「凄いやっちゃなぁ・・・。」
弓を肩に掛けながら見下ろす先。柵を飛び越え、内側から東の方を眺める男。
理論を掲げるだけでなく、先頭に立って行動。そして実際に結果を出した。
(あの兄さんがおらんかったら、もっと被害が出とったやろな。)
東の方に目をやると『曹』の旗印。援軍だ。ホッと胸をなでおろし視線を戻すと、先程の男が膝から崩れ落ちた。
「!?」
慌てて櫓からおり、駆け寄った。助け起こそうと手を伸ばす。
「ちょ、兄さん大丈夫かいな!?どっかやられたんか!?」
「・・・さっき買った干し肉どっかに落とした。」
手を伸ばしたまま顔から地面に突っ込んだ。
「すまん、驚かせた。」
立ち上がり、砂を叩く。曹操軍が東の門に向かっているのが見えた。
「ホンマやで。でも無事でよかったわ。」
女性がホッと胸を撫で下ろす。
柵の向こう側から馬が寄ってきた。先程まで徐庶が乗っていた馬だ。
「」タダイマー
「よしよし。向こうの扉、開けれるか?」
「ああ、大丈夫や。」
馬と並行しながら扉がある方へと歩く。
「ウチは李典や。よろしゅうな。ちなみに最初に兄さんが出会った娘は楽進や。」
「俺は・・・徐福だ。よろしくな。」
扉を開き、馬を入れた。頭を徐庶に押し付けてくる。徐庶は笑顔で頭を撫でた。
「」ホメテー
「よしよし。よく戻ってきてくれた。」
「しかし、ホンマ助かったで。兄さんのおかげや。もしかしてどっかの軍師様とかやったり?」
李典も笑顔で徐庶の馬を撫でながら徐庶にたずねた。それに徐庶は苦笑いする。
「やめてくれ。釣り糸を垂らしてなければ、老人に靴を履かせてもない。俺はただの旅人だ。とりあえず、援軍も来たみたいだし、もう大丈夫だな。」
もっとも、数は少ない。おそらく先遣隊だろう。パッと見た数では、まだ賊軍の方が数は多い。
(どれ程の精鋭かはわからんが、軍が動いたならこれ以上付き合ってやる必要はないしな。)
「あとはそっちの指示に従ってくれ。俺は宿屋に戻るわ。」
そう言って馬を引いて城内へと入っていった。驚き李典が後ろから追いかける。
(確かに、曹操軍が来てくれたんや。これ以上、旅人の兄さんを巻き込むわけにはいかんわな。でも・・・。)
旅人でありながら、あれだけの行動力。彼程の者が居てくれればどれ程心強いだろうか。そう思い、思わず声をかけようと手を伸ばす。
「悪いな。面倒は嫌いなんだ。」
李典の表情で察した徐庶は一言残し、宿屋へと戻った。
そして宿屋。馬を預けて部屋へと戻る。
(とは言ったものの、すぐにこの街からは出れないだろうなぁ・・・。)
ため息を漏らす。賊軍が来ている以上、すぐには外に出れない。それに、旅の路銀はまだまだ大丈夫だが、食料は少し心許ない。
「義理は果たしたし、あとは危うきに近寄らずってな。」
窓を開けて外を見る。大きな通りと街の中央にある広場が見えた。そこに並ぶ『曹』の旗がなびいていた。