書いているうちにちょっと違うような気がすると思い、書き直してみました。見てくださった方には申し訳ありませんが、よろしければこんな気まぐれにお付き合いください。
旧1話はしばらくのこしておきたいと思います。
受験生にとっては今が戦いのときだ。受験シーズン。受験生それぞれの人生の大きな別れ道だ。セカンドもサードも来てほしくない時期なのだが、残念なるかな高校進学や大学進学を目指す者たちなら避けることができない暗黒のイベントだ。
遊びたい盛りの中学生を捕まえて、将来のためだとプレッシャーを与えていき、心の壊れた勉強マシーンを量産する悪しき風習。中学時代の一年間は潰れる。早い人なら中学時代そのものが潰れたりする。
だが、苦行を耐え抜いて結果を出せば、道は自ずと開かれる。その先は短い時間だが楽しい高校生活が待っているのだ。
しかし、受験生たちが占拠する歩道の上で受験生の端くれ
桜色の髪を肩にかかる程度に伸ばし、可愛らしい笑顔を浮かべる姿は悩むことを置いて生まれてきたのかと錯覚しそうになる明るさがある。緊張のあまり固い身のこなしの娘や、英単語帳と睨めっこしながら最後のあがきを続ける娘ばかりの中にあっては異彩を放つこと間違いなしだ。
更に彼女の隣には全く同じ姿かたちをした人物がいる。何もかもが瓜二つでありながらどこかミステリアスな雰囲気を醸し出すもう一人の少女。
月終
月終家は中流階級の家系だ。上流階級ほどの裕福さはないが、下層階級ほどに貧困に喘いでいるわけでもない多少家計に余裕がある程度の家だ。
昨と新はそこに生を受けた。
珍しいとか可愛らしいとか言われる双子。そんな感じだ。
ただ昨も新も両親が誇らしげに思うほどに才ある子供であった。
勉強はそこそこできる。成績は常に合格点ぴったりと図ったかのような点数を叩き出すのだから決して頭が悪いわけではないだろう。どんな難しい試験であっても合格点を寸分の狂いもなく出せれば勘なんてあいまいな言葉で片付けることはできはしない。意図的にやっていることは明らかだ。両親もさすがに気が付いているので、娘は勉強ができると感じている。塾とか通わせたこともないし。
運動もそこそこできる。学校では並ぶものいないと言われるほどにはできる。あまり運動の得意ではない両親から生まれてきたとは思えないほどだ。しっかりと血はつながっているから疑う余地などないが。
そんな二人は一も二もなくIS学園への進学を決めた。
目的があったのだ。IS学園進学を決めた目的。
昨には自覚があった。周囲の人間とは違うという自覚。中学生にありがちな病気ともとれる思考だが、昨のそれは決して年相応のありがちな病気などではない。明らかに周囲と自分は違っている。違い過ぎるのだ。
新も同じように感じている。昨と同じように違うと自覚しているのだ。
周囲の人間は同じ人間なのかと疑問に思うほどに脆弱だった。周囲の女子が、ではなく周囲の人間がだ。不良ぶっている男子なんて片手でひねりつぶせるし、鉄パイプで頭を叩かれても特にダメージを感じない。対して、不良を殴れば一発で伸びてしまうし、鉄パイプを防いだらそのままへし折ってしまったこともある。
つまりは昨も新も常人離れした身体能力を持っているのだ。周囲との溝を感じてしまうほどの差だ。
だが、昨はテレビで目撃した。おそらく自分たちと同じ存在を。その人物はIS学園で教職についているのだと。
これはもうIS学園に進学するしかないだろう。類友だ。おんなじ奴が一緒ならば人生が楽しくなるのではないか。絶対になるはずだ。
そうと分かれば昨も新もIS学園に進学するために頑張った。よく遊んでよく食べてよく寝てと。勉強は参考書をぱらぱらと流し読みするだけで、基本は日常生活を謳歌するだけ。なぜならIS学園の入試は難しくなさそうだから。過去問なんて取るに足らない。
もう受験をなめてるんじゃないかってくらいだ。同級生たちが羨ましがるほどに余裕綽々だった。
「狙うは織斑千冬先生のクラス。ランダムなんでしょうけど狙いますよ」
織斑千冬こそが昨が同類と感じ取った相手だ。ISの世界大会モンド・グロッソで猛威を振るう世界最強の女。婚期を逃しそうな異名を持ちながらも持ち前の美貌で引っ張りだこな女性である。
テレビでその雄姿を見てからというものの、昨と新は織斑千冬に会いたいがためにIS学園へと歩み始めたのだ。決して有名人に会いたいとかミーハーな理由ではない。
「一緒に織斑千冬さんのクラスになれれば一番です。しかしそこまで都合よくはいかないでしょう。せめてどちらか片方だけでも受け持ちのクラスになれたらいいのですが」
少々陰りのある笑顔を浮かべる新。彼女にしてみればIS学園の試験に合格することは決定していることであって取らぬ狸の皮算用ではないのだ。
「そういえば実技試験も担当していると聞きました」
