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戯志才ら3人と出会ってから数日。通り掛かりの村で食料の補充(なぜか徐庶が荷物持ち)をしたり、途中で20人ほどの賊と何度か出会った(が、それらは全て趙雲一人で蹴散らした)。
この日もやはり少数の賊に絡まれていた。
「おうおう、兄ちゃん。美女を3人も連れて羨ましいねぇ。そいつら俺達に譲ってくれないかなぁ?」
「どうぞどうぞ・・・。この娘に勝てたらね。」
ニヤニヤと下品な笑みを浮かべる厳つい男に、呆れた顔で趙雲を差し出した。趙雲は膝から崩れ落ち、ヨヨヨと涙を流す。
「酷いです旦那様!私はもう用済みなのですか!?あれだけ熱い夜を共に過ごしたというのに!」
「確かに昨日は熱帯夜で暑い夜だったなぁ・・・。」
「あー、これでお兄さんの鬼畜っぷりが知られてしまいましたね〜。」
「女で非力だからという理由で、荷物を全て俺に持たせる様は確かに鬼畜だなぁ。」
「徐庶殿との熱い夜・・・ふ、ふふふ・・・。」
「おいコラ戯志才、変な妄想すんなよな。」
「旦那様は私達の事が嫌いなんですか!?」
「うっせえな。本当に嫌いだったら数日も一緒に旅なんてしねぇよ。」
「「「「・・・ハッハッハッハ。」」」」
「ふ、ふざけんな貴様ら!」
顔を真っ赤にして男が剣を抜き振りかぶった。その男の腹に、徐庶が投げた趙雲の紅の槍が刺さる。サッと趙雲が槍の柄を掴みながら立ち上がり男を蹴った。
血飛沫と共に抜かれた槍を左右へと振るう。
ものの数分で10を超え得る屍が積み重なった。
「遭遇する回数が増えてきましたな。」
槍を拭いながら趙雲が呟く。3人も同じ様に考えていた。だが、これは『幽州に近付いたから増えた』とは言い切れない。
「ここ最近、彼方此方で山賊やら江賊やらの話を聞きます。王朝の求心力が弱まっている証拠でしょう。」
(それを考えると、荊州って結構平和だったなぁ。)
少し前迄の生活を思い出しながら遺体を調べる。長い旅をしている場合、野盗や山賊から何かを得るのもやむを得ない。
「やはり、こいつらもだな。」
「黄色い布・・・ですねー。」
腕、頭、わかりにくい場合は懐の中等、皆何処かに黄色い布を巻くか、持つかしていた。
「何らかの徒党を組んでいるもの達、という事だろうか?差し詰め黄巾党とでも呼ぼうか。」
趙雲が足元に落ちていた布を拾ってヒラヒラと振りながら笑った。
「だが、10や20程度なら大した事はないが、百、千。下手すりゃ万となると馬鹿にはできねぇぞ。」
「そうですね。なるべく早く何処かに大きな街に入った方がいいでしょう。」
4人で頷き、足早に涿郡へと向かった。そして3日後。新たな賊と遭遇する事なく、日が沈み切る前に無事に城壁に囲まれた街にたどり着いた。
「街が近付くに連れて治安が良くなってるみたいですねー。」
程立が周りをキョロキョロしながら言った。この街にも軍が配備されている様で、ある程度しっかりした治政が行われている事がわかる。
「ふむ。路銀も心許ない。ここいらで暫く稼ぐのも良いかもしれんな。」
そう呟く趙雲に、戯志才と程立は顔を見合わせて首をかしげた。
「私達はまだ大分余裕があるのですが?」
「・・・何?」
「星ちゃんはメンマを買いすぎなんだと思いますよ。」
「道中でも行商人から買い占めてたからなぁ。」
「あの行商人が悪いんだ。あんな美味いメンマを食べさせられたら、買い占めざるを得ないではないか。」
呆れる徐庶と程立。趙雲が口を尖らせ文句を言った。
「とりあえず、日が落ちきる前に今日の宿を決めようぜ。」
徐庶を先頭に街の中央部へと進んで行った。