愛用の深緑の外套をまとい、頭巾をかぶり普段はあまりかけない眼鏡をわざわざかけた徐庶が陣中を進む。その背後には愛用の鉞を担いだ邢道栄と陳応。
それだけではない。他にも数名の男が付き従っていた。
ここは反董卓連合の陣。その中で最も端にある「公孫」の旗印、その隣にいるよくわからない一団。
(旗印はないから、たぶんここが義勇軍・・・だよな?)
正規の兵ではない徐庶らが連合に参加する方法はいくつかある。だが、最も楽で自由に動けるのは間違いなく義勇軍であろう。後ろに付き従う男たちも、義勇兵として戦いたいと、偶々村で出会った男たちだ。
それに、まだどこかの勢力に参加する気がない徐庶にとっては、他の選択肢をとりたくないというのも理由だ。
(周瑜殿に借りを作るのも面倒な事に成りそうだし、それに天の使いって言ったか?それにも興味はあるからな。)
天の使いではなく天の御使いだが、それは置いておこう。そのまま歩いていると、金属がぶつかり合う音と歓声が聞こえてくる。どうやら誰かが手合わせしているようだ。音の方へと足を運ぶと見知った顔が槍を振るっていた。相手は小柄ながらも、自分の身長よりも長い蛇矛を軽々と振るっている少女だ。
「ここにいるって事は、まだ公孫賛の所に居たのか。」
「おや、どこかで見た事があるような色男ではないか。」
手にしていた槍で蛇矛をはじき、大きく跳躍した趙雲が妖艶な笑みを浮かべながら徐庶の隣に降り立った。
「久しいな、趙将軍。・・・すまないが、単福のままで頼むわ。」
「ふむ・・・まぁ、良いだろう。して、ここに来られたという事は義勇軍か?」
「少々訳ありでな。ああ、そっちに迷惑はかけないから安心してくれ。」
少し考える素振りをする趙雲を尻目に、先ほど相手をしていた小柄な少女を見る。目が合った少女はぽかんとした表情で首を傾げた。
「星の知り合いか?あまり強そうには見えないのだ。」
頭の後ろで手を組みながらそう言う少女に、思わず苦笑いをしてしまう。だが実際に趙雲と比べれば腕前は下なので仕方が無いが。
「君は義勇軍の将か?我らも一団に加えて欲しいんだがどうだろうか。」
「うーん、聞いてみないの分からないのだ。ちょっと着いてきて欲しいのだ。」
(おいおい、いきなり見ず知らずの奴らを自分の大将の所に案内するとか大丈夫か?)
呆れ顔で、先を歩く少女の後ろ姿を追いながら隣を歩く趙雲を見るが、面白いものを見る様に笑顔を浮かべているだけだった。そのまま少し歩くとまたも見知った顔を見つけた。大きなつばの帽子をかぶった妹弟子だった。目が合う。お互い、驚いた顔をしているだろう。
(・・・なんでここにいるんだ?)
(どうしてこんなところに!?)
走り寄ってくる姿に苦笑いを浮かべながら、徐庶は人差し指を立てて口へと当てる。それを見て察した龐統は歩調を緩めながら徐庶らの前に立った。
「鈴々ちゃん、そちらの方達は?」
「仲間にして欲しいって。だからお姉ちゃんに相談しに来たのだ。」
「そう。では鈴々ちゃん、桃香様に伝えてきてください。私が案内しますから。」
そう言われると、鈴々と呼ばれた少女は中々の速度で駆けていった。その背を見送り、先ほどより少しだけゆったりとした足取りでと龐統の後をついていく。すると、趙雲に肩を軽くたたかれた。
「士元殿とは知り合いか?」
「・・・さぁ、何のことだ?」
隠すだけ無駄だろうが、あえて知らぬ振りをする。それだけで察してくれたのだろう。その後は何も言わずに後ろを付いてくるだけだった。
それから数分もせずに、陣の中央付近に近づいた所で、他より少々立派な天幕が見えた。その出入り口には複数の人物が立っている。
「すまないな、曹操。態々足を運んでくれたのに。」
そう言いながら、中央に立っていた男が軽く頭を下げた。という事は、その視線の先にいるのが曹操なのだろう。
「構わないわ。中々面白いものも見れたもの。劉備、何かあったら私の所に来なさい。それじゃ。」
踵を返し、去っていく曹操。それに付き従う中で一人。青い髪の女性が徐庶を一瞥し、曹操を追って行った。
龐統が前に出て、軽く頭を下げる。そこに並ぶ人たちを見て、やはり見知った顔がもう一人いた。
(だろうと思った。もう驚かないぞ。)
(!?・・・なんで?)
驚く諸葛亮を無視し、徐庶が前に出て拱手する。
「単福と申します。このたb 「単福!?」
先ほどの男が驚き声を上げた。突然の事に思わず徐庶も言葉を止めその男を見るが、その顔には全く心当たりがない。というか、服装も見たことがない。恐らく噂の天のなんたらだろうと予想するが、どうしたものか。
「あ、ごめん。続けてくれ。」
慌てながら促すので、とりあえず置いておくことにし、改めて徐庶は頭を下げた。
「この度、貴姉らの幕下に加えていただきたたく、馳せ参じました。是非とも、我らを一兵卒としてお使いください。」
「はい!よろしくお願いします!私たちと一緒に、圧制に苦しめられている人たちを救いましょう!」
そう言って笑みを浮かべながら、両手をグッと握る。この少女がここの頭首なのだろう。鶴の一声でこの一団への参加が許可された。
こんな簡単に仲間に加えて大丈夫なのかと、一抹の不安を感じるが、まぁ今回は都合が良いので良しとしよう。
「では、新しく隊に入ってもらいます。配置は・・・朱里、どうする?」
黒い長髪の女性が諸葛亮を呼ぶ。慌てながら諸葛亮が前に出た。
「で、では、貴方達は・・・とりあえず愛、関羽さんの部隊に入ってもらいます。えっと・・・あちらの旗の当たりで待機していてください。」
指さされた方には濃い緑の旗が一本立っていた。再度頭を下げ、徐庶を先頭にその旗の方へと向かっていった。
(単福って徐庶の事だよな。っていうか徐庶は女じゃないんだ・・・。まあ廖化も男だったし、おかしい事では無いけど・・・。)
徐庶らが去った後、その後ろ姿を見ながら一刀が腕を組みながら、自身の持つ三國志知識から必死に考える。
(朱里と雛里にこっそり話を聞いてみよう。もしその通りなら、絶対彼を曹操の下に行かせちゃ駄目だ!)
チラッと視線を横にすると、諸葛亮こと朱里と、龐統こと雛里が何やらこそこそ話をしていた。
ここの一刀は原作より三国志に詳しいようです。