「あ?なんだてめぇ。」
急に口が悪くなる男。徐庶から大きな溜息が漏れた。
「義を見てせざるはってな。まあ、落ち着け。お前らが悪い奴らだと決まったわけじゃない。」
膝をつき、女の子の目線に合わせて頭に手を置く。
「例えば、この子が何か盗みをはたらいt「璃々何にも悪いことしてない!」 ・・・と言っているが?」
キッと強い瞳で、徐庶を睨む璃々と名乗った少女。少なくとも、そこに嘘は感じられない。徐庶が顔を上げて男を見る。男たちは舌打ちをし、こちらへと近付いてきた。
「「すみませんでしたッ!!」」
顔をボコボコに腫らした男2人が土下座していた。
「ケンカは相手を見てやることだな。で、とりあえずお嬢ちゃん。えーっと。」
「璃々って呼んでいいよ。」
ニコーっと笑みを浮かべながら徐庶の腕にしがみついた。苦笑いしながら、その子の頭を撫でる。
「その璃々ちゃんを狙った理由は?」
「は、はい。この子は前太守の娘です。ご存知かと思いますが、ここは太守が不在でして・・・今は劉表様の協力のもとで上手くまとまっていますが、いずれ中央から新たな太守が派遣されます。」
男が顔を上げながら話し、チラッと璃々へと視線を向ける。璃々は、いーっとしてそっぽを向いた。
「その時までに、前太守の娘や妻を懐に入れておけば、直ぐに高官になれると考えた者に雇われまして・・・。」
もう1人の男も顔を上げ、愛想笑いを浮かべる。徐庶は大きなため息を吐いた。
「・・・なるほど。面倒な事だな本当に。」
璃々を肩車しながら立ち上がる。
「とりあえず、お前ら邪魔だから帰れ。雇い主には見失ったとでも言うか、この街から逃げちまえ。」
そう言われ、顔を見合わせキョトンとする2人の男を置き去りに、大きな通りに出た。人混みに出ると璃々が周りをキョロキョロし出す。
「先ずは君のお母さんを探そうか。どっちに行ったらいいと思う?」
「うーん・・・あっち。」
璃々の指差す方。そちらは少し商店か離れた、所謂金持ちの類が住むような家が並ぶ方向だった。
(本格的なゴタゴタに巻き込まれる前になんとかしたいんだけどなぁ。)
だが、今更この娘を置いて行くわけにもいかない。また溜息が出そうになるにを我慢しながら、指差す方へと進んで行った。
その一廓に入ってすぐ。髪が長く、妖艶な雰囲気の女性が慌てるように周りをキョロキョロしていた。
「おかーさん!」
徐庶の頭の上から璃々が手を振りながら声をあげた。それに気付いた女性がこちらへと慌てて走り寄る。徐庶はしゃがみ、璃々を下ろした。駆け出し、抱き合う。
「ああ、璃々!よかったッ・・・!」
「えへへ、このお兄ちゃんが守ってくれたの。」
璃々がニコッとしばがら後ろを指差す。徐庶も笑みを浮かべて拱手した。
「わたくしは黄忠、字は漢升と申します。この度は我が娘を助けていただいたようで・・・なんと御礼申したら良いか。」
「そう簡単に頭を下げないでください。俺は只の旅人ですから。」
膝をつき頭を下げようとする黄忠の姿に、徐庶は焦って手を取り立たせた。そして少し表情を厳しくする。
「・・・少しだけ、お話よろしいですか?」
その表情を受けて、黄忠も何事か察し、頷いた。