ガンダムSEED DESTINY -レクイエムは誰が為に-   作:西のファントム

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PHASE-01「君がミネルバのエースだ」

「戦争はヒーローごっこじゃない!」

 

アスランの平手がシンの頬を打ち、その音が格納庫に響き渡る。

帰還したレイとルナマリア、メカニックたちがしんと静まり返った。

 

「…殴りたいのなら構いやしませんけどね!俺は間違ったことはしてませんよ!」

 

アスランを睨みつけ、シンは言い放つ。

 

「あそこの人たちだって、あれで助かったんだ!」

 

シンの言葉に、アスランは二度目の平手打ちで答えた。

 

「自分勝手な判断をするな!力を持つ者なら、その力を自覚しろ!」

 

「くっ…」

 

シンには、アスランの叱責の意味が理解できなかった。

自分は非道な連合の兵士たちを討ち、捕らわれていた人々を解放しただけだ。間違ったことはしていない。

このときはそう思い、アスランへの反感を強めただけだった。

 

***

 

しばらくしてミネルバは、ガルナハン攻略のためにマハムール基地への入港を果たし、艦内にアナウンスが流れる。

 

<入港完了。各員、別命あるまで待機。ザラ隊長はブリッジへ>

 

アスランたちがブリーフィングを行っている間、他のクルーたちは思い思いに過ごしていた。

ラウンジに集まっているのは、ミネルバの若きパイロットたち。

仏頂面を続けているシンを見て、レイとルナマリアは苦笑する。

 

「まあ、シンの気持ちもわからなくはないけどね。急に現れて、フェイスだって言われて。おまけに二度もぶたれたし」

 

「別に、殴られたことを根に持ってるわけじゃない」

 

「ふーん?」

 

「俺は間違ったことはしてないのに、あいつが分からず屋だから!」

 

口をへの字に曲げ、憤慨するシン。

それを諫めるように、レイが口を開いた。

 

「…しかし先の作戦、おまえに落ち度が無かったわけじゃない」

 

「え…?」

 

「独断専行によるインパルスの孤立、そして事情があったとはいえ、自分の判断だけで敵基地を攻撃したのは問題だ」

 

「じゃあレイは、捕まってた人たちを見殺しにすればよかったっていうのかよ!?」

 

「そうは言っていない。だが、俺たちは戦争をしているんだ。もし敵基地に罠でも仕掛けてあったらどうなっていた?おまえとインパルスが戦えなくなれば、ミネルバにとっては致命傷だ。総崩れになる可能性もある」

 

「それは…」

 

「怒りに身を任せて冷静さを失えば、そのツケを払うのは、自分ひとりではないかもしれない」

 

「あ……」

 

「今のは軍人としての忠告だ。おまえが死んだら、友として俺は悲しい。だから、あまり無茶はするな。ザラ隊長の言うことにも、少しは耳を傾けてやれ」

 

「……わかった。俺、ちょっと風に当たって頭冷やしてくるよ」

 

***

 

シンがラウンジから出ていき、残されたレイとルナマリアは再び苦笑する。

 

「レイの言うことは素直に聞くのよね、シンのやつ」

 

「そういうわけじゃないさ。元々根は素直なやつなんだ、シンは」

 

「私には反骨精神の塊みたいに見えるけど。アカデミーのときもよく教官と衝突してたし」

 

「自分の気持ちにも素直であるが故に、納得のいかないことには黙っていられないんだろう」

 

「なるほどねー」

 

「隊長も隊長で不器用な方だ。あれでは余計に反発されるだけだというのに…」

 

「シンと隊長って、案外似たもの同士だったり」

 

「そうかもしれないな。お互いに頭が冷えたら、もう一度よく話をしてみてほしいものだが」

 

***

 

甲板に出たシンは、沈んでいく夕陽をぼんやりと眺めていた。

怒りに血が上った頭は、自分を心配してくれた仲間の言葉と、甲板に吹き抜ける涼やかな風が冷やしてくれた。

 

(レイの忠告は正しかったし、隊長が俺を怒ったのも仕方のないことなのかもしれない)

 

しかし、それを分かっても尚、アスランに対する苛立ちが、シンの胸に燻ぶっていた。

彼がオーブにいたこと、今更になってザフトに出戻ったこと、そんな彼に指図されること、頭ごなしに否定されて殴られたこと。

理由を挙げればキリがない。

この先自分は上手くやっていけるのだろうかと、大きな溜息をついたのと同時に、背後のドアが開いた。

 

