IS学園1年生達を乗せたバスは臨海学校の開催場所である旅館へと向かっていた。
「海だーーー!!!」
バスの窓から見えた大海原に興奮し叫ぶ生徒達、遂に始まってしまった臨海学校は、一夏へのセクハラ対策の具体案を組むことが出来ぬまま、開始されてしまった。
「夏だー!」
「海だー!」
「織斑だーーー!!」
謎のスローガンを掲げ、盛り上がっていくバス内の生徒達、熱気のボルテージは天井知らずだ。
「オイお前達静かにしろ!」
千冬の叱責も最早今日で何度目かも分からない、千冬はそう長くはない教員生活の中でも、今年の臨海学校に参加する生徒達のテンションの盛り上がりっぷりは過去最大のものだと実感していた。
まだ現地に到着してすらいないのに、まるで祭りのような浮かれっぷりだ。
そう、祭りだ。この熱気はまさに祭り。
織斑一夏を神輿とした大祭。制する声さえ賑やかしの一部として取り込む大きな濁流だ。
「ICHICA!・ICHICA!」
「一夏!一夏!」
「うぉおぉぉぉ!うぉおぉぉぉ!一夏!!一夏!!」
「WHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
クラスメイトの異様なテンションにドン引きする一夏、コレでまだ臨海学校が始まってもいないのだから驚きだ。
みんな見たいのだ、一夏の水着姿を、一夏の裸体を。目に焼き付けたいのだ。
一夏はバスの中を見渡した、正気を保っている者を探した。ふと一夏は、自分の隣の席に視線をやった。
座っていたのはシャルロットとなぜかその膝に腰掛けるラウラのコンビだった、二人の間にはバス内の喧騒から隔離されたような静かな雰囲気が漂っている。
「ほらラウラ、海がみえたよー」
「ばぶー」
おしゃぶりを咥えたラウラが、まるで赤ちゃんのように無邪気に笑う。それを見てシャルロットはラウラの頭を撫で、目を細めた。その姿はまるで本当の母親のようだ。
「ふふっ…ラウラったら」
「ばぶ!」
「…」
一夏はその二人組から視線を逸らした、見てはいけない物を見たような気がした。なんと言えば良いのか、直視出来なかった。
それと同時に一夏は悟った、この空間内に最早まともな人間は居ないということを。未だバスは目的地には着かない、このまま永遠と着かないで欲しいなと一夏は願った。
「着いたァ!!」
「ヒャッハァァァァァァ!!」
「祭りの始まりだァァァァァァァァァ!!」
「I.M.F! I.M.F! I.M.F!(一夏水着フェスティバルの略)」
一夏の願いも虚しく、バスはとうとう目的地である旅館に到着してしまった。生徒達を出迎えに来た旅館の女将と女中達は引き攣った笑顔で暴徒化した生徒を迎える、大人の対応だ。
挨拶もそこそこに、生徒達はそれぞれ割り当てられた部屋へと入っていく。一夏は千冬と同じ部屋でこの臨海学校を過ごすことが事前に決まっていた。
IS学園の優秀な教師にして、学園の切り札、絶対的エース、初代戦乙女(ブリュンヒルデ)織斑千冬。
耳触りのいい単語を並べてはみたが要は面倒事を押し付けられた形だ。
「出発前にも話したと思うが…この三日間、お前は私の部屋で過ごすことになる」
「…ありがとう千冬姉」
一夏は内心ほっとしていた、千冬という百人力のセキュリティがこの三日間そばに居てくれると言うだけでもありがたい。
「このお礼はいつか必ずさせてくれ…千冬姉…」
感謝と感激、そして気恥ずかしさが入り交じり、顔を赤く染める一夏。やめろ一夏、頬を染めるな、惚れるだろ。
「さぁ海に行ってこい、私も後で合流する、水着は用意したんだろう?」
「う、うん…制服の下に着てきてあるから…」
「そうか」
「制服…脱ぐからさ…」
もじもじと落ち着かない様子の一夏、千冬に裸を見られたくないようだった。弟の羞恥心に内心”そそった”が、千冬は表情に出さずに、そのまま適当に仕事が残っていると言い訳をして部屋を後にした。
「いかんな…私まで正気を失うわけには…」
旅館の廊下を歩きながら、千冬は己を自制する。そもそも異常なのだ、実の弟に欲情するなどと。
「これ、やっぱり恥ずかしいな…」
一夏の着てきた水着は例の店『RAINBOW B♂Y』で買った水着だった、逃走を測った一夏はあの後女子達に拉致され、結局店まで連れ戻された後、水着を選ばされたのだ。
「織斑くんにはこっちも良いと思うけどねぇ…」
「やっぱり褌だろう…一夏ぁ…?」
「どれが良いのぉ…?織斑くぅん…」
クラスメイトに囲まれ、欲情混じりのねっとりとした視線を浴びながら自分の水着を選ぶというのは一夏の生涯でも経験したことの無い恐怖だった。
「結局自分で選んだけど…恥ずかしいな…」
制服を脱いだ一夏は私服のパーカーをファスナーをきっちり上まで上げてから海へと向かった。
「I.M.F!! I.M.F!! I.M.F!!」
「遂に見られるのね…織斑くんの水着姿が…!」
「一夏ぁ…何時まで待たせるのだ…!!」
「織斑くん早く来てぇ…!」
既に生徒達は砂浜へと集結して、一夏を待ち構えていた。ある者は一夏の顔を描いた旗を掲げ『Raise your flag』を歌っている、またある者は『RAGE OF DUST』を歌っている。
皆一様に興奮していた、声の限り叫んできっといつか何処か勝ち取りたいモノだけは人一倍な欲深い馬鹿になっていた。
「一夏!一夏!一夏!一夏!一夏!」
馬鹿たちの熱烈な一夏コールは海まで近づいて来た一夏の耳にも届いていた。
「それで君はー良いんだよー…」
生徒達が歌う歌の歌詞のワンフレーズを口ずさみながら海へとやって来てしまった一夏。
帰りたい、このまま旅館に引き返そうかなと思う一夏。しかし仮に自分が砂浜へ現れなかったらどうなってしまうのだろうか。
きっと暴徒化した馬鹿達は一夏を探し、暴れ回り、周囲へ被害を出してしまうだろう。
「行くしかないのか…」
最悪の自体を想定してしまい身震いをする一夏、そんな一夏の姿を、馬鹿の一人が発見してしまった。
「あ!織斑くん来た!!」
馬鹿はまるで新大陸を発見したコロンブスのように興奮して馬鹿たちに触れ回る。
「一夏ー!遅いぞー!!」
「織斑くーん!!」
「おっりっむらっ!!おっりっむらっ!!」
もう行くしかない、覚悟を決めた一夏は、砂浜へと降り立つ。
その姿はまるで死地へと赴く兵士のようだった。
少し短いけど投稿日が空き過ぎてもいけないのでここで投稿、一夏の水着姿は次回で…