それっぽいこと書いたけど特に意味はないよ。
風を切り裂き、鋭い角を伸ばして一夏の眉間目掛けて真っ直ぐにロケットの様に飛ぶカブトムシ。
一夏の命を狙って学園に侵入した『亡国機業』の構成員『M』こと、織斑マドカは己の宿願の達成を確信していた。
如何せん締まらない凶器を用いての殺害だったが、これで我が悲願は達成される。
思えばここまで長い苦難の道のりを歩んできた。母を名乗るイカれた上司の家族ロールプレイに付き合わされ、壊れた同僚にカブトムシ取りに連れ回され。
だがそれももう終わりだ、この馬鹿面晒して呆けてる憎き織斑一夏を葬れば全てが終わる。
「……ッ!?」
しかし現実は非情だった。マドカの悲願は果たされることはなかった。
何故なら一夏目掛けて放たれたカブトムシは一夏の眉間を貫くことなく、一夏の額あと数センチの所で静止していたのだから。
六つの肢を広げて空中で停止するカブトムシ、運動力学の一切を無視した現象に目を見開く一夏とマドカ。
そしてその現象の元凶は一夏の背後に居た。
「ばぶー」
輝く左眼、そしておしゃぶりを咥え右手を正面に掲げた黒鉄の赤子。ラウラ・ボーデヴィッヒが自身の専用機『シュヴァルツェレーゲン』の単一仕様『停止結界』を発動し、一夏に迫るカブトムシを止めてみせたのだ。
「貴様ッ!?」
「ばふっ!」
ラウラは左手を使って身動きの取れないカブトムシの胴体を掴むと、それをマドカに投げ返した。
飛来するカブトムシを手で払い除けるマドカ、吹き飛ばされたカブトムシは哀れにも壁に激突しそのまま床に落ちていった。
「ばぶばぶ」
「くっ…」
マドカは苦虫を噛み潰したような顔で一夏とラウラを一瞥しその場から立ち去る。マドカの実力ならば目の前に立ち塞がる赤子を斥けた後に一夏を殺めるなど造作もない事だろう。そうしないのはこれ以上騒ぎを大きくする事による増援の到着を懸念しての事だ。
ここは『IS学園』世界で唯一のISの操作技術及び整備技術を学ぶ教育機関であり、多数の優秀な操縦者を抱えている。早い話が世界で最もISを保有する団体だ。
今でこそ性のことで頭がいっぱいの性欲猿どもとはいえ、この学園のセックスシンボルに危害を加えたとあれば彼女らのマドカに対する攻勢や追撃は凄まじいものとなるだろう。
現に今、ラウラという増援を許してしまったマドカが取るべき行動は逃げの一手のみである。ついでにお母…スコールへの言い訳も考えておかねばならない。
「チッ…次こそは」
「あっオイ!?待てっ」
「ばっぶっ!ばぶばぶッ」
背を向け全力疾走でその場を去るマドカ、その背を追おうとする一夏をラウラが制止した。疾走するマドカの姿は夜の闇に隠れ、やがて初めからその場には誰も居なかった様な静寂が訪れた。
「ありがとうラウラ!助かったぜ…」
「ばぶばぶ」
ISを解除し両足の裏を廊下に付けるラウラ。その横で一夏は命を助けてくれたラウラに感謝を述べた。
しかし今のラウラは赤子同然、暖簾に腕押し。糠に釘。意味は無いように思えた。
「…ばぶ………ぷぁ……嫁よ、大丈夫か?」
「!?」
なんとラウラは口からおしゃぶりを取るとそのまま喋り始めたのだ。突然の事に驚く一夏、お前喋れたのかと。
「シャルロットが居ないからようやくおしゃぶりを外せる」
「ラウラお前いつもの赤ちゃん言葉はどうした!?」
「改めて…無事だな?嫁よ」
「…お、おう」
何事もなかったかのように喋り始めたラウラ、今までのあの赤ちゃんみたいになっていたのは演技だったのかと。とにかく一夏はラウラに聞きたいことが多すぎた。
「お前喋れたのか…」
「当たり前だろう赤ん坊でもあるまいし」
「じゃあお前なんで今まであんな赤ちゃんみたいな事してたんだよ?」
「それは…」
ラウラが一夏の問いへの返答を答えようと口を開いた瞬間だった、未だ明かりの付かない暗い廊下の向こうから『回答』が現れた。
「ラウラ」
「…ッ!?……シャルロット…!」
シャルロット・デュノア、一夏とラウラの同級生でありフランス代表候補生。そしてラウラの自称母親だ。
