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翌朝。貴重品だけを身に付け街へと出た。各々が自由に街を見て歩き、情報を集めることになった。
(やはり米の相場が荊州よりも2割ほど高いな。麦は大体同じぐらい・・・。うわ、粟の値も上がってるな。こっちって南より麦とか粟って安いんじゃなかったっけ。何かあったのか?)
市場で食料品の値を確認し、首をかしげた。店主に声をかける。
「ああ、太守様の命令で兵糧として買い上げられてるんだ。そんで量が減ったから値を上げたんだよ。」
「ふーん。戦・・・いや、賊の討伐か?」
「さぁ。そこまでは知らんよ。」
店主に礼を言い、粟を購入して別の店に向かった。そこでも色々話を聞くが、やはり軍備としていくつか買い集められているという事だった。
(ふむ・・・。こりゃ面倒に巻き込まれる前にここを離れるか、逆に面倒ごとが終わるまでここに止まるべきか?)
店に売られていた焼き鳥の様なものを口にしながら考える。ふと目線を向けると程立が猫と話をしていた。
「よう。なんか面白い話でも聞けたか?」
「ああ、お兄さん。このお猫さんは、最近食べ物が手に入りにくくなって大変だそうですよ。」
徐庶に声をかけられ、ぽけ〜っと顔を上げながら程立が答えた。
「お前、猫の言葉がわかるのか?」
「何をおっしゃりますか、わかるわけが無いのですよ。」
平然と答える程立に、思わずこけそうになる。
「まあいいや。ここの太守、公孫瓚だったな。どうやら近いうちに賊討伐の軍を動かすみたいだぞ。」
「ほうほう。みたい、とは曖昧ですね。食料や武器の買い集めでもしてましたか。」
「正解。軍備を整えているが、他州に攻める大義名分がない。なら、相手は賊だろうよ。」
食べていた鳥肉の切れ端を放り投げる。それを見た猫が勢い良く駆け出した。それを尻目に場所を移動する。程立も立ち上がり、徐庶についてきた。
「戯志才は?」
「稟ちゃんとは途中で別れました。しばらくしたら、あっちの方にある茶店で落ち合う予定ですよ。」
「よし、そんじゃあ俺も行くから、一回情報の共有といこうか。」
「おお、ではお兄さんの奢りですね。」
ニヤッとしながら徐庶の腕にしがみついてきた。その姿になんとなく妹弟子2人が思い出される。
「・・・路銀が残り少ないんで、程々にな。」
「成る程。では軍が動くのは確定ですね。」
茶店。お茶と、中に刻まれた果肉の入った小さなパンの様な菓子が置かれた机の囲う様に3人で座る。
戯志才の話では、数週間ほど前に近くの山に賊の集団が住み始めたという話だ。
「ここの城主が太守に要請したのが10日ほど前だそうです。それから直ぐに追加で兵糧などの用意を始めたのでしょう。」
「物価が少しだが上昇したのはそれが原因だな。要請を受けて直ぐに動くとは、中々民思いの太守様だ。」
「では、2、3日中にここに軍が入城してくるかもしれないですねー。それまでにここ、出ますか?」
菓子を口にしながら程立が首を傾けている。面倒ごとが嫌なら、戦の前に離れるべきだろう。程立の仕入れた情報では、商人達の何人かは、既に隣の街へと一時的に避難しているらしい。
「私としては、ここを離れるべきだと思います。賊の討伐なら、他所の州から来た我々も謂れのない拘束をされる可能性がありますから。」
事実、この街に入る時も、色々手荷物を検査されたりと、入るだけでも時間がかかった。もし何か問題が発生したら疑われる可能性は大きい。
「・・・路銀に不安があるんだが?」
先立つものが無いなら、ここを出るのは厳しい。趙雲同様、徐庶も実は懐的には結構キツい。
「ふむ・・・この後宿でどうするか話し合いましょう。最悪、ここで離れ離れもやむなしです。」
野良猫や野良犬、野生動物に餌を与えるのはやめましょう。