一夏の脱ぎたてホヤホヤの制服の襟に残るフローラルな香りを鼻腔いっぱいに吸い込み脳汁ドバドバキメキメビショビショ状態となった千冬。
パキパキにキマった彼女は理性と欲望の狭間で悶えながらなんとか持ちこたえていた。
「千冬姉ーまだかー?」
「………ハッ!?…あ、今行く…」
リビングからの一夏の呼びかけで現実に引き戻された千冬は急いで着替えを済ませ、呼吸を整えると平常心を保ちつつ一夏の元へと向かう。
「どうしたんだよ千冬姉?顔が赤いぞ、風邪か?」
「何でもない、さあ掃除を始めるぞ」
何時もの凛とした表情で掃除に取り掛かる千冬、ほんの数分前まで弟の脱ぎたての制服に顔を埋めて躰をくねらせて身悶えしていた女とは思えない姿だ。
(落ち着け私、そうだ考えてもみれば私は一夏がこの学園に入るまでは同じ屋根の下で暮らしていたんだぞ)
雑巾がけをしようとその場で屈む一夏の背を見ながら千冬は平常心を保とうと思考を巡らせる、そうすれば何か気が紛れるだろうと。
(そもそも実の弟相手に欲情するなどと、ありえん、この私が…)
小娘共の熱気に当てられたかと己を恥じる千冬。その一方で一夏は雑巾がけを始めるために手に持った雑巾を床につけると同じく膝を床につけ、腰を落とすと尻を上げた。あろう事か未だ悶々としている千冬の方に。
(そうだ、大体私は弟に対してそんな邪な感情など………)
一夏の程よく肉が付きそれでいて形のいい引き締まった尻が千冬の前に突き出される。尻の割れ目に短パンのナイロン生地が食い込み、裾からは僅かにボクサーパンツが顔を覗かせている。
思わず生唾を飲む千冬、そんな実の姉からの情欲に満ちた視線に気づかない一夏はそのまま部屋の隅まで駆けて行く。遠のいていく一夏の尻を千冬はその場で立ち尽くしながら目で追う。
「千冬姉どうしたんだ?ボーッと突っ立て」
「は!?…あ、そうだな!すぐに始めよう!」
不審がる一夏に声をかけられてようやく我に返った千冬はぎこちなく雑巾をかけ始めた、少しでも動けば気が紛れるだろうと千冬は目の前の薄汚れた自室の床に視線を集中させる。
「しかしホントに汚いなぁ…千冬姉、前に掃除したのいつだよ?」
「あ、あー………お前が入学すると決まった後だったから…」
「毎日やれとは言わないけどせめて一週間に一回くらいのペースでやろうぜ、これじゃ人も呼べねぇよ」
一人暮らしのダメな所を凝縮したかのような汚部屋の惨状にその元凶である姉にダメ出しする一夏。普段は尊敬を向ける実の姉であるが今は違う、高校一年生にありながら目線はもう完全に主婦のそれである。
項垂れる千冬を無視し床の汚れを拭いた雑巾を洗う為に洗面所に行く一夏。IS学園に入学する前の家事を一任されていた頃の主婦としての姿にすっかり戻っていた。
「とりあえず今は床の汚れを拭くだけで済ますけど明日は壁とか風呂とかも念入りに掃除するからな、千冬姉」
「何も一変にやらなくとも…」
「一変にやらないと千冬姉やらないだろ?」
「うっ…」
血の繋がった姉弟に隠し事など無駄である、まるでエスパーの如く千冬のズボラな思考を読み取る一夏だった。
雑巾がけといういたってアナログな方法だがやらないよりはマシなようで、目に見えて綺麗になった床を満足そうに見つめる一夏。達成感に胸を張ると額にかいた汗を右腕で拭う。
「ふーっ…なんか汗かいちまったな」
「あ、あぁ…」
背中にじっとりと汗をかいた一夏、Tシャツが汗で張り付き背中の美しい肩甲骨のラインが浮き出てしまう。ますます目に毒な姿となった実の弟を千冬は思わず視界から外す。
「千冬姉、先にシャワー浴びなよ」
「シャ、シャワー!?」
「何驚いてるんだ?」
シャワー浴びろだなんてどう考えてもセッ、夜の営みの前準備ではないかとどぎまぎする千冬。すっかり思考がピンク色になってしまっている様だ。
「いや、掃除で汗かいちまっただろ?」
「あ、あぁ…」
「先に入りなよ、俺このまま夕飯の支度するからさ」
姉の邪な思いになど気付きもしない一夏は爽やかな笑みを浮かべながらキッチンに立つ、本当に良い子に育ったなと千冬はしみじみ思う。
(………尻も良い形をしているな…)
自身の思考がもう取り返しのつかない方向に進んでいる事に彼女は気がついているのだろうか。
一方その頃、教師数人がかりで引き摺られて生徒指導に連行された箒は山田先生監視の元で反省文を書かされていた。
「私は、もう二度と、織斑一夏くんの、部屋に、全身の関節を外して、侵入したり、しません…」
「後82枚ありますからね、頑張ってください」
(………困ったな、この方法が封印されるとなると今後一夏の部屋への侵入手段が著しく制限される事になるぞ)
箒は反省文を書きながら次の侵入方法を模索していた、反省文を書きながらちっとも反省していないこの性欲魔人を止める術は果たしてこの学園に存在するのだろうか。
(いっそ幽体離脱や透視といったオカルト方面の手法も視野に入れるか?)
