナに突如訪れた静寂。何事かと客席を見渡す一夏、観客たちの目は皆一夏と鈴が居る方を向いていた。
もしかしたら鈴の方を見ているのかもしれないと一夏は首を鈴の方に向けた。そして見た、見てしまった。
鈴の専用機のマニピュレーターに包まれた手に握られた黒い布のような物を。
一夏は一瞬それはハンカチではないかと思ったが、にしては余りに小さく、そして生地が薄かった。今時100円ショップでももっと上質なものが買えるのではないかと思える程の薄さだ。
そして何よりも、その黒い布から伸びた細く長い紐がそれがハンカチではないということを一夏に示していた。
そういえばさっきから”下”が寒いなと一夏は感じた、そして観客たちの視線も何やら自分の”下”に集中している事一夏を次第に察した。
「………」
鈴に向けていた視線をゆっくりと自分の下半身に向ける一夏、彼の疑問の答えはそこにあった。
「…き…」
一夏の視界に映るのは紐ビキニのトップに覆われた自分の胸と、最近筋トレの成果が出てきた腹筋と。
「きゃーーーーー!!!!」
むき出しになった自分の一物。
「妖精さん…ふふ………ゴハァ!!」
女子のような悲鳴を上げてその場にしゃがみこむ一夏と、紐ビキニを手に握りしめたまま吐血しながら膝から崩れ落ちる鈴。
一夏の丸出しになったち…下腹部からの強烈なフェロモンが鈴の癒えかかっていた呼吸器を粉砕した。紐の妖精の誘惑の代償は高く付いた様だ。
「一夏!一夏!一夏!一夏!一夏!一夏!一夏!一夏!」
客席は一夏コール一色に染まった。見たいものが見れた喜び故か。
『…えーと…両チームの選手の片方が戦闘不能となった為、この戦いは引き分けとします!』
『では我々はこれで…!あ、織斑先生ちょっとそれは死…』
不穏な単語を遺して断絶する薫子と楯無の声、今頃放送席は惨劇の様相を呈しているだろう。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
「ウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホ」
未だ殴り合いを続ける変態とゴリラと口から血を流して倒れる鈴と下半身丸出しの少年を置いてきぼりにしてアリーナの熱狂は最高潮に達しようとしていた。
「酷い目にあった…」
学生寮の廊下にある自販機でお茶を買って近くのベンチに一人深く腰掛けた一夏は深い溜息を着きながら今日の狂騒を思い出していた。
寮の廊下は今は暗い。せいぜい自販機の光が狭い範囲を照らしている程度だ。普段なら当直の先生が寮の灯りを付けるのだが今は教員全員が体育館に出向いている為に、夜も遅いというのに暗いままだ。
結局あれから暴徒化した生徒達がアリーナから学園の校舎になだれ込み、窓ガラスを割ったり火炎瓶を廊下に投げたりなどの破壊行為を行った為に午後の授業は潰れ、千冬が指揮する教員たちによるISを使用した暴徒鎮圧にその後の時間は充てられた。
学園が静けさを取り戻したのはそれから時計の針が午後10時を回ろうとする頃だった。
「千冬姉凄かったなぁ」
木刀で生徒達が持ち出した訓練機の『打鉄』を一刀両断するんだもん。やっぱり千冬姉は凄いと一夏は呑気な事を思いながら買ったお茶で喉を潤す。
今回起こった暴動(?)は学園のほとんどの生徒が加担した為、ごく数人の生徒を残して今は体育館で反省文50枚の刑にかけられている筈だ。
ほぼ無人となった学生寮は静かで、この学園に来てからやかましい位に騒がしい毎日を過ごしていた一夏にとっては何だか新鮮な気持ちだった。
「…ん?」
一夏がそんな風に思っていると、何者かの足音と人影が見えた。自販機の光しか光源のない暗い廊下に響く音というのは少し不気味に感じるが、一夏はそれをさほど恐怖とは感じなかった。現在進行形で貞操の危機に晒されている為か。
「何か買いに来たのか?」
コーラか?と無警戒にその人影に話しかける一夏、しかし人影は一夏の呼びかけには答えない。その様子に怪訝に思う一夏。
人影はゆっくりと一夏の座るベンチにまで近づいて来た。
「…?」
一夏の目がその人物の輪郭を徐々に捉え始める、そしてその人物が学園の制服を着ていないという事も。
「………?」
一夏は思わずベンチから立ち上がると後退りでその人物から距離を取った、自販機の照明で照らされている辺りまで後退する一夏。
そして自販機の明かりが一夏の目にその人物の正体を明かす。
「ようやく会えたな、出来損ない」
「何だ……?」
黒いフードを頭から被った少女、それがその人物の正体だった。無論このような人物は一夏の友人はおろか知人にも居ない。
「………誰だ?お前は!」
「…誰か、だと」
不敵な笑みを浮かべるフード姿の少女、そして少女は被っているフードを捲るとその顔を一夏に晒した。
「私はな」
驚愕する一夏、その顔は余りにも似ていた。自分の唯一の肉親に。
「織斑マドカだ」
一夏目掛けてマドカが投げた飛来物を一夏は躱すことが出来ない。余りの衝撃と混乱だった。
飛来するカブトムシの角は一夏の目前に迫っていた。
カブトムシで人を殺められるんですかねぇ…?