その日の夜。
(どうしたものかね。)
硬いパンのような物を齧りながら窓の外を見る。曹操軍らの陣営から僅かに漏れる光が見えた。
(戦が始まれば、否応なく巻き込まれる。面倒ごとはごめんだなぁ。)
昼間に出会った少女らの姿が思い浮かぶ。面と向かって『協力してほしい』と言われてしまえば、徐庶の性格上断れない。
(夜のうちに抜け出すか。)
溜息を吐き、頭をかく。少数とはいえ曹操軍の精鋭。あの程度の賊軍に遅れをとるとは思えない。なら、もう関わるのは避けるべきだ。
そう決めてからの徐庶の行動は速かった。荷物をまとめ、馬を引き南門へと向かった。
当然のように門番がいる。だが、『ただの旅人が賊を恐れ、夜のうちにコッソリ南門から逃げる』だけだ。幸運な事に、同様に考えた者が何人かいたおかげであっさり外へと出れた。
(本当は許昌方面にも行きたかったんだが、食料がキツイな。しょうがない、このまま南下して荊州南陽かな。)
そして数日。食料が尽き、道中で抜いた草を噛みながら歩く。正直あまり美味くない。だが、一応食える草なので我慢する。
「そこらの草が普通に食えるお前が羨ましいわ。」
「」ドヤァ
馬の首を撫でながらしばらく歩くと少し大きめの街が見えてきた。
(ここらは確か、何ヶ月か前に太守が亡くなってたはずだよな。新しい太守は誰か、少し調べて見るか。だが、それより先に先ずは飯だな。)
門を抜けて街へと入った。中々に活気のある良い街だ。贔屓目もあるが、やはり荊州は他の州より治安が良い気がする。
大きい道に入ってすぐにあった出店で適当に歩きながら食べれそうなものを買い、そのまま口にしながら歩く。
「・・・うん。北方よりこっちの味付けがやっぱり口に合うな。」
自然と笑みを浮かべながらしばらく歩き、大きめの宿で馬を預け、そのままそこに泊まった。そして翌朝、また街へと出歩き見聞する。
(見た所平和だな。物流も安定していて、価格の変動も小さい。太守が亡くなっても何の影響もないのか。)
店で話を聞くと、まだ新しい太守は派遣されていないらしく、前太守の部下を中心にまとめているという話だ。
(部下が優秀なのか。だとすると、次に任命される太守は荷が重いだろうなぁ。)
少しばかり同情しつつ、その日は何事もなく宿に戻った。
そして次の日。少し細い道の裏側へと入っていく。粗を探す訳ではないが、表が平和な程何処かで綻びが出るものだ。そして早速粗が見えた。
息を切らしながら小さな女の子が走ってきて、そして転んだ。起き上がろうとして手をつくが、立ち上がれない。その後ろには男が2人。
「逃げないでくれよ、お嬢ちゃん。怪我でもされたら、問題だ。」
「俺たちは君のお母さんに用があるだけだ。だから大人しくしてくれよ。」
優しい笑みでゆっくり歩み寄る。女の子が何とか立ち上がり、後退りする。
(あー・・・ここ最近、行く先々で面倒に巻き込まれてる気がするのは、気のせいか?)
溜息を吐きながら、徐庶は女の子前で立ち塞がった。