賈詡に言われ、荷物をまとめて洛陽を出た徐庶達は鄴へと入った。そこでとある噂を耳にする。そしてその夜の宿屋。邢道栄、陳応と共に机を囲う。
「どう思う?」
「どう考えても可笑しいですぜ。洛陽が荒れている訳がないです。」
邢道栄が首を傾げなら言うと、陳応も頷き続けた。
「意図的に噂を流している、とかですか?」
「だろうな。じゃあ、誰が何のために?」
いつもよりもかなり真面目モードの徐庶。その問いに2人は首を傾げるだけだ。今の段階では情報が少なく、誰が主導したのかはわからない。だが、どうなるかはわかる。
「おそらく、董卓討伐のために連合が組まれる可能性が高い。」
「その前に洛陽を出れて良かったですね。」
気楽に言う邢道栄とは対照的に、厳しい表情の徐庶はやや俯き気味に思案。
(賈詡はそれをわかった上で洛陽を追い出したんだろうな・・・。)
「やれやれ、面倒な借りを作っちまったな。」
溜息を吐き、覚悟を決めた徐庶が顔を上げる。その表情を見た2人も、気を引き締めた顔をする。邢道栄に陳応も一時期は軍に所属していただけあり、この様な意識の切り替えは大したものだと、徐庶は頼もしく思った。
「少々荒っぽい事に首を突っ込むぞ?」
「「御意。」」
某所、小さな天幕が複数並ぶ中。中央にあった少し大きめの天幕に一人の少女が駆け寄ってくる。
「失礼します。」
魔女のような帽子をかぶった少女、龐統が入り口に垂れ下がる布を潜り、中へと入ってきた。そこには、中央に置かれた長机とそれを挟むように立つ5人。中央に立つピンクの長い髪を左右に降ろした女性が劉備。その隣に立つのは、龐統と同じくらいの少女諸葛亮。反対側の隣は長い黒髪を揺らしてこちらへと振り向く関羽。その向かい側には頭に虎の髪留めをつけた小さな少女張飛。そしてその隣、劉備の向かい側に立つのは唯一の男、北郷一刀だ。
「先ほど、公孫瓚様の軍の姿が確認できました。これで連合軍の集合予定場所わかりましゅ・・・ます。」
最後にかみ、顔を赤くしながら俯く龐統。それを見ながら、一刀が微笑み、皆へと顔を向ける。
「じゃあ、またで申し訳ないけど公孫瓚さんのとこにお世話になろうか。」
「やった!じゃあさっそく行ってくるね!」
「今度こそ、星には負けないのだ!」
笑みを浮かべる劉備と、腕を振り上げる張飛が天幕から出ていき、関羽が苦笑いしながら後を追っていった。
(反董卓連合か・・・このタイミングで既に伏龍鳳雛がいるって事は、おそらく俺が知っている三國志とは本筋は同じでも、陣営とか大分違うんだろうな。)
というか、主要人物が女性の時点で既に色々おかしい。だが、そんな事は関係ない。覚悟はもう決めた。
(俺の知識がどこまで通じるのかわかんないけど、まぁやれるだけやってみよう。)
改めて覚悟を決めた一刀も劉備らを追って天幕を出た。
周瑜が、馬に跨り部隊の先頭にいる女性へと馬を寄せる。
「どうした、雪蓮。柄にもなく緊張しているのか?」
「まさか。そういうのは私じゃなくって蓮華の方が似合うでしょ。」
雪蓮と呼ばれた露出の激しい服の女性、孫策が振り返り、笑みを浮かべた。だが、その表情はいつもより僅かに硬い事に周瑜は気が付いていた。そして孫策自身も、周瑜なら気が付いている事はわかっている。スッと笑みが消え、真剣な表情でたずねた。
「ねえ冥琳、今の私に母様の変わりが務まると思う?」
「・・・総じて見れば、お前は文台様に劣る。」
少しだけ間を置き周瑜が答えた。それを聞き、孫策は頷く。わかりきっていたことだ。どう足掻いたところで、母にはかなわない。
「だが、人を引き付ける魅力は相異ない。そして、事武に関しては確実にお前が上だ。だから胸を張れ。」
そう言って軽く背中を叩いた。
「フフッ、もー冥琳ったら。そんなに褒めたら私調子に乗っちゃうわよ?あ、でもこの服で今以上に胸を張ったら脱げちゃうわね。」
そう言いながら嬉しそうに笑う孫策。その姿に呆れながらも、周瑜も笑みを浮かべた。
「馬鹿な事はここまでだな。「袁」の旗が見えてきた。」
二人の視線の先、複数の旗と一軍が見えてきた。あれが連合軍の本陣なのだろう。この機会に、孫家の名を今まで以上に天下に轟かせる。決意を新たに、孫策と周瑜は馬腹を蹴り、足を速めた。
各陣営が集まり終え、その翌日。一番大きくて豪華な天幕に諸侯が集まっていた。
「皆様お揃いですわね!」
天幕へと入って来た金髪ロールで金色鎧の袁紹は意気揚々と一番奥の席へと着く。スッと視線を一通り周りへと向ける。
「それでは早速、悪逆非道の董卓を打ち倒すための話し合いを始めますわ!」
そして、一時間もしないうちに天幕から出て来たのは、袁紹よりは少し小さな巻き髪をした金髪の女性。曹操は溜息を吐いた。あからさまに不機嫌だ。そこに夏侯淵と兵数名が小走りで走り寄ってくる。
「如何でしたか?」
「如何も何も、あんなもの軍議じゃないわ。全く役に立たない。」
先の話し合いで決まった事は、総大将を袁紹とし、『優雅に華麗に前進して汜水関を落とす』だけだ。その話を聞いて夏侯淵は思わず苦笑いをするしかなかった。
「して、その他の方々は?」
「面白そうなのは何人かいたわ。」
話題を変えられると、曹操は多少機嫌を直して語る。先ずは対異民族で名を上げた馬騰に公孫瓚。
「でも特に気をひかれたのは孫策と、その横に控えていた女。」
そう話す曹操の目は、まるで獲物を狙う猛禽類の様に鋭く光っていた。
「それとは別に、少し気になるのはあの義勇軍かしらね。」
曹操が視線を少し離れた所のある一団へと向けた。それは黄巾の乱の時にも見た集団。今の軍議には呼ばれてすらいなかったが、噂によれば天の御使いがいるとの事だ。
「興味があるわ。今から出向いてみましょう。」
その言葉に夏侯淵は驚いた。たとえ噂通り天の御使いがるのだとしても、悪い言い方だが所詮は義勇軍だ。普通なら相手を自身の陣営側に呼ぶのものだ。
「今は細かい事は気にしなくて良いわ。それに、天の御使い以外にも興味はあるもの。直接見に行った方が面白そうだしね。」
夏侯淵の表情を読み取った曹操がそう言って笑みを浮かべ、夏侯淵と共にいた僅かな護衛のみで義勇軍の一団へと向っていった。