心の中で愚痴をこぼしながら思考する。目の前で賊が3つに別れた。
(部隊が三つに割れた。ならば・・・。)
「南門から撤退・・・という選択肢は。」
「何処に逃げろというんだ・・・私達の街はここにしかないんだぞ!」
そう切なく声を上げる少女に徐庶がまた手のひらを向ける。
「ま、そういうと思っていた。だが、援軍が来ない以上状況は悪化し続ける。当然死人も出るし、君も君の友人も死ぬかもしれん。その覚悟はあるのか?」
少女はそれを受けて思わず黙ってしまうが、キッと強い視線を徐庶へと向けた。
「援軍は、ある。陳留の曹操様の所に賊討伐の命が出た。その隊がここに立ち寄るという話が5日前に来ている。」
それを聞いて驚いた。傑物とは思っていたが、まさか他の州の賊討伐を引き受けているとは。左手を顎にあて、やや俯き気味に思案。その間はおよそ10秒ほど。
(5日前に出発したとして、兵数はわからんがここまで来るなら、恐らくあと3日から4日ほどか・・・。)
「ここの門で南以外で一番強いのと脆いのは?」
「ひ、東の門が恐らく脆い。北は門の造りが一番しっかりしている。だが、その分柵の設置はしてない。」
突然言われ、驚きつつも的確な答えを返す。恐らくこの少女は義勇兵の中でも立場が上の方なのだろう。
もう一度遠目に賊を見る。広がり方と進む速度から、すぐに北の門へと接触するだろう。
「兵力を北から右周りに4、2、1、2の割合で分けろ。あと馬に乗れるものと馬。100ほど欲しいが用意できるか?」
少女は頷く。それを見て徐庶も頷いた。
「ではその者たちを東門へと集めろ。急げよ。」
そう言って徐庶は櫓から飛び降り、宿屋へと走った。
宿屋へとたどり着いた徐庶は、すぐに馬に乗る。そのまま街中をかけた。途中で少し道に迷いそうになりながらも、なんとか東門へとたどり着く。そこには先程の少女と、馬にまたがる義勇兵が100、揃っていた。
「まさか君がいるとは。他への指示は?」
「信の置ける仲間に頼みました。大丈夫です。」
いつの間にか話し方が敬語になっていた。なんだかむず痒さを感じつつも、文句を言う暇はなさそうだ。北の方からはすでに戦闘が始まったのか、喧騒が聞こえて来る。
「よし、それじゃあ、東門から討って出る。」
それを聞いて兵達が驚きの声をあげた。当然であろう。兵力で劣る上でなお出陣など、馬鹿げている。
「落ち着けって。櫓から見た限り、東門に向かって来る兵が一番少なかった。こちらから仕掛ければ混乱し、突破はできる。そのまま北門を攻める賊を横から奇襲。だが、本格的にぶつからなくて良い。ちょっと当てたらそのまま大回りして西門の敵をやはり側面からぶつかる。」
それだけでは、大した打撃にはならないだろう。だが、相手は警戒するはずだ。
「『もう1度目後ろから攻撃されるかもしれない』ってな。そうすれば少しは正面が楽になる。」
(もっとも、なんども行けるほど馬が保つとは思えんけどな。)
不安は多い。だが、現状できる時間稼ぎはその程度だ。あとは援軍が来るまで耐えられるかどうか。
「時間が惜しい。それで行きましょう。みんな、行くぞ!」
少女が拳を振り上げる。それに呼応する様に兵達も声をあげ、各々の獲物を振り上げた。
東門。北に比べ、造りが簡易的で丸太で補強はしてあるが、如何せん心許ない。
その門に向かって賊達が向かってきている。
「ヘッ、こっちのは脆そうじゃねえか。余裕だな。」
先頭で馬に跨って槍を肩に担いだ男が笑いながら進む。そしてその槍を高く掲げ、部下に命令を出そうとした所でボロボロの門が開いた。驚き、呆れる。
「なんだ、抵抗は諦めたか?」
だか、その表情が凍る。開いた門の先には馬に跨った兵が多数。慌てて声を上げようとするが、声が出ない。喉元が熱い。ゆっくり視線を下に向けると短刀が刺さっていた。
門が開く。徐庶が馬腹を蹴り、走らせる。同時に先頭の男にナイフを投げて仕留めた。
「よし、このまま横を抜けるぞ!」
「私たちが出たら直ぐに門を閉じろ!いいな!」
そのまま走り、賊の横を抜けて行く。すれ違いざまに、先程の仕留めた男が落馬する前に、手にしていた槍を奪った。
(槍は苦手なんだがなぁ・・・。)
「逃すな!追うぞ!」
「走って終えるか馬鹿!馬は!」
「待て、頭の命令は街への攻撃だぞ?追うな!」
「見逃せって?それこそ馬鹿だろ!」
賊達が揉め出す。先に仕留めた者が賊をまとめる長だったのだろう。徐庶の思惑通り隊が混乱しだした。
(凄い。この者の言った通りになった。これなら耐えられるかもしれない!)
羨望の眼差しで、前を掛ける男の背を見る。
だが、その男の胸中は。
(・・・このどさくさに紛れて逃げようかな。)
などと考えていたりする。