賊退治を終えて2日後。給金を多めにもらい、特別報酬として馬を一頭貰った徐庶は街を出た。
趙雲はもうしばらく残るという。と言うのも、公孫瓚の依頼で兵や将を鍛えてほしいと言う事だ。
公孫瓚は「もし正規に仕官する気になったら是非訪ねてほしい。」と言い、厳綱も「もう一度、共に戦える事を願っている。」と言ってくれた。
(ここの人達も良い人達だったな。)
自然と笑みを浮かべながら馬に跨り、門をくぐった。
(次は并州、司隷を経由してから荊州だな。)
門を出て直ぐの所で、賊と思われる一団を縛り上げた集団とすれ違った。恐らく義勇軍なのだろう。捕縛した人数を見れば、中々の精兵達だと感心した。だが、それと同時に一抹の不安。
(あの賊も黄色い頭巾か。冗談じゃなく漢王朝はダメかもしれんなぁ。)
軽く馬腹を叩き、軽く駆け出した。
それから大凡一ヶ月。并州を抜け、そして河内北部。
(ここらは治安が良さそうだな。并州とは大分違うな。)
并州では何度か賊に出会った。だが、公孫瓚に貰った馬が良い仕事をしてくれた。
北方で鍛え抜かれた馬の足に追いつける様な者がいなかったわけだ。
そして司隷に入ってからは、護衛付きだが、行商人と出会う回数があからさまに増えた。
(だが、并州からいつ賊が流れてくるかわからん。早めに荊州に一度戻った方が良いかもな。)
馬から降りて手綱を握りながら歩く。目の前には城壁と門。特に問題なく中へ入った。
先ずは馬小屋の有る宿を探し、愛馬を預けた。
(日が暮れる前に、少し見聞すっか。)
荷物を置き、貴重品と護身にナイフを数本隠して歩く。商店はあるが、品揃えはいまいち。人々の往来も、時間の割に悪い。
「道中、護衛付きの商人を見たが、あれは何処に向かってるんだ?」
肉屋から保存のきく干し肉を買いながらたずねる。すると、店主が微妙な顔をした。
「そりゃあ、恐らく陳留の方へ引っ越してんのさ。あっちは治安がかなり良いからな。俺らとは違う金持ちが、そっちに流れて言ってるんだよ。」
(陳留・・・なるほど。同じ兗州でも、西と東は違うんだな。)
幽州に向かう途中に通った所は、可もなく不可もない、普通の田舎町ばかりだった。
(陳留刺史は確か・・・曹孟徳だったか。)
噂程度は耳にした。中々の傑物だと。多少興味を持ちつつ、そのまま歩いていると突然警鐘が鳴り響いた。
「!?・・・賊が来たか。」
建物の中に避難する人達。建物から出てくる人達。避難するのは非戦闘員だろう。そして出てくる者達は兵なのかもしれないが、決して立派な装備品とは言えない。
(自警団と言ったか所か?)
嫌な予感がした。そしてこういう感は大抵当たる。とりあえず宿の方へと足早に戻る。途中で城壁沿いに櫓を見つけ、それを登った。
「ん?貴様、この街の者ではないな。」
登りきった所で1人の少女と出会った。手甲と胸当をつけた少女が警戒をして構えを取る。徐庶は片手を振って敵意が無いことを表し、そのまま遠くを見て目を細めた。
「ただの旅人だ、気にすんな。・・・やはり黄色い頭巾の集団か。数は大凡二千から三千か?一応聞くが、君は正規兵か?ここの兵力を知りたい。」
「い、いや。ここに駐屯軍は殆どいない。義勇兵が千人程いる程度だ。」
徐庶の行動に困惑しながらも答えた。徐庶が小さく舌打ちし、街の方を見る。慌てて門を閉めいる様が見えた。
(宿に戻る余裕はないってか。クッソ面倒な事になりそうだ。)