よろしければ少々お付き合いください。
IS学園一年一組は世界で初めて発見されたISを動かすことのできる男子が所属しているために非常に賑わしいことになっている。
かと言ってIS学園は別に一組だけのものではない。
一年三組もまた賑わしいことになっている。
三組担当の新田かんろは一組担任の織斑千冬に比べて迫力に欠けるところがあるために、生徒を鎮静化することができていない。
「織斑くんとかカッコいいじゃん」
「千冬様の弟とか羨ましすぎるわ」
「一夏くんって言うんだって。狙い目よ狙い目」
「ヒャッハー!!」
「ひゃっはー!!」
「猪突猛進よ!!」
「酒池肉林だわ!!」
カオスである。三組生徒達は織斑一夏を肴に騒ぎ立てる。もはやかんろには止められない。そして止める奴もいない。三組には委員長的な統率者はいない。地獄だ。
月終咋は気にせずに読書に専念している。今日は天気は晴天でご機嫌な一日で、彼女を遮るものなど今日一日存在しない。
騒ぎなど知らぬと読み進めているのは授業で使う教科書などではなく、異世界転生最強物のラノベだ。読み進めても読み進めても作者の訴えたいことが分からない小説を前にして咋はそろそろ挫折という言葉を覚えそうになっている。
ついに耐え切れず隣の新に目を向けるのだが、彼女は彼女でクロスワードパズルに頭を悩ませている最中。覗き見れば何一つとして埋まっていない始末。ただ頭を悩ませるだけで進展のない状態はまさしく馬鹿の考え休むに似たり。というか眠り始めた。
マジか。咋はラノベを仕舞い、双子の妹の寝顔を眺める。可愛いイコール自画自賛。それが一卵性マジック。
「皆さん。そろそろクラス代表をキメましょう。我こそはと思う方がいらっしゃれば先生怒りませんから手を挙げてください」
なんで怒られそうになっているんだ。そんなことは咋をはじめとして誰も思わなかった。そもそも咋は新の寝顔を眺めることに夢中になっていて聞いていない。つまり状況を認識していないのだ。だから知らぬ間に全て決まっていく。
「私に任せなさい。改革してあげっから。改善してあげっから」
「そうこなくっちゃ。面倒なクラス代表にふさわしい発言」
「三組のかじ取りは任せまーす。あとはヨロ」
「改革イエーイ!!」
「改善いえーい!!」
「レヴォリューション」
「エヴォリューション」
頬を突く。プニプニ柔らか。癖になる感触に生唾を飲み込む咋。新を起こさないように気をつけながら頬を突きまくる。
「聞けばぁ、一組はクラス代表を決める戦いが行われるとか言います。しかし、三組は私を頂点にして一致団結しているのですから、そんな争いは無縁です。今更に立候補しやがったらぶっ潰すから挙手しないでよ」
「いやいや。もうアンタでいいから」
「時間の無駄。クラス代表は決まったものなんだから、とっとと締めきれ先生」
「あまに先生」
「煮た甘露先生」
「スイーツヒャッハー!!」
「デリシャスひゃっはー!!」
突きすぎた結果、新が起きた。頬に違和感を感じたのか手で押さえながら咋を睨む。バレたか、と咋はペロッと舌を出すのだが、新は頬を膨らませてそっぽを向く。
二人だけの世界にどっぷり嵌っている間にクラス代表は決まり、授業は進み、いつの間にか授業が終了した。
短いインターバルはほぼ全員が一組へと殺到する。織斑一夏を見に行く為だ。暇なので咋も新も流れに任せて見に行くことにした。
人の波に揉まれながらも織斑一夏を見た感想。
「残念ながらですよ」
「思った感じじゃないです」
二人して肩を落とす。ものすごい期待をしていたのに全然期待に届かない様を見せられた失望は如何ほどか。ちょっと残念、やっぱり世の中そこまで都合よくいかない。
「才能はあると思うけど」
「でもそれだけです」
咋の評価は才能はあるがそれだけ。決して織斑千冬と並びえない。つまり咋の興味の対象ではない。みんなが織斑一夏の容姿に惹かれて熱を上げるのだが、咋にしてみればもうISを動かせる男子程度の認識で決着がついたのだから気持ちの変動はない。相手もそこまで期待を求めていないだろうし。
周りは織斑一夏に声をかけたくて仕方がない。抜け駆けは許さない雰囲気と誰か話しかけなさいみたいな雰囲気が漂っている。矛盾だらけな空気感は停滞したまま動かずに時間だけが一定の流れで進んでいった。
