ガンダムSEED DESTINY -レクイエムは誰が為に- 作:西のファントム
マハムール基地を発ち、ローエングリンゲート攻略のためガルナハンへと向かうミネルバ。
その艦内では、レジスタンスの一員である少女"コニール"を迎え、ブリーフィングが行われていた。
作戦を立案したアスランが、モニターの前に立ってその内容を説明する。
敵の陽電子砲"ローエングリン"を叩こうにも、強固なリフレクターを搭載したモビルアーマーがそれを守っているため、正面突破が有効とはいえない。
そこでアスランたちが陽動をかけてモビルアーマーをローエングリンから引き離し、その間にローエングリン付近に通じる坑道の中を、分離したインパルスが通り抜けて奇襲をかけ、ローエングリンを撃破する。
万が一シンが失敗すれば、ローエングリンによってミネルバは全滅する。かなりのリスクを伴う作戦ではあった。
「坑道内は非常に狭く、視界も悪い。だが、ミス・コニールが持ってきてくれたデータ通りに飛べば問題は無い。おまえの操縦技術なら、やれるな?シン」
「はい!」
不安を微塵も感じさせないシンの返答に、アスランは満足げに頷いた。
視界の端でルナマリアが目を丸くしていたが、シンはそれを無視した。
「ではミス・コニール、彼にデータを」
アスランに促されて、コニールはデータの入ったディスクをシンに差し出した。
「…前にザフトが基地を攻めたとき、街は大変だったんだ。逆らった人たちは酷い目に遭わされて、殺されて…今度失敗したらどうなるかわからない、だから…!」
涙ぐむコニールの頭にそっと手を乗せ、シンは微笑んだ。
「大丈夫、俺はこの艦のエースなんだ。必ず成功させてみせるさ!」
「うんっ…頼んだぞ!」
「ああ!」
ミネルバと、ガルナハンの人々の命が、自分とインパルスにかかっている。
その重圧は、とてつもないものだった。
それでも、シンは降りるつもりは無かった。
もし地球軍に見つかればただでは済まされなかっただろうに、こんな小さな子供が、必死に恐怖に耐えながら、街を救うという大任を背負ってここまで来たのだ。
それに報いてやれなければ、自分が力を得た意味も無い。
手渡されたデータディスクに、シンは自分の使命の重みを感じ取った。
***
やがて作戦が開始され、インパルスも発進準備に入っていた。
メイリンが読み上げる発進シークエンスを聞きながら、シンは操縦桿を握りしめる。
「コアスプレンダー、発進どうぞ!」
「シン・アスカ!コアスプレンダー、行きます!!」
発進したコアスプレンダーの後を、チェストフライヤー、レッグフライヤーがビーコンに従って追従する。
シンは躊躇なく、コアスプレンダーを岩壁の隙間に飛び込ませた。
***
一方、アスラン率いるミネルバのモビルスーツ隊は、拠点防衛用モビルアーマー"ゲルズゲー"を中心とする敵部隊と交戦。
モビルスーツの数の差、ローエングリンの火力、そしてゲルズゲーの圧倒的な防御力を前にして、ミネルバは苦戦を強いられていた。
ミネルバの主砲"タンホイザー"の一撃すら、ゲルズゲーは無傷で防いでみせたのだ。
事前に知ってはいたものの、いざ目の前でその性能を見せつけられ、アスランは嫌な汗が伝うのを感じていた。
(シンは以前、あれと同タイプのモビルアーマーと交戦し撃破したと聞いたが、一体どうやって…?)
いや、撃破を焦る必要はない。
敵のリフレクターがいかに強固であろうと、この場に釘付けにして時間を稼げば、インパルスがローエングリンを潰してくれる。
そうなれば、戦況は一気にこちらに傾くはず。
思考を切り替えたアスランは、セイバーの機動性を活かし、ゲルズゲーを撹乱する。
「レイ、ルナマリア!敵モビルアーマーは俺が引き付ける!シンが来るまでの辛抱だ、持ち堪えるぞ!」
***
シンは、モニターには殆どなにも映らないほどの暗闇の中を、データだけを頼りに進んでいた。
実際に坑道内に入ってみて、シンはこれがどれほど困難な作戦であるかを理解した。
狭い坑道内を抜けるまでは、合体シークエンスに移行することもできない。
フェイズシフト装甲をもたないコアスプレンダーの状態では、岩壁に激突すれば命はないだろう。
それでも、シンはスピードを緩めることなく、ひたすらに進み続けた。
アスランの信頼に応え、コニールとの約束を果たすために。
やがてコクピットに警告音が鳴り響き、岩壁が薄くなっているゴール地点が近いことをシンに知らせた。
「やっと出口か!」
シンは暗闇に照準を向け、ミサイルを発射した。
爆発によって岩壁が崩れ、流れ込んだ光の中にコアスプレンダーは飛び込んでいく。
暗闇は一転、モニター一面に広がる青空は、無事に坑道を抜けたことを意味していた。
だが、安心している暇はない。
視界の中に敵のローエングリン砲台を確認しながら、シンは機体を合体シークエンスに移行させた。
三機の戦闘機は瞬く間にトリコロールのモビルスーツへと姿を変え、ローエングリンに肉薄する。
「堕ちろっ!!」
インパルスのビームライフルに貫かれたローエングリンが爆炎を噴き上げ、ゲルズゲーに一瞬の隙が生まれる。
アスランがそれを見逃すはずもなく、セイバーの両肩から引き抜かれた二振りのビームサーベルが、ゲルズゲーを斬り裂いた。
「敵の主力は潰した!このまま制圧するっ!!」
一気に攻勢に転じるミネルバ。
ローエングリンとゲルズゲーという両翼をもがれた地球軍は士気を失い、総崩れとなった。
***
作戦終了。ガルナハンの街は、地球軍基地陥落の知らせを受け、活気を取り戻していた。
解放の喜びに色めく人々、街を救った英雄として歓迎され、照れくさそうに笑うシン。
アスランはその光景をセイバーのモニター越しに見やり、笑みを浮かべた。
だが、ザフトの勝利がもたらしたものは、それだけではなかった。
街の影に引きずりこまれ、男たちに足蹴にされて血を流す地球軍の兵士たち。
地球軍がこの街にしてきたことを考えれば、当然の仕打ちではあるし、戦争をしている以上、どちらかが戦いに勝てば、負けた方は苦汁を嘗めることになる。
頭では理解していても、アスランはその光景に後味の悪さを感じずにはいられなかった。
(わかっていたことじゃないか。何を今更…)
アスランは自嘲し、セイバーのコクピットハッチを開く。
困難な作戦をやり遂げ、期待に応えた部下に、ねぎらいの言葉のひとつぐらいかけてやらなければ、と。