想像以上に辛い。
見渡しても女子しかいない教室。それも視線は一点に集中するのだから対象物を視線のレーザービームで焼き殺したいとしか思えない。
視線の集中砲火を受けるのは健全な男子高校生な織斑一夏だ。イケメンでシスコンで可能性の獣でハーレムで朴念仁で完璧な主人公様だ。どう見てもイケメンなのだが、実態は超がつくほど恋愛関係が鈍感でデリカシーもないダメ人間なのだ。
ほぼ女子しかいないIS学園に放り込まれた男子はそれでも注目の的になるのは希少性故だろうと、窓側最後列に座る鏡ナギは分析する。
そりゃあモテるだろうさ、比較対象の男子がいなければ。それとも誰もが男運なさすぎでまともな奴と出会ってこなかったかだ。
そもそもモテていたのかは分からない。ヒロインたちからはラブ的に好かれていたな、とナギは原作を思い出す。伝わらない愛情表現とこれ見よがしな暴力を前にモテていると断言していいのか甚だ疑問だが。実は殺害命令を受けていたんじゃない。
ツンデレ女子とか暴力ヒロインとかジャンルはあるけど、属性としてのツンデレも暴力もそういうことではない。命の危機に瀕するところまで追いつめる属性はヤンデレだけでけっこうだ。
織斑一夏は不憫である。
ナギの辿り着いた答え。正解発表も専門家からの指摘もない自己完結系のゴールだ。そもそも答えは聞いてない。
いまだ担任教師が来ないことをいいことに最前列で頭を抱えている織斑一夏に憐れみの視線を突き刺す。イベントに事欠かないこれからとヒロインズの物理一辺倒アタックの犠牲者となるのだから、これを不憫と憐れみを以て見つめる以外あるだろうか。少なくともナギにはない。あの立場は憧れないし羨ましいとは思わない。オリ主は大変だ。
その点で言えばナギは原作キャラに転生したがちょい役のモブだ。専用機なんてもらえないだろうが、悪質なイベントに当事者として参加することのない第三者で居続けることができる。安全安心のサポート設計だ。三年保証もついていると尚良し。
「はい。皆さん集まっていますね」
ようやく始まる学園生活。
一年一組の副担任である山田真耶が元気いっぱいに挨拶をするのだが、教室は清々しいほどの無反応。視線も意識も織斑一夏に奪われてしまっているのだから仕方がない。ナギはナギで空気を読んで無反応でいることを選択。さすがに一人だけ返事するのは辛い。真耶が涙目になって庇護を誘ったとしてもだ。
「そ、それでは一年間一緒に過ごす仲間ですから自己紹介していきましょうか。ではあいうえお順でお願いします……お、お願いしますね」
自己紹介がスタート。
「それから彼氏募集中です」
「尽くすタイプです」
「織斑くんが気になります」
なぜか織斑一夏に対するアピール合戦が展開されている。真耶は生徒たちの自主性に任せて静観、またの名を放任を決め込んでいる。正確にはあわあわしていた。
そして訪れる織斑一夏の番。ナギも知っている有名なアレだ。どれだろうか。
真耶の声掛けを暫く気がつかず無視した挙句に名前だけで終わる薄い自己紹介。
「以上です」
以上じゃねえよ、と聞こえてきそうな女子たちの圧力を前にして織斑一夏は動揺しつつもそれ以上の言葉は発しなかった。本当に以上だった。
そして姉である織斑千冬の制裁を受ける。
ナギは身構えたのだが、やってきた千冬は出席簿で叩くことは叩いたが、ポンと頭頂部に軽く出席簿を当てる程度のことしかしなかった。はて、ナギの知っている原作と違う。
「ち、千冬姉」
「織斑先生だ。公私を分けろ」
二回目の出席簿アタック。もちろんソフトタッチと味気ない。体罰反対の抗議に屈したかのような意味があるのか分からない一撃だ。ナギがっかり。
「私が織斑千冬だ。君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てることが仕事だ。私の言うことは良く聴きそして理解しろ。出来ない者は出来るまで指導する。分かれば返事をする様に」
色めき立つ教室。黄色い悲鳴が支配した。織斑一夏はビックリして、千冬はやれやれまたかとため息をつき、ナギは耳を塞いで、そして何故か頬を赤らめて千冬を見つめる真耶。
鏡ナギは転生者である。前世はラノベが大好きな男だった。特に変わっていることもない普通の男でしかなかった。
そんな彼が転生した。よくある転生トラックでも神のミスでもない。死因は全く情けないが、道を歩いていたらトラックがスピード出しすぎなまま突っ込んできたので慌てて避けたら後頭部を電柱に思いきりぶつけて、その数時間後に脳内出血で死亡というもの。泣きたくなる。そして物心ついた時には鏡ナギだった。神との出会いなどない。
突如失った人生と、突然授かった人生。何かしらの意味があってもいいのだが、ナギには何も分からないし、大事な意味があられても困ってしまう。
とりあえずは第二の人生を謳歌することにしたのだ。ISの世界に転生したことを知ったのは白騎士事件が起きたからだ。
ISを動かせるかもしれないと思ってIS学園進学を目指して前世以上に勉強してなんとか入学したのが、実際に体感した原作場面と覚えている内容との違いを見せつけられた。
「応用利かせろとか。原作知識役立たずとか言わないよね?」
こうして鏡ナギのIS学園生活はスタートしたのだった。