濃い緑の外套を羽織り、城門を出て足早に歩く。すぐに道を外れ、木々の中を抜ける。
徐庶にとって幸運だった事は小雨だが、雨が降り始めた事だろう。雨音が徐庶の気配を消してくれる。
(・・・この先か。)
太い木の幹に懐から取り出したナイフを刺し、足がかりとして上へと登る。太い枝の上にしゃがみ、斜め前方を見ると木の壁の様なものが見えた。
(よし、予想通りここからなら一通り見渡せるな。)
ざっと目測で数は千人ほどであろうか。木造の塀。小さな小屋。組み立てている途中なのだろうか、柱がいくつか建てられている。小さな陣営の様なものだ。
(ここを本格的な陣地とするつもりか?)
予想よりも多いが、想定を上回ってはいない。だが、時が経てばもっと人の数が増えるかもしれない。
そして予想が当たった事がもう一つ。
(やはり、黄色い頭巾か。)
趙雲らと出会ってから遭遇した賊達の共通点。これで一つ確信が得られた。奴らは有象無象ではない。何らかの形で徒党を組んでいる一つの集団であるという事だ。
(恐らくだが、他の州にもいるとするならかなり大規模な集団だ。・・・漢王朝詰んだんじゃね?)
木の板を一枚懐から取り出し、気がついた事を走り書きで書いていく。
徐庶にとって不幸だった事は、雨が消すのは徐庶の気配だけではなかった事だ。
パキッと枝が折れたような音が聞こえた。
(・・・気のせいじゃないな。見回りか?)
手を止め耳をすます。雨音に混じって、枝や葉っぱを踏む音。足音だ。雨でわからないが、音の量から3〜5。そしてそれは思った以上に近い。
(気付くなよ・・・。)
姿が見えた。人数は3。やはり頭には黄色い頭巾。1人は腰に剣。2人は槍。そして運悪く進行方向は徐庶の登った木の方向。
「ん?おい、あの木になんか刺さってないか?」
槍を持つ男が気がついた。指差す方向に、腰に剣を挿した男が歩み寄ってくる。
(あ、こりゃダメだ。仕方ない。)
徐庶が小さな溜息を吐いた。
「これは・・・短刀か?」
男がナイフを抜こうと手を伸ばす。その瞬間、上から人間が降ってきた。
「なっ!?ギァ!!」
うめき声は一瞬で消えた。何か棒が折れるような音と共に足と腰があり得ない方へと曲がる。
「な!?伍長ガッ!?」
踏みつけた反動でそのまま前に跳ぶ。直刀をまっすぐ伸ばして相手の喉を一突き。そのまま横になぎ払うように3人目の息の根も止める。
(伍長・・・なら周辺にあと最低でも2人!)
徐庶はバッと伏せ、耳をすます。だが、雨のせいもあり足音は聞こえない。
(・・・よし、逃げる!)
木に刺したナイフをパパッと回収して直ぐにその場を離れた。
「なにぃ!?」
見張りの3人が何者かに殺された。その報告を受けた程遠志が杯を叩きつけた。部下がビクッとするが程遠志気にすることも無く声を上げる。
「官軍が動き始めたか。鄧茂の隊はまだこねぇのか!」
「予定ではあと3日の筈ですぜ」
側にいた部下がそう伝えると程遠志は舌打ちをした。
「この程度の兵じゃあなんにもできねぇぜ。ったくよぉ。だったら近いの村で略奪しておきべきだったぜ。」
文句を垂れながら程遠志は酒を呷った。
恋姫キャラが1人もいない!?