恋姫†無双 徐伝   作:そこらの雑兵A

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多少、展開に無茶があるけど、気にするな!


第25話 義

「・・・やはり、そうでしたか。」

 

黄忠に案内されて入った一室。出されたお茶を飲みながら経緯を話した。それを聞いた黄忠が悲しそうに伏せていた目を開く。

 

「貴方様の仰られた通り、夫が亡くなってから、夫の部下の方々や知人の方々と共に、この街を守るために色々してきました。そして彼方此方の名家からそうでない者まで、多くの方から声をかけられるようになりました。」

 

手にしていた湯呑みを置きながら小さな溜息。

 

「この街のことを考えるのなら、その話を受けるべきなのでしょうが・・・。」

 

黄忠は、膝を枕にして寝息を立てている璃々の頭を優しく撫でた。徐庶は少しだけ悩む。

 

「・・・貴女が取れる選択肢は3つですかね。」

 

スッと指を三本立てる。黄忠が顔を上げて、その手を見る。

 

「貴女がどこかの名家と再婚。後ろ盾が付くので、迂闊にこの娘に手が出せなくなります。というか、手を出す理由が無くなります。」

 

1つ指を折る。ほんの僅かだが、黄忠の顔が曇ったように見えた。

 

「今の立場、身分を捨て街を出る。貴女自身も含め、自由になれます。ただ、その分不自由も増えますが。」

 

2つ目の指を折る。黄忠の表情は変わらない。

 

「貴女自身が太守となる。時間はかかりますが、そこまで行ければ、誰も手も口も出せなくなるでしょう。」

 

手を下ろす。黄忠は目を閉じ、何か思案するように俯いた。

 

「他にも多少違いはありますが、大雑把に分類すればこの3つです。」

 

「・・・今は、この娘が一番大事です。ですから・・・。」

 

目を開き、覚悟を決めたように口を開く。だが、それの途中で徐庶が掌を向けた。思わず口を閉じてしまう。

 

「では、中策ですね。この街以外でどこか頼れる場所、人物はいますか?」

 

「え、はい。益州巴郡に親友がいますが・・・。」

 

「成る程、なら好都合ですね。」

 

徐庶が近くに置いてあった筆と硯、そして何も書かれていない竹簡を取り、スラスラと文字を書いていく。

 

「・・・よし。益州に尹黙という者がいます。その方にこれを見せてください。きっとなんとかしてくれますから。」

 

そう言って渡した簡には黄忠達の状況と、あとは推薦状のような内容が書かれていた。その最後には『徐』の一文字。

 

「これで今と同等とは言えませんが、ある程度しっかりした生活が送れるはずです。」

 

「・・・貴方様は、一体?」

 

「只のお節介焼きですよ。」

 

そう言って照れ臭そうに明後日の方向を向きながら頬をかいた。それを見て黄忠が微笑み、深々と頭を下げた。

 

「詳しくは問いません。本当に、ありがとうございます。」

 

そして、徐庶と黄忠が同時に出入り口の方を見る。

 

「で、お前らはどうする?まだこの娘を狙うって言うんなら。」

 

徐庶が懐に手を入れる。だが、扉が開くと同時に男が2人、徐庶に向かって土下座をしてきた。

 

「「俺たちを部下にして下さい!」」

 

キョトンとする黄忠と、面倒臭そうな顔で頭を抱える徐庶。

 

「えっと・・・どちら様でしょう?」

 

「あー・・・。」

 

口籠る徐庶に対して、2人は頭を上げた。その顔は覚悟を決めた目。

 

「俺たちは、その娘を拐おうとした者です。」

 

「・・・!」

 

「その罰はどの様な形でも償います!どうか、お願いします!」

 

自ら罪を告白。黄忠が僅かに怒りと殺気を漏らすがそれを正面から受け止め、再度頭を下げた。

 

「彼の配下になるだけなら、ここに来る必要がありません。わざわざここで罪を白状した理由を聞かせていただけますか?」

 

黄忠がやや強い口調でたずべた。2人がゆっくり頭をあげる。

 

「俺たちは元々ならず者でした。それをここの太守様によって兵卒の末端に加えていただきました。」

 

「今回の事は上からの命令でしたが、気が付きました。俺たちはそんな命令よりも、義によって動きたいのです!」

 

「「そのためには、先ずここで黄忠殿に謝罪をしなければ、義に背くことになります!」」

 

揺らぎに消えた強い瞳。徐庶がため息を吐いた。

 

「お前らは、名は?」

 

「姓は陳、名は応!字はありません!」

 

「姓は邢、名は道栄!同じく字はありません!」

 

片膝立ちで拱手。頭を下げながら名前を名乗った。

 

「それじゃあ、2人に早速命令だ。」

 

 

 

 

 

そして2日後。黄忠と璃々は信頼の置ける人達数名のみに話を通し、街を出た。

 

「お母さん、どこに行くの?」

 

小さな馬にまたがった璃々が手綱を引く黄忠にたずねた。その馬の前を歩くには、鉞担いだ邢道栄。

 

「桔梗の所よ。これからしばらくはお世話になるのよ。」

 

「本当?久しぶりに桔梗さんに会えるんだ!」

 

嬉しそうに声を上げる璃々の姿に黄忠も微笑んだ。チラッと後ろを振り返る。後ろに追従するのは荷物を背負った陳応。

 

(結局名前は名乗ってくれなかったわね。わかった事は姓が『徐』という事。またいつか出会えたなら、この恩は必ず御返ししないとね。)

 

「どうしたのお母さん?」

 

「ううん、なんでもないわ。」

 

首をかしげる璃々に微笑み、西へと歩んでいった。




おお、邢道栄が出て来たか。

斬れっ!

邢道栄「!?」

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