恋姫†無双 徐伝   作:そこらの雑兵A

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第32話 綻び

徐庶は地面を軽く掘り、土や石を盛って小さな竃の様な物を作った。その穴に大きめの薪を井の字型に組み、その中心に削って細くした薪や木の皮などを入れていく。

 

「こういう時、軍にいると楽だな。」

 

「そうですな。道具や食料があるのは本当にありがたいです。」

 

隣で鍋を手にしていた陳応が頷く。ここは義勇軍の陣。ちょうど昼食時となり、他の軍から分け与えられた糧食の準備をしている所だ。

正規の軍とは違い、各々が共用の道具で作らなければならないが、手慣れたものだ。

薪を組み終わった所で、徐庶が懐から戦闘用とは別の小さな刃物と金属の棒を取り出す。

その刃に僅かに気を送り込み、ガッと一度だけ素早く擦り付けた。大きな火花が飛び散り、細かくしてあった木の皮に火を灯す。

 

「よし。そんじゃあ後は頼むわ。」

 

「お任せを。」

 

他の物達も昼食の用意をしている様だが、どうやら徐庶らが一番に火を付けたようだった。徐庶が立ち上がり、軽く周りを見渡す。すると、こちらに走り寄ってくる少女が二人。

 

「よう。まさかこんな所で出会うとはな。」

 

眼鏡を外しながら軽く手を上げ、微笑む。二人の妹弟子も笑みを浮かべた。

 

「お久しぶりです。徐兄、あ、えっと・・・侠懐兄さま。」

 

諸葛亮こと、朱里が少しだけ頬を赤くしながら軽く会釈した。龐統こと、雛里もお辞儀をする。

 

「元気そうで何よりだ。だが、驚いたよ。もう仕える主が決まったんだな。見た感じだと二人ともかなり重要な立ち位置にいるみたいだしな。」

 

徐庶が近くにあった大きめの丸太に腰掛けながら言うと、二人も隣に腰掛けた。

 

「侠懐兄さまも一緒・・・じゃないの?」

 

雛里が首を傾けながらたずねる。偽名を使った理由はわからないが、ここに来たという事はそういう事なのだろう。そう朱里と話をし、確認のために来たのだが、どうやら徐庶はそのつもりではないらしい。

 

「あー・・・まぁ、まだそのつもりはないが、この後次第かな。まずは情報確認したいんだがいいか?」

 

頷き、三人で話をする。まずは反董卓連合に参加している主要人物、兵力等。その数は圧倒的で、正面から戦えば董卓側の勝ち目はほぼゼロだろう。

 

「そこまでは、ある意味予想通りだな。じゃあ次だ。お前らはどこまで、洛陽の事を把握している?」

 

問いの意味を理解し、朱里と雛里は表情を厳しくした。二人が目を合わせ頷き、朱里が口を開いた。

 

「董卓が帝を虐げ、民に対して悪逆非道をしている・・・という名目を立てて連合が発足した所までわかっています。」

 

つまり、実際にはそんな事実はないという事がわかった上で、この連合に参加しているという事だ。

 

「成程。じゃあ、天然そうなあの子や、天の使いっていったか?あの男もそれを知っているのか。」

 

何も考えていないように見えたが、実際はそうではないのだろう。利害を考えたうえで参加しているのなら何も言うことはない。だが、現実は違った。

 

「いえ、桃香様・・・劉備様とご主人様はそれを知りません。あと、天の使いではなく、天の御使いです。」

 

「なんだと?」

 

「桃香様とご主人様は、本当に民が苦しんでいるのならそれを助けようと、本気でそう思ってこの連合軍に参加することを決めました。」

 

呆れた。朱里の言葉を聞き、思わず額に手を当てながら天を仰いでしまう。今のこのご時世に素直に周りの言葉を鵜吞みにし、全く知らない赤の他人のために動こうとする奴がいるとは。

 

「なんでそんな奴に仕えてるんだ?」

 

「こんな世の中だからこそ、あの方達のような御方が必要なんです!」

 

心底呆れたように言う徐庶に、朱里と雛里が反論する。その眼は本気だ。この二人がそこまで言うのだから、決して凡人ではないのだろう。だが、徐庶にはまだそうは思えない。

 

「まぁいいや。今はまだ様子を見させてもらうよ。正式に仕えるかどうかは保留にしておこう。」

 

「今度はこっちの番です。侠懐兄さまの目的、聞かせてください。」

 

雛里が目を厳しくしながらたずねた。今までの会話で、徐庶が劉備に仕えるために来た訳ではないことは分かった。では、なぜ態々義勇軍に参加したか。それを問いたださねばならない。

 

「大分省くが、ここに来るちょっと前まで洛陽にいてな。そこで出会った人に言われ、連合が出来る前に洛陽から出られた。」

 

若干面倒くさそうな顔で言う。だが、その表情だけで二人にはわかってしまった。徐庶はその人を助け出す為にここに来たのだろう。

 

「受けた借りは返さないとな。だがどう足掻いても、董卓軍に勝ち目はない。なら、戦のどさくさに紛れるのが一番確率が高いだろう。」

 

そう言う徐庶の顔を見て安心した。昔と全く変わっていない。誰かのため、正しいと思った事のため。そのために動ける心優しい徐兄のままだった。

 

「なら尚の事、正式に私たちの仲間になりませんか?侠懐兄さまが味方になってくれたら・・・。」

 

そういう朱里に対し、徐庶は首を横に振った。

 

「人が手を伸ばして良いのは届く範囲までだろ。俺にはまだ、お前らの主の行動を肯定することはできない。」

 

残念そうに視線を下げる二人。だが、徐庶は立ち上がり、二人の前にしゃがんで頭を撫でた。

 

「というわけで、済まないが俺の事は『単福』として、ただの一兵卒って事で頼むわ。今はまだ、な。あと、多少勝手に動くが、そこは目をつむってくれ。」

 

そう言って浮かべた笑みは、昔より少し凛々しく見えた。




手が届くのに伸ばさなかったら、死ぬほど後悔しそう。

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