あれから更に数年の月日がたった。多くの仲間と共に学び、研鑽をしていた徐庶。諸葛亮、龐統よりもはやく私塾を卒業する事となった。
この日、徐庶はいつもの学舎で2人っきり、師であった水鏡こと、司馬徽の座る前で頭を下げていた。
「本当に良いの?あなたなら劉表様だけでなく、袁家や何進将軍、劉焉様への紹介状も・・・。」
「それを言うなら先生もでしょう。私は、ここで得た知識だけでなく、自身の目と耳で見聞したいと思います。仕官するかどうか、その相手は誰か、それを考えるのはその後です。」
そう言って笑顔で頭をあげた。そう言われてしまえば、もう何も言える事はない。司馬徽は微笑み、手渡したのは一枚の木簡。
「わかりました。これを持ってお行きなさい。あなたの身分証として使えるでしょう。」
それは所謂卒業証書の様なもの。私塾で学びを得た証、そして記された師の名前。司馬徽の名は、ある程度この大陸に知れている。その私塾出身だと言えば、信頼度は決して低くはない。
「ありがとうございます。長い間お世話になりました。」
もう一度深々と頭を下げて、部屋を出た。
「「徐兄!」」
私塾を出てすぐ。前もって用意しておいた荷を背負ったところで、2人の少女が声をかけて来た。諸葛亮と龐統だ。
「おう、孔明に士元。なんだ見送りか?」
「・・・本当に行ってしまうんですか?」
諸葛亮が泣きそうになりながら言った。徐庶は笑顔で頭を撫でた。
「ああ。ここで得られるものは得た。あとは俺自身で見て、聞いて、学んでいく。」
「先ずはどこに行くんですか?」
やはり諸葛亮同様、泣きそうな声で龐統はたずねた。徐庶は、やはり笑顔で頭を撫でる。
「先ずは揚州方面かな。あそこは孔明の姉ちゃんが仕官してたよな。」
諸葛亮が頷いた。姉とは今でもたまに書のやりとりをしている。
「その後は北上して冀州か幽州あたり。そんで洛陽を経由して一度荊州に戻る。」
大雑把な流れを聞き、少し不安になった。最近姉からもらった書に気になる記述があったからだ。
「あっちは今、江賊が多発しています。」
諸葛亮が言うように、揚州から来ていた商人からも同じ様な話は聞いていた。確かに無手なら危険かもしれない。
「らしいな。なに、自分の身一つぐらいは守れるさ。」
そう言いながら腰に差していた剣を叩いてみせた。普通の剣と比べてやや短め。所謂撃剣と呼ばれているものだ。
「お前らもあと2、3年もせずに卒業だ。どうせ仕官する気はないんだろ。」
徐庶の問いに、互いに目を合わせた2人は頷いた。徐庶は今までで一番の笑顔で2人の頭を撫でた。
「先に行って色々見てくるぜ。・・・俺の真名は侠懐だ。次に会うのはいつになるかわからんが、受け取ってくれるよな?」
突然の事に2人は驚き、顔を見合わせそして今までの中で最高の笑顔で2人も真名を名乗った。
羌瘣「・・・。」
信「どうした?」
羌瘣「未来で私の名前が使われた気がする。」
信「はぁ?」