「実技とはISを装着して模擬戦をする奴ですね。確かに適した試験管ではありますが。普通の人では勝負にならないんじゃないかしら」
「私たちなら勝てなくてもいい勝負できそうですね」
「勝てませんからね。いい勝負できれば満足です。先方が満足してくれるかは別ですけど」
昨は受験会場へと目を向ける。見えるけど遠いな、と思いながら。
「IS。初めて乗るからこそわくわくしてきましたよ」
「私もです。昨と同じくらいかそれ以上に心躍ります」
「言いましたね」
「言いましたよ」
二人して笑う。全てが初めての中であっても陰ることのない笑顔に周囲が嫉妬したのは言うまでもない。余裕ぶりやがってと。余裕なのだからしょうがない。
受験会場は新進気鋭のデザイナーの手によって設計され、時代の先行くデザインと称賛される外観をしている。まさしく俺マジ天才じゃん的な発想を感じ取れる。とにかく昨は感じ取った。
建物の中もまた外観に引っ張られた構造になっている。複雑怪奇の一言で表せる。敵に乗り込まれたときのことでも考えたのか、どこに何があるのか分からない不親切な出来栄えで、昨も新も少しの間入口付近の案内図を覚えなければならなかった。勉強のことだけで容量限界の受験生に対する嫌がらせとしか思えない。といっても昨と新は関係ない話だが。
道を覚えてしまえば簡単で、昨と新は特に迷うことなく試験会場へと向かう。道を覚えきれなかった同じ高校を目指す受験者たちを従えて。
IS学園試験会場。
看板の立てかけてある部屋へと入れば早速受付を済ませて控室で待機。試験内容としてはISに乗って実技試験を行うのだが、ISに触れたことのない二人には当然勝手が分からない。二人に限った話ではなく、ISに触れるのは今日が初めてという人間も数多くいるため、試験担当者があっちへこっちへと指導でテンヤワンヤしていた。大変な騒ぎの中でISスーツに着替えた昨と新はちょっと洒落たスク水みたいなデザインを酷評しながら試験開始を待っていた。
試験開始は昨たちが到着してから10分ほど経過してからだった。
ついに試験。昨が目を輝かせるが、残念なるかな出番はまだまだ先の話になる。
「いっぱいいるんだけど」
「ISといえば女の子が憧れる存在ですから。仕方がない話です。特に私たちもお熱な織斑千冬さんは圧倒的な強さとカリスマで大人気。一目でも見たいと思う人もいれば、織斑千冬さんの指導を受けたいと思う人もけっこういると思いますよ。私たちはそれとは違いますけど」
「勝手な仲間意識。テレビ越しだけど同類と思った。私たちの理由はちょっとベクトルが違いますね。下手すれば頭おかしいと見られちゃいますね」
「同類。甘美な響きです。何故でしょう」
「さあ。新に分からないなら私にだって分かりません。ちょっとずつ感じる不安感が拭えるからでしょうか」
「昨にも分かりませんと。困ります。実際にお会いすれば分かるんでしょうか。だとすればより一層心躍ります」
昔からある不安。それを払拭してくるかもしれない。あの日見た織斑千冬の姿に昨は希望を抱いたのかもしれない。
暫く待機していれば昨と新が呼ばれる。試験管が何人かいるようで、少なくとも二人の内どちらかは千冬と当たることができないことを表している。ちょっと絶望が忍び寄ってくる。
結果は昨の試験管が千冬だった。試験を補佐する人から伝えられた事実に、昨が今までにないほどの笑みを浮かべたのは自然の流れだった。
「それでは試験で使用するISは打鉄になります。早速乗り込んでください」
打鉄。日本産の第二世代ISだ。防御に重きを置いた性能を持つというが、所詮は素人でしかない昨には攻撃型だろうが防御型だろうがどうでもよかった。
愛着もこだわりもなく打鉄を装着する。
腕や足を覆いつくす装甲。全く重さを感じない。ISのパワーアシスト機能が働いた結果だろう。
それよりも昨を驚かせたのは感覚だ。
ISに搭載されているハイパー・センサーによる視覚の強化。見えないはずの真後ろまで見えることに些かも違和感を感じることのない自分自身に順応力も上がったのかと冗談めかしく笑みをこぼした。
だがそれも一瞬。やってきたのは自分が今の世界から切り離されたかのような違和感。ここにいるはずなのにいない。自分の身体を認識できるのに操作不能に陥った。
『ああ。やっと出会えたね』
声が聞こえてきた。祝福を乗せた言葉が身体中を駆け巡り、昨の中にあった全ての不安を流していってくれた。もう恐れる必要はないのだと。
『また会おうね』
そうして声が聞こえなくなると、昨は今の世界に戻ってくるのを理解した。夢でも見ていたのかと頭を振るが、失った不安が現実であることを思い出させてくれる。
「分かりませんね」
神に拝むかのように両の掌を合わせて考え込むが答えは浮かばず。
「ではもう一度説明しましょう」
そして試験補佐官の説明が繰り返された。