IS 最強は最強です   作:ネコ削ぎ

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改めて3

 たとえば主人公が転生者だとしたら。

 たとえばファンタジー真っ盛りな異世界転生だとしたら。

 たとえば最強系のスキルや身体能力を手にしたとしたら。

 さて考えてみよう。

 この三つの要素の内当てはまるものを。

 一番の転生者はがっちりと当てはまっている。まさしく転生者だ。死んだ人間が自分の死ぬ瞬間を認識し、前世の知識経験を持ったまま生まれ変わるのは転生以外の何物でもない。

 二番の異世界転生はバツだ。多少違いはあれどファンタジー世界への転生ではない。

 三番の最強系スキルや身体能力もバツだ。決して運動音痴ではないが常識の範囲内に収まるレベルでしかなく、最強系スキルなんてバランスブレイカーなものは備わってなかった。

 結論、想像以上に辛い。

 見渡しても女子しかいない教室。それも視線は一点に集中するのだから対象物を視線のレーザービームで焼き殺したいとしか思えない。

 視線の集中砲火を受けるのは健全な男子高校生な織斑一夏だ。イケメンでシスコンで可能性の獣でハーレムで朴念仁で完璧な主人公様だ。どう見てもイケメンなのだが、実態は超がつくほど恋愛関係が鈍感でデリカシーもないダメ人間なのだ。

 ほぼ女子しかいないIS学園に放り込まれた男子はそれでも注目の的になるのは希少性故だろうと、窓側最後列に座る鏡ナギは分析する。

 ここで転生者であれば原作スタート前に介入して原作レイプしてしまったり、一夏アンチ的だったりライバルだったり師匠的ポジションだったりするだろうが残念、ナギは転生者であってもただ転生しただけでしかない。つまり、そんなSS主人公は無理。

 ナギができることはただ行く末を見守り、ああここ原作と違うな、とのんびり比較するだけ。気楽な立ち位置バンザイ。

 教室で一人十字砲火に晒される女子校での異分子。たった一人だけ放り込まれた哀れな男子。男なら一度は憧れるであろうシチュエーションに一夏が頭を抱えて項垂れているのは人として正常な反応だと思われる。

 前世では男子やってたナギは今の一夏の辛さを察することができる。異性しかいない空間はハーレムウハウハなんて馬鹿丸出しの楽観的思考なんて働かない。心休まることない精神的苦痛だ。それも見られているという状況は自由を束縛されてしまった錯覚を覚えてしまう。

 

「辛くね。すげー辛くね」

 

 呟く。ナギは何もしない。できない。助けに入れない。実は入る気もない。だって他人事だもの。

 誰も何も言わない教室。初めてばかりの顔だからが理由じゃないことは、教室中の女子の目線が物語っている。ナギはあまりに可哀そうで窓の外に目線をやってあげている。

 約一名にとって地獄の教室と化した雰囲気は副担任がやってきたことで終わりを迎えることになった。

 クラスに溶け込めることのできる低身長と童顔。少々サイズのあっていない服は背伸びした子供のようであるが、彼女の圧倒的な胸囲を前にすれば今までの評価が間違いであると知る。

 大きい。

 とにかく大きい。

 同じ女なのかとナギが嘆く。

 

「皆さんはじめまして。私は一年一組の副担任の山田真耶です。これから一年間よろしくお願いします」

 

 笑顔で挨拶する真耶を全員が返事もせず視線も向けずに総スルー。

 ナギは現実逃避のため窓の外から視線を外せなくなっていた。

 

「あぅ……そ、それでは出席番号順に自己紹介をしていきましょう」

 

 真耶涙目。教師の威厳はない。

 自己紹介がスタート。

 趣味や特技、好きなものを話していく女子たち。ただしナギの目に間違いがなければ、なぜか最後には一夏へとアピールしている。

 

「彼氏募集中です」

「尽くすタイプだよ」

「レアだねレア。ステータスです」

「織斑くんが気になります」

「奴隷にしてあげましょう。光栄に思うがよろし」

 

 ほぼ女子しかいないIS学園に放り込まれた男子はそれでも注目の的になるのは希少性故だろうと、窓側最後列に座る鏡ナギは分析する。

 そりゃあモテるだろうさ、比較対象の男子がいなければ。それとも誰もが男運なさすぎでまともな奴と出会ってこなかったか。

 それはそれとして同じ女子だけど怖い。ガツガツしている。がっつき過ぎだが、おかしな奴も混じっているとナギは困惑する。まさかセシリア以外に奴隷発言をする奴がいるとはさすがに思わなかった。

 そもそもモテているのだろうか。

 原作を思い出すに、ナギの知るヒロインたちは誰もかれもが照れ隠しの暴力を共通スキルとして所持していた。それも軽い暴力じゃなく、もはや傷害罪を適応されても言い逃れできないレベルの重い一撃が多い。

