主(マスター)布仏を首魁とする馬鹿共の説教を終え、自室へと帰る千冬。朝まで続いた説教は千冬の睡眠時間を削った。部屋の時計に目をやると、朝の職員会議まであと2時間程だった。
程だった。
一応1時間ほど仮眠を取り、シャワーを浴び直し。仕事の準備に取り掛かる千冬。そんな慌ただしい朝、インターホンの音が部屋に響いた。
誰だ、こんな朝早くからと。千冬は身なりを整えながら玄関まで進むと、ドアの覗き穴から早朝の来客の姿を確認する。見知った顔がそこにはあった。
「ラウラ、どうした?」
「すみません教官…実は、折り入ってお話があるのです」
ラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツ代表候補生であり、千冬が受け持つクラスの生徒で、少々特殊な出自の少女だった。
かつて千冬は彼女に指導を行った経験があり、その頃の名残で彼女は今でも千冬を『教官』と呼ぶ。
神妙な面持ちのラウラ。千冬は、これは深刻な自体かも知れんと気を引き締め、ラウラの相談に乗る。
「なんだ?言ってみろ」
「はい、話とは…嫁、織斑一夏の事なのです」
一夏…またか、相変わらずアイツはトラブルの元だな。千冬はため息をこぼすも、愛しい教え子の相談だ、聴いてやるとする。しかし時間も押している。
「ラウラ、すまんが私も時間がなくてな、昼休みに改めて私の元に来てくれないか?」
「はいっ!」
敬礼しながら「それではまた後で!」と元気な返事をするラウラ、元気で何よりだ。
足早にその場を後にするラウラ、千冬はまたアイツ絡みの仕事が一つ増えたなとため息をついた。
「しかし…」
支度をしながら千冬は先程別れたラウラの様子を思い出す。
「アイツやけに肌艶が良かったな…」
若さとは良いものだなぁと呑気な事を考える千冬、しかし千冬はまだ知らない。あの銀髪眼帯ロリっ子が、千冬の教師人生において、あのマスター布仏を超える最悪の問題児である事を、千冬はまだ知らない。
「もーみんな酷いよー!」
我らがマスター本音は朝の騒がしい教室の中で不満の声を挙げる。袖余りの腕をブンブン振って全身で怒りを再現する本音、可愛らしい姿だがやった事は性犯罪者のそれだ。
「ごめんごめんマスター」
「sorry master」
「もーマスターやめるー!」
騒々しくも楽しい朝、黄色い歓声を背に我らが主人公、織斑一夏が教室へと入って来た。
「おはようみんな」
「あ、おはよう…」
顔を朱に染めながら、慎ましく挨拶を返すクラスメイト達。その様子を不思議がる一夏、無理もない。
真夜中、パンツ一丁の魅惑的な裸体を晒し、生徒達にまた一つ消えない妄想の種を生み出してくれた我らがIS学園のセックスシンボル一夏。
皆恥ずかしいのだ、このパリッとしたカッコいい制服の下に、あんないやらしいカラダがあると思うと。
既にクラスメイトの何人かは、あの一夏の裸体を思い出し鼻血を垂らしている。
「お、おい大丈夫か!?」
「だ、大丈夫…」
そんな様子の同級生を心配して駆け寄る一夏、鼻血の元凶が自分であるとは露程も思わない一夏。間近に迫る一夏の顔、整った容姿は思春期真っ盛りの少女を魅了するには十分過ぎた。
再び噴き出す鼻血、放物線を描き一夏の顔面に向かって放射された。
「うわっ!?」
それを寸での所で回避する一夏、「惜しい!」と誰かが呟いた。
「あー…織斑くん、私らが保健室まで連れてくから…」
「あ、あぁ…任せた」
肩を抱えられながら教室を出ていく鼻血少女、その顔は血濡れながら何処か幸せそうだった。
鼻血少女と入れ替わりで教室に2人組の生徒が入って来た、ラウラ・ボーデヴィッヒとシャルロット・デュノアだった。
「おはよう、嫁」
「おはよ、一夏」
「おぉ、二人共おはよう」
ラウラは挨拶を済ませると一夏の元へと歩み寄り、一夏の背後に回ると、突如一夏の下腹部をさすり出した。
「うおっ!?」
「ちょっ…何してるのラウラ!」
突然の事に身動き出来ない一夏と、ラウラの奇行を咎めるシャルロット、そして固まるクラスメイト達。周囲の事などお構い無しにラウラは一夏のお腹をさすり続ける。
「嫁、朝は何を食べた?栄養はしっかりと取るんだぞ、もう自分だけの身体ではないのだからな」
一夏のお腹をさすりながら一夏の体調を気遣い始めるラウラ、その顔はまるで慈母の様だ。
ん…?『もう自分だけの身体ではない』…?
「ちょっと待てラウラ!今の言葉はどういう意味だ!?」
騒然とするクラスメイトの中でいち早く冷静さを取り戻した箒は、先程の言葉の意味をラウラに問いただす。ラウラは周囲を見渡すと、一夏の手を取り教壇へと登った。
「本来ならば教官への報告が先だと考えていたが、同じクラスのよしみだ、お前達には報告せねばな!」
腕を組み、胸を張り、教壇で仁王立ちになるラウラと、その横で何事かとラウラを不安そうな目で見る一夏。
「皆の者!よく聞け!!」
ラウラは、まるで勝鬨のような大声で宣言する。
「我が嫁は!私の子を身篭っている!!」
IS学園1年1組の時間はその時停止した、誰も身動きが取れない。壁に掛けてある時計の針を刻む音だけが、無音と化した教室内で虚しく響いた。
室内に居るラウラ以外の全ての人間の顔から感情というものが失われていた、ラウラの宣言は一夏と彼女達のキャパシティーを遥かに超えていた。
勝ち誇った表情を浮かべるラウラ、その手は未だ一夏の下腹部をさすっている。
「…は」
彼女達の脳は処理不可能の感情をダムのようにせき止めていた、しかしものには限度というものがある。老朽化したダムにやがてヒビが入る様に、停止した感情は遂に脳の防衛本能という名のダムを飲み込んだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?!????」
決壊するダム、波乱の1日が始まった。
少し短いけれど区切りが良いのでここで投稿。
ラウラってまともな性教育を受けているんだろうか