非科学の極みといった手法にまで手を染めようとしている箒、姉が泣くぞ。
(…そういえば篠ノ之流に『幻視』なる技があったような気が…)
「………篠ノ之さん…篠ノ之さん?何を書いているんですか?」
「あっ」
反省文の用紙にはオカルトめいた単語の羅列が書かれていた。熟考が過ぎた為か、箒はいつの間にやらそのオカルトめいた手法の数々を文字に書き起こしてしまっていたようだった。
「………反省が足りないようですね」
真耶のいつもの穏やかな表情の下に毛細血管が蛇行するように走っていく。
慌てて訂正をしようとする箒だったが、今この女に何か言い訳でもしよう物なら殺されるという予感が箒の身を縮こませる。
普段怒らない人が怒ると怖いという定説が事実であるという事を箒はその身をもって知ることになる。
「どうすれば…」
千冬はシャワーを浴びながら今後の弟への対応を考えていた。
尻、胸、太もも。全部エロい。ダメだ考えれば考える程に弟のいやらしく育った躰が脳裏に浮かぶ。
(落ち着け千冬、思い出せ。師から教わった篠ノ之流心身安定術を…)
かつて箒の実家の道場で道場主だった箒の父から教わった術を用いて心頭滅却を図る千冬、師匠も自分が教えた術がまさかこんな事に使われるとは思いもしなかったであろう。
(呼吸を整えて…そうだ、現役時代も公式戦の前はこうして心を落ち着かせていたじゃないか)
今の一夏はもはや千冬がその生涯で対峙してきたあらゆる強敵よりも強大な存在だった。
XVideos再生数は今や4億を突破し文字通りIS学園の、いや日本の、いやアジアの、いや世界のセックスシンボルとしてその名を知らしめる一夏。彼は無自覚に織斑姉弟のエロくない方こと実の姉千冬の理性を粉砕しにかかる。
(落ち着け私…そうだ、無我の境地に至るのだ…)
千冬は自分の中からあらゆる雑念が抜けていくのを感じていた、気づけば視界にも変化が現れる。千冬の視界から色彩が抜けていく、世界が脱色されていく。
(いいぞ………この感覚だ…)
千冬の修めた篠ノ之流剣術には様々な『技』が存在した。中にはオカルトめいた技も複数存在し、今千冬が行っている『技』もそのひとつだった。
篠ノ之流心身調整術、これは使用者の精神を安定させるだけの技ではない。これを極めた者は無我へと至り、やがて『幻視』の領域にまで突入する。千冬は自身の腕を見ると理科室に飾られた人体標本のように皮膚の奥の筋繊維や骨、血管すら透視する。今の彼女の視界はボディーソープの容器の中の白い薬液すら透視していた。
(いける…これならばあのセックスシンボルの前でも平常心を保つことが出来る筈だ!)
シャンプーの容器の薬液の中の気泡、バスタオルの繊維質、千冬は濡れた体を拭きながらリビングに向かう道中あらゆる物を透視していた。篠ノ之流心身調整術による無我の境地の副産物、この状態となった千冬はもはやあらゆる外的要因に対しても動じはしない。不動の精神を得た千冬は己の安寧を確信しつつ悠々とリビングへと続く扉を開けた。
「あ、千冬姉もう晩ご飯出来たから」
キッチンに立つ一糸まとわぬ姿の一夏を見るまでは。
「ブホォッ!?」
突如現れた全裸の一夏に千冬の不動の精神は脆くも崩れ去った。千冬の『幻視』は一夏の着衣と下着を貫通し、その若く美しい裸体を捉えてしまったのだ。『幻視』が完全に裏目に出た千冬はその場で体勢を崩してしまう。
「大丈夫か千冬!?」
「く、来るな一夏!!」
心配そうに千冬に駆け寄る一夏、一糸まとわぬ姿で迫り来る弟を千冬は拒絶する。
「何でだよ千冬姉!」
完全に墓穴を掘った千冬は気迫をもって何とか精神を保とうとする、しかし中途半端に解除された『幻視』は千冬に新たな姿の一夏を映してしまう。
「………ッ!!」
一夏の裸体を包む、赤いエプロン。そう、裸エプロンである。
「グハァッ!?」
「千冬姉!?」
のたうち回る姉を見るに見かねて制止を無視して駆け寄る一夏。姉の苦しみの元凶が自分だという事に彼は気づかない。もっとも、気づけと言っても無理な話だが。
「おれ保健室の先生呼んでくるから!!待ってろよ千冬姉!!」
「!?」
シミ一つない白い背中と尻を千冬に向けて玄関から外に出ていこうとする一夏。その背中をダッシュで追う千冬。
「ま、待て一夏!!」
「なんだよ!?」
「服を着ろ一夏ァ!!」
「はァ!?着てるだろ!?」
「良いから着ろ一夏ァ!!」
「意味わかんねーこと言ってんじゃねえよ千冬姉!!」
姉弟の不毛な言い争いはその後しばらく続いた。
1ヶ月以上かけてこんな馬鹿みたいな展開にしてすいません…