産まれて初めて人を殺したのは、自分の為でなく他人の為だった。
知人の為の仇討ち。そこには間違いなく一つの正義を持っていた。
その後、役人に捕らえられた自分を助けてくれた友人達。
だが、自分を捕らえた役人にも、また一つの正義があった事に気がついた。
自分は「間違っていない。」だが、相手もまた「間違っていない。」
では、何が間違っていたのだろうか?
今の自分には答えはない。だがわかった事が1つ。
この世の中を動かすのは武だが、変えるならば知と仁だと。
そしてそれから数年の月日が流れた。
「で、偉そうな事をほざくのはこのお口かな〜?」
「わはひは、わふくありはひぇん!」
水鏡先生の私塾の入口。頬を引っ張られ、涙目になりなりながらも文句を言うのは、姓は諸葛、名は亮、字を孔明。水鏡先生曰く『伏龍』と呼ばれる少女だ。
その隣であわわと慌てふためいているのが姓は龐、名は統、字を士元。諸葛亮と対を成す『鳳雛』と呼ばれる少女。
その2人の間で諸葛亮の頬を引っ張っている男。先の2人より数年前に水鏡先生の元に来た青年だ。
「ったく。確かにお前の言う通りだが、少しは先輩を立てろよな。」
少し前屈みになって引っ張っていた手を離し、苦笑いしながら頭を撫でた。事の発端は凄く単純。先輩の人達が諸葛亮にいちゃもんをつけようと舌戦。容赦なく全て論破してしまった結果、その先輩が半ベソかいて私塾を辞めて行った。
「で、でも、あの人達は徐兄の事も悪く言ってました。」
龐統が大きな帽子のつばを両手で掴み、俯きながら言う。その言葉には僅かな怒気。
「俺の事はどうだって良いんだよ。所詮単家だ。だがお前らは違う。いずれこの世界を動かすかもしれないんだ。人脈は大切にしろよ。」
「そんな、徐兄は・・・。」
「どうせ州刺史か郡太守程度が限界なんだろ?」
何か言おうとする諸葛亮を遮り徐庶が笑った。諸葛亮が顔を赤くしながら更に言い返す。
「そ、それは会ったばかりの頃の話でしゅ、です!今の徐兄ならもっと、それこそ天下を動かす事も出来ます!」
必死になる諸葛亮。龐統も首をコクコクと縦に振る。徐庶は照れくさくなり、明後日の方向を向き頬をかきながら笑うしかなかった。
「悪い気はしないが、俺はお前らみたいに有能じゃねぇし、何より真面目じゃない。そんな持ち上げられてもなぁ・・・。それよりそろそろ飯にしよう。母さんが待ってる。」
誤魔化す様にそう言って2人の背中を軽く叩きながら帰路へとついた。
姓は徐、名は庶、字名は元直。この外史におけるもう1人の主人公の青年は、ここからは新たな旅を開始する事となる。
徐福って言うと、史記に出てくる不老不死の薬取りに行った人が先に思い浮かぶ。