「こんなところにいたのか、シン」

 

先程の一件を引きずる様子もなく、笑みすら浮かべてみせたアスランに、シンはどんな態度をとればいいのか図りかねていた。

てっきりまた説教のひとつでもされるものだと思っていたから、拍子抜けしてしまったのだ。

 

「いいんですか?フェイスがこんなところでサボってて」

 

「ああ、ブリーフィングが終わったんでな」

 

シンはつい挑発的になってしまうが、アスランは気にした様子もない。

 

「そうですか」

 

「…さっきは、俺も頭に血が上っていた。もう一度、ちゃんと話そうと思ってな」

 

どういう風の吹きまわしだ、とも思ったが、結局シンはアスランの申し出を受けることにした。

断って出ていくのも、子供が拗ねているようでみっともなく思えたし、アスランの態度がなんとなく気になったからだ。

 

「まあ、いいですけど」

 

「ありがとう」

 

「それで、さっきの作戦の話ですか?」

 

「ああ、それもあるが…その前に、ひとつ聞かせてくれ。君は、俺のことが気に入らないか?」

 

アスランは、シンの瞳を真っ直ぐに見つめて問いかける。

直球すぎる質問に、一瞬面食らったものの、シンもまたアスランの瞳を見返して答えた。

 

「…はあ、気に入らないですが」

 

「そうか…それは何故なんだ?」

 

「そんなの、この間までオーブでアスハの護衛なんかやってた人が急に戻ってきて、フェイスだ隊長だなんていって…あなたのやってることはめちゃくちゃですよ!」

 

「…確かにな」

 

「え?」

 

あっさりと認めたアスランに、シンは戸惑った。

 

「確かに、俺のやっていることは、君から見ればめちゃくちゃだろう。しかし、だから俺の言うことは聞けないと、上官として認められないと、君はそういうのか?」

 

「それは…」

 

気に入らないから認められない、言うことを聞けない、なんていうのは我儘だ。それはシンにだって分かっている。

隊長の言うことにも耳を傾けてやれ、というレイの言葉が頭をよぎる。

 

「そこまで言うつもりは、ないですけど…」

 

「なら、先のインド洋での戦闘のことはどう思ってる?今もまだ、間違いじゃないと思うか?」

 

「…レイに言われました。勝手に動いて無茶したら、そのツケを払うのは自分だけじゃないかもしれないって」

 

「それだけじゃない。彼らにもう抵抗する力は残されていなかった。殲滅する必要はなかったはずだ」

 

「でも俺、捕まった人たちが撃ち殺されてるの見て、連合の奴らが許せなくて…」

 

戦争で家族を失ったシンにとっては、尚のこと許せず、放っておけないことだっただろう。

それを理解していないアスランではなかった。だからこそ、シンに分かってほしいことがあった。

 

「君は以前、オノゴロで家族を亡くしたと言ったな?」

 

「…殺されたって言ったんです。アスハに」

 

「だから君は軍に入ったのか?力さえあれば、大切なものを守れたかもしれないと」

 

「なにをおっしゃりたいんです?」

 

「自分の非力さに泣いたことのある者は、きっと同じように思うさ」

 

切なげに言うアスランを見て、シンは悟る。

アスランも、自分と同じような悲しみと苦しみを識っているのだと。

 

「だが、自分の理屈と感情だけで敵を撃てば、それはただの破壊者だ。力を手にしたそのときから、今度は自分が誰かを泣かせる者となる。それだけはどうか、忘れないでくれ」

 

かつての議長の息子であり、軍のトップエリートでもあったアスランは、生まれながらのノーブル、自分とは違う人種で、だから見えているものも違うのだと、シンは思っていた。

しかし、そうではなかったのだ。

 

「勝手に壁を作って、あなたに反発して…その言葉も、俺は理解しようとしてなかったみたいです」

 

「理解してもらう努力を怠っていたのはこちらだ。君だけのせいじゃない」

 

壁が取り払われたのなら、二人が歩み寄るのは必然とも言うべきことだった。

彼らの想いは、きっと同じものだからだ。

 

「頼りにしているぞ、シン。君がミネルバのエースだ」

 

「え…!?」

 

「では、またな」

 

照れ臭そうに背を向けて、アスランが甲板から出ていくのを、シンは茫然と見送った。

 

「ミネルバのエース、か…」

 

予想もしていなかった賛辞に、なんだかくすぐったいような感覚を覚える。

シンの中に渦巻いていたどうしようもない苛立ちは、いつの間にか消え失せていた。

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