 木刀、レーザーライフル、ISパワーアシストパンチ、パイルバンカー、あとは何があったか。

 ギャグ漫画じゃなきゃ死んでる。ナギが男だとしても正直要らないハーレムだ。

 一夏に恨みを持っていると言った方がまだ信憑性がある不思議。

 結論、織斑一夏は不憫。

 不憫過ぎて一夏アンチ系ストーリーにもできない。

 目頭が熱くなるのを感じる。不憫過ぎてナギは泣きたくなってきた。絡んできたら少しは優しく接してあげようかな、と思うほどに。

 涙を堪えていたらついに一夏の番になった。あの有名なワンシーンを生で拝聴できるとは転生冥利に尽きる。

 

「織斑一夏です」

 

 一夏の口から続く言葉は出ない。女子のもっと喋ってよ的な圧力が増す。来たかプレッシャーとナギは構える。何をどう構えるかも分からずに。

 新鮮な風が吹く春のほどよい気候のはずなのに息苦しさを感じる。重圧を与えられていないはずのナギでさえ呼吸が浅くなる。

 本当にここは教室か。どこか私の体験したことのない圧迫面接の会場か何かじゃないか。

 1分間の沈黙。10分にも1時間にも感じられる重圧空間は確実にナギの精神を擦り減らす。当事者の一夏のダメージは計り知れない。おかしな共鳴をしてしまいそうだ。

 一夏が生唾を飲み込む。この圧力から逃れようと視線をゆっくりと動かし、窓側の席に幼馴染の存在を発見する。喜色を含んだ視線がよく分かる。その視線がすぐさま裏切られたと絶望に染まることも。だって幼馴染は無情にも顔を背けて知らんぷり。

 一夏に仲間などいないのだ。当然、ナギも味方じゃない。共鳴しそうになったけど仲間にはなりえず。

 意を決した一夏が顔を上げる。

 さすがイケメン。何人かの女子がほぉ、とため息を漏らすのを聞いてしまった。

 やはり一夏はイケメンなのか。イケメンな割にはヒロインが残念過ぎる。

 

「以上です」

 

 ぴしゃり。女子の圧力を前にして果敢にも店仕舞いをした一夏を誰が責められよう。少なくともナギには責められない。むしろほめる。さらば重苦しい空気。こんにちはコメディー感。ずっこける女子たち。この連携……おそらく頭脳となる者がいる。

 しかし意外にも小芝居に参加しない者が数名。

 一人目は言わずと知れた鏡ナギ。ホッと胸を撫でおろして深く深呼吸。新鮮な空気を肺に取り込むことに夢中だ。

 二人目は篠ノ之箒。ギャグ的なリアクションを求めるのは酷というもの。

 三人目は布仏本音。まさかの船を漕いでいて一から十の全てを聞いていないというオチ。

 

「もう少し真面な自己紹介はできないのか」

 

 そして原作同様に現れる織斑千冬。一年一組の担任にして世界最強の称号を持つ女傑。

 

「げっ!? 関羽!!」

 

 一夏のわけの分からない反応。原作を読んでも分からなかった一幕だったが、実際に聞いてもナギにはちんぷんかんぷん。なぜ関羽なのか。劉備でも張飛でもよくない。

 

「何を分からないことを。座れ織斑」

 

 違う。

 圧倒的に違う。

 ナギの知る流れじゃあない。

 ここで千冬が出席簿で一夏をぶっ叩く流れでは。公私混合が通じない厳格な教師の一面が垣間見れるシーンはどこに。

 

「きゃー、本物の千冬様よ!!」

「私、お姉さまに憧れて来たんです!!」

「きゃあぁぁぁぁぁああああああ!!」

「きゃあああああぁぁっぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁぁ

「ぎゃあああぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁあっぁぁぁあぁ!?」

 

 大音響。ひどいの一言。耳を塞がなければやられていたと、後にナギは語る。

 というか後半の叫び声は事件性を匂わせる。でも事件は発覚しなければ事件にはならないので、ナギとしては無視するのが一番だ。名探偵じゃあるまいし。

 

「静かにしろ。騒ぐな、他の教室の迷惑になる」

 

 至極真っ当な注意に反論の一つなく私語を慎む。

 

「諸君。私が一年一組担当の織斑千冬だ。私がすることは弱冠15歳を16に育てることだ。私の言うことには『はい』か『いいえ』で応えろ。反論してもいいが相応の理由を用意しろ。以上だ」

 

 マジか、反論していいのか。否定してもいいのか。でも叩き潰されそう。

 よって無理。ナギは従順に生きることを決意した。

 

「にしてもちょっと違くない?」

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