勿体無い時間の使い方だ。咋も新も思いつつも動かない。というか動けない。織斑人気が原因で起きた人の波は既に壁となって二人の後退を阻む。さながら敵前逃亡を認めないかのように。敵ではないのだが。
さて困った。腕時計を確認すれば予冷が鳴りそうだ。このまま壁が崩壊するのを待つには余裕がない。
「戻りましょうか」
「普通には戻れませんから大変ですよ」
二人顔を見合わせて跳び上がる。後は簡単、左右の壁を蹴って移動するだけ。気を付けるべきは新の跳ぶタイミング。
何度かの壁蹴りで人の壁から脱出した二人は何事もなかったように教室へと戻った。
「……ふむ」
織斑千冬が遠目に見たのは一組の教室前に群がる女子達と、そこから壁を蹴って跳ぶ三組の双子の姿だ。ぴょんぴょんとリズミカルに跳ぶ姿は慣れたもので違和感がない。全体的な光景は違和感しかないのだが、さすが千冬は日常の風景として受け入れている。ああ、やはりそこそこできそうだな、と想いながら。
一組の教室到着を阻む人の壁も千冬を前にすれば道を作るように割れる。そして彼女が通り過ぎた後になって慌てて教室に戻っていった。
IS学園は扱うものがものだけにルールはしっかりしている。罰則もまた定められている為に上級生にもなれば多くが正確に動いていく。制服の改造など緩めるところは緩めているが締めるところはきっちりと締める。規律を守れないようなら自主退校するほかない。
弱いものついてこれないものは淘汰される。IS学園はそういうところだ。
千冬が担当する一組は手を焼きかねない人物達が所属している。
まずは最近有名になった千冬の弟の一夏だ。受験会場を間違えた挙句に無断でISに触って起動させた結果、女子校に公的手段で侵入したラッキーボーイだ。元々ある察しの悪さや良くも悪くも状況に流される悪癖の持ち主故の行いだが、何も確認せずにISの元へと連れ込んだ試験担当者が原因の一端を担っているのだがら弟をぼろくそに攻め立てることはしない。というか呆れはしてもそこまで関心がないというのが本音だ。
二人目は篠ノ之箒。ISの生みの親である篠ノ之束の妹だ。篠ノ之流剣術の使い手で剣道の全国大会で優勝するほどの実力者だが、言ってしまえばそれだけだ。重要人物であるのはあくまで篠ノ之束の妹だからでしかなく、束を釣り上げるための餌という認識でしかない。重要人物保護プログラムで各国からの魔の手から守られているが、実際は飼い殺しに近いかもしれない。聞けば一夏に恋心を抱いているらしいが、あの朴念仁を相手にするなんて。
三人目はセシリア・オルコット。イギリス代表候補性にしてイギリスの大企業オルコット社の現社長を務める偉い立場の人間だ。初日にして代表候補性らしからぬ発言をかました挙句に決闘騒ぎまで発展させた手腕は相当なものだ。教室内に充満したオルコットに対する悪しき雰囲気を払拭する為に、一週間後の試合で決着をつけるよう言って収めたが、千冬としてはやることが増えた為に好ましくない生徒だ。
主にこの三人が火種としているが、千冬の勘では隠れている火種がある。いつどこで炎が広がっていくか分からないが気にしておけばいいだろう。
授業になれば副担任の真耶が教科書片手に授業を進め千冬は教室の後ろで授業を見る。
暇なので先ほどの双子について思い出してみた。後輩の授業風景など眼中にない。信頼と取るか責任放棄と取るかは決めないでおく。
月終咋と月終新。そこそこ裕福な家庭に生まれた双子姉妹。ISの養成所に通っていたわけでもなく、二組に放り込まれた忍者の里出身者でも、同じく二組にぶち込まれた戦闘訓練しか受けてこなかったバーサーカーでもないのだが、あの時に千冬が感じ取ったものと、今日の壁蹴りを見れば普通じゃないのは分かる。
何故実技試験で戦えなかったのか。愚弟が原因だ。あのゴタゴタで試験がうやむやになったのだ。
「であるのでISは……」
真耶の解説が右耳から入って左耳へと抜けていく。おかしなことは言っていない。引き続き放っておこう。
書きながら何をしたいんだろうな。何考えてんだろうな~、とか思っている時点でやめればいいのかもしれませんね。
お付き合い頂きありがとうございます。