その包容力と行動力は高く、今では勉強と育児の傍ら学園内外にて『ママ会』なる謎の集会を行っているとの噂もあるやべーやつだ。
「もうおやすみの時間でちゅよー」
「マ……シャルロット、もうこんな事は…」
まるで赤子をあやすかの様な振る舞いでラウラにゆっくりと近寄るシャルロット。対するラウラの顔には明らかな怯えがあった。
一夏は目の前でまたしても繰り広げられる謎の展開に着いていけず、無言で立ち尽くして居た。
「そっか…ラウラ、また”戻ろうと”しているんだね」
「シャルロット…お前は私の母ではない、お前は…」
「違う」
シャルロットは床に落ちたおしゃぶりを拾うとそれを手にしたまま一気にラウラとの距離を詰めた。
「ッッッ…!!!」
「お前は私の赤ちゃんだ」
おしゃぶりをラウラの口に突き入れるシャルロット。悶えるラウラの顔を自分の顔の間近に寄せると念仏のような言葉を唱え始めた。
「お前はラウラ・デュノアだ、私が腹を痛めて産んだ私の可愛い娘だ」
「むぐっ…ぁ…」
「安心しろ、また器具を使ってみっちり再調整するからな」
「ぁ…ぁ…」
「還れ、ラウラ。原初の水面へ」
黒々としたシャルロットの瞳がラウラの眼を射抜く。その瞳は万華鏡の中の際限のない色彩の深淵を思わせるかの様で、ラウラはシャルロットの中の母性の深淵に囚われ、やがて巣立ちの兆しをもそれに飲み込まれていった。
ゆっくりと瞼を閉じるラウラ。その顔は先程の侵入者へ敵意を向ける軍人の顔ではなく、母の胸で微睡む赤子そのものだった。
眠りに堕ちたラウラを抱くシャルロット、その顔は教会のステンドグラスに描かれた聖母を思わせる程の深い慈愛に満ちていた。
「シャ……シャル…?」
そんな様子のシャルロットに一夏はなけなしの勇気を振り絞って、恐る恐る話しかけた。
「ん?どうしたの一夏」
「今のは、なんだ?」
「ん?今のって何のこと?」
「いや、今のは…何だよ?」
「んー?」
ぶりっ子みたいな顔でとぼけるシャルロット、こいつシラを切る気かと一夏は尚もシャルロットを問い詰めた。今自分の目の前で起こったアレはなんだったのかをシャルロットに問いかける一夏。
「…ふぅ…」
シャルロットはため息を吐くとラウラを抱き抱えながらゆっくりと一夏の目の前に近づいた。
自然と後退りをする一夏、しかし直ぐに壁に配置された自販機に退路を阻まれた。
「一夏、ボクね」
シャルロットは自分の懐から真新しいおしゃぶりを取り出す、おしゃぶりの表面が自販機の光を浴びてプラスチック特有の光沢を放っている。
それは母性への水先案内人のように一夏には見えた、出口のない母性の深淵へと誘うプラスチック製の妖精(ピクシー)がシャルロットの掌で踊る。
「一夏とは良い友達でいたいと思ってるんだよね」
慄く一夏をシャルロットは上目遣いで見上げる、黒々とした大きな瞳が一夏に奈落の底を思わせた。
「育児って愛情が一番だと思うけど、計画性もそれと同じくらいに大事だと思うの」
その後一夏はシャルロットと別れた。一夏はその背中を暗がりに隠れて見えなくなるまで眼を離すことが出来なかった。
目を離した隙にシャルロットがおしゃぶり片手に襲ってくるのではないかという不安が一夏の中であったが、幸いそんなこともなく一夏は胸を撫で下ろした。
暗闇に消えていくシャルロットの背中はまるで闇に還っていく魔物のようだった。
「…千冬姉が帰ってきたら話さないとな」
とりあえずは千冬姉に報告しようと一夏は考えた。千冬姉に似た顔をしたやつにカブトムシを投げつけられた事、ラウラが赤ちゃんから元に戻った事、そしてシャルロットがラウラを再び赤ちゃんに戻した事。報告する事は山積みだ。
そして寮に帰ってきた千冬に一夏は先程の事を話した、そして千冬はとても心配した様な顔で「遂に壊れた」「とにかく休め」「明日病院に連れて行ってあげるからな」と言った。一夏は何故だろうといった顔でそれを聞いていた。
長くかかった割にはこのクオリティ…もう駄目かもわからんね。