そのまま北に向かって駆ける。徐庶の馬は他の馬より強い為、若干速度を抑えながら走る。だが、それでも隊は少しずつ縦長になって行くが。
(これって全力で走らせたら俺だけ逃げれるんじゃね?)
チラッと後ろを確認する。必死に馬を走らせる男達。その先頭、つまり徐庶の真後ろには最初に出会った女性。
(あ、無理だこれ。仕方ない、このまま当初の予定通り突っ込むか。)
期待する瞳を無視して逃げるなど、任侠に反する。徐庶の性格上それは出来なかった。つくづく自分の損な性格を恨みたくなる。
「付き合う義理は無いはずなんだが・・・なぁ!!」
そのままの勢いで北門に殺到する賊の側面に突っ込んだ。手にした槍を大きく薙ぎ払う。
メキッと嫌な音と共に2人ほど人間が吹っ飛んだ。
そしてそのまま槍で突きながら賊達の背面へと回り込む様に動く。後ろの者達も同様に、槍や剣を振るう者もいれば、必死に付いて来るだけの者もいる。
「な、なんだ!?どこから来た!?」
「官軍か!?」
「まさか、他の所からか?」
「おいおい話が違うぞ!?」
賊が乱れる。その様を確認し、そのまま西門へと向かって駆ける。
「あれが凪の言っとった策って奴か?えらい無茶しよるなぁ。」
北門の内側。櫓の上から髪を大雑把に左右にまとめた、豊満な少女が笑いながら見下ろしていた。
その視線の先。騎馬隊が賊の背後を抜け、そのまま西へと駆けて行く。
「な、もう行っちまうのか?もっと頑張れよ!」
隣にいた男が西へと向かう騎馬隊に文句を言うが、その男の後頭部を少女が叩いた。
「阿呆、攻撃受けとんはここだけや無いんや。文句を言う前にウチらも戦うで!」
その声に合わせる様に門が開き、義勇兵が打って出た。それを確認し、そばに置いてあった弓に矢をつがえる。
「・・・じゃまじゃ無いっすか?」
「何が、とはきかんで。」
西門へと差し掛かる。徐庶がまた後ろを確認すると、騎馬の数が僅かだが減っていた。
(思ったより残ったけど、キツイなぁ。)
数もだが、馬もだ。速度がだいぶ落ちている。徐庶が速度を落とし、後ろの女性に合わせる。
「西門の賊に当たったら、そのまま南門から中に入れ。その後はもう外は良い。中から北と東の援護に向かってくれ。」
「貴方は?」
頷き、疑問を口にする。わざわざ話すと言う事は、自分は別行動をすると言う意味だろうと察したからだ。
「俺か?俺はもう一回北に突っ込んで来る。」
そう言って直ぐに馬首を返した。
「な!?そんな無茶な!?」
思わず声を上げてしまうが、それより速く徐庶は離れて行った。焦るも、今更付いてはいけない。
「クッ、我々はこのまま西門へと向かう!私に続け!」
拳を振り上げ後方に声をかけ、そのまま西門の賊にぶつかった。
再度北門へと向かう。手にした槍は既に亀裂が入っている。あと5回も保てば良い方か。
「大将が見えれば、やりようはあるんだが・・・。」
1度目の接触では、それらしい姿は確認できなかった。次は見えれば良いが。
北門へと戻って来た。打って出た義勇兵と入り乱れており、やはり敵将の判断は難しい。
「ま、乱戦ならまだなんとか行けるか。」
賊らとぶつかる前に徐庶は馬から飛び降りて駆け出した。手にしていた槍を横に薙ぎ払い、目の前の男を張り倒す。
「な!?」
こちらに気付いた賊が剣を構えるが、それより先に槍を突き出し喉を刺す。直ぐに引き抜き、もう1度目薙ぎ払う。
横にいた賊を吹き飛ばすと同時に折れた。
「脆いなチクショウ!」
折れた柄を振りかぶって投げつけた。尖った先が目の前の賊に突き刺さる。
こちらの得物が無くなったと思ったのか、賊が剣を振り下ろす。徐庶はその腕を蹴り上げ、動きが止まった所に懐から短刀を取り出し相手の胸へと突き刺した。
そのまま回転して刃を抜きながら相手の剣を奪う。右手に剣、左に逆手持ちの短刀を構えた。
(さて・・・正直しんどいぞ。どうしたものかね。)
愛用の直刀は宿屋。手元の武器は奪った剣と護身用の短刀数本。敵の大将の位置は不明。
(・・・まだ詰んじゃいないぞ?)
冷や汗を流しながらも、視線は周りを見る。
(見えた!)
周りより少しだが身なりの良い男。周りに指示を出しているのが見えた。同様に周りに指示をしていると思われる者がすぐ正面に1人と、少し離れた所に1人。
(まずは頭を潰す!)
斬りかかってくる賊の剣を受け流し、身体を入れ替え前に出る。そのまま姿勢を落とし、地を蹴った。間合いを一気に詰め、斬りあげる。
(1人!)
左手の短刀を投げる。
(2人目!)
徐庶はすぐさま懐からもう一本の短刀を取り出し投げた。だがそれは槍で受け止められる。思わず舌打ちを漏らすが直ぐに切り替え、落ちていた刀を拾い、二刀で飛び掛った。
「ハッ!」
突かれる槍を二刀で受け流し、相手の腕を斬る。だが体をひねって躱され、切っ先がかすめるだけだった。だが、無理やり躱したため、姿勢が崩れている。
「もらった!」
腕を伸ばし、相手の喉元を目掛けて突き刺した。
「波才様!?」
恐らく敵将の名前なのだろう。予想通りだ。
だが相手も賊とはいえ、武将である。喉元に刺さる前に、崩れたバランスに逆らうことなく姿勢を落とした。徐庶の伸ばした刃は肩に突き刺さる。
仕留め損なった以上、止まるのは危険だ。徐庶は舌打ちし、刺さった剣をそのまま手放しクルッと向きを変え、門の方へと走った。
「グッ・・・1度下がる!西と東にも命令を出せ!」
膝をついた波才が槍を杖代わりに体を支え、声を荒げた。
下がっていく賊達の間をすり抜け、柵まで下がった徐庶は、手にしていた剣を地面に刺し、それを足掛かりとしてトンッと柵を飛び越えた。後ろを振り返ると賊達が離れていく様が見えた。
(よし、とりあえずこれで1日、2日は耐えれるな。)
大きく息を吐きながら柵に寄りかかる。ふと、視線を東に向けると砂埃が見えた。驚き目を凝らす。
少数の兵だが、旗印には『曹』と『夏侯』。
「まさか・・・幾ら何でも速すぎるだろ・・・。」