三國志で言うとステータス70後半から80前半程度。
「ええい、なにが呂布だ!この方悦が相手じゃい!」
「邪魔。」
真っ先に飛び出した一人の男。だが、見向きもせずの一振りで上半身と下半身が分かれた。
そのままの勢いで振り下ろされた一撃。大地がひび割れ、衝撃で大の大人が5,6人同時に吹き飛んだ。たった二回の攻撃。それだけで袁紹軍は阿鼻叫喚に包まれた。
そして最悪なことに、呂布に続いて多数の騎馬隊、歩兵隊が門から打って出だ。
「な、なんなんですのあれは!?誰かあれを止めなさい!!」
袁紹が慌てて声を荒げた。一人の騎馬が呂布に向かって駆ける。
「呂布!この穆順が相手を致す!」
「邪魔。」
槍を振りかざす穆順に、やはり一言だけ返し、戟を突き出した。首から上が砕け散る。
「ひいぃぃ!?」
遠目で見ていた袁紹が腰を抜かした。側近と思われる二人の女性が慌てて寄り添う。
「猪々子さん、斗詩さん!な、なんとかなりませんの!?」
「いやいや、流石のあたいもあれに突っ込む勇気はないなぁ。」
「いくらなんでも死んじゃいますよ……。」
二人も泣きそうになりながら首を振る。その背後から歩み寄る影。それに気付いた三人が振り返り、そろって小さな悲鳴を上げた。
「あんたたちは下がってなさい。じゃないと……巻き込んじゃうかもね。」
全身から溢れ出る殺気と熱気を隠す事なく、笑みを浮かべながら歩を進める。その様は、過去を知るものであれば、彼の英雄、覇王項籍を思い浮かべたであろう。
「無茶苦茶だな、あの呂布って奴は。」
公孫瓚が息をのむ。だが、あれを止めるだけの将がいるとは思えない。悩んでいると、そのすぐ隣を人馬一体となった白い流星が駆けて行った。
「あれが人中の呂布ね。」
「あれを欲するなら、軍の半数を捨てる覚悟がいるぞ。」
暴れまわる呂布をみて、笑みを浮かべる曹操に李通が勧告する。そんな事はわかっている。だからこそ、視線をその先に向けた。
「春蘭。」
「ハッ!」
曹操の声に夏侯惇が膝を着く。
「張遼をとらえなさい。出来るわよね?」
「御意。」
一言答え、馬を駆って行った。その後を追うように曹操軍の騎馬隊もかけていった。
「……やべえな。」
徐庶が立ち尽くす。暴れまわっていた呂布がなぜか方向を変え、義勇軍側に近づいていた。呂布が標的を変えたわけではない。ただ、近い相手を屠っていたら方向がたまたま向いただけだった。
「に、逃げましょう!」
既に腰が引けてしまっている陳応が声を上げる。チラッと後方へと目を向ける。虎牢関から出てきた騎馬隊が、呂布を援護する用に大回りで回り込んでくるのが見えた。そちらの対処に関羽が向かっているのも、見えてしまった。徐庶があきらめたように息を吐いて、陳応が手にしていた槍を奪った。
「ここら一帯の兵をまとめて後方へ撤退。とりあえず劉備さんと合流して……近いのは陶謙か。その陣に紛れとけ。」
そう言って、自分の中にある何かを一段階、上へと切り替えた。
「ええい、こ、この武安国が相手を……やっぱ無理!!」
震えながら剣を振りかぶった武安国。だが、呂布の威圧に怯え、背を向けて逃げてしまった。それに向かって容赦なく戟を振り下ろそうとして、途中で方向を変えて横なぎに振り払う。投擲された槍が木っ端微塵に砕け散った。視線を向けると、槍を構えた徐庶が立っていた。
「……邪魔。」
「だろうな。邪魔しに来たわけだからな。」
徐庶が駆けだす。槍を突き出すが、どう考えても切っ先は届かない。だが、呂布が戟を振るう。その戟と槍が触れ合った。本来なら槍が砕け散っていただろう。
「!?」
触れ合った瞬間、徐庶が槍を手放した。槍は遥か彼方へ吹き飛ぶが、手ごたえがなくなったせいで一瞬呂布の動きがぶれる。本来ならその隙に呂布へど攻撃を加えるところだが、徐庶はそのまま呂布の横を通り過ぎて背後へと回った。
「ッ……。」
呂布が振り返り一撃を振り下ろす。だが徐庶は既に距離を取っており、その一撃は大地を砕くのみだった。
(速いッ……!こりゃあ、間合いを得物の倍の長さと想定すべきだな。)
飛び散った破片が徐庶の頬を切る。流れる血を無視し、懐から短刀を二本、呂布の顔めがけて投げる。それを呂布は平然と片手で掴んだ。
「返す。」
「んなッ!?」
呂布が手にした短刀を徐庶めがけて投げ返した。とっさの事に体をひねって躱すが、体勢を崩してしまい、地面に転がってしまった。慌てて立ち上がる徐庶の目前には振り下ろされる戟。
(あ……死ぬわこれ。)
咄嗟に直刀と懐から短刀を出し、十字で受け止めようとするが、耐えられる気がいない。
人が出したとは到底思えない激しい金属音。だが、その音の割には、徐庶の腕に伝わる衝撃は少なかった。
「フッ……。危ない所でしたなぁ。」
「これが呂布……。ふふふ、楽しくなりそうじゃないの。」
徐庶の手にした二本の刃。それに合わせるように重ねられた剣と槍。合計四本の刃が呂布の一撃を抑え込んでいた。
「何……?」
「趙子龍。名前ぐらいは聞いたことがあるのでは?」
「江東の虎、孫堅が長姉孫伯符。そんなのはどうでもいいでしょ?さあ、楽しみましょう!」
怪訝な顔をする呂布に対し、名乗った趙雲と孫策が両腕に力を込めた。流石の呂布も、軽くだが飛び、一旦距離を取った。そして、そこにさらにもう一撃。
「うりゃああぁぁ!!」
「はああぁ!!」
小さな体に似合わず、大きな咆哮。振り下ろされる重い一撃。その一撃を受けた呂布の表情が僅かに変わる。さらにそこに首を狙って振り下ろされた鋭い一撃。首をひねって躱し、改めて距離を取った。
「ここからは、張翼徳が相手になるのだ!」
「甘興覇、参る。」
「五体一か。だが、卑怯とは言うまいよ?」
そう挑発するように口走りながら趙雲が徐庶の腕を取り、立たせた。そして耳元で声をかける。
「まだいけるか?正直、あれを相手にするには一人でも多くの手がいる。」
本来なら一対一を挑みたいのが武将としての性だが、あれには勝てる気がしない。そう冷静に判断した趙雲が視線を逸らすことなくたずねた。
「正直きついが、そうも言ってられんな。出来るなら今すぐ逃げたい気分だよ。」
「そんな軽口が叩けるなら大丈夫でしょうな。」
徐庶が構えると趙雲も笑みを浮かべながら構えなおした。だが、そこでドラが鳴り響く。
「撤退?」
呂布が軽く首をかしげながら後ろへと目を向けた。虎牢関の上で小さな少女が手を振りながら声を上げているように見える。
「追いかけてくる?」
「……やめておくわ。これ以上追いかけたらウチの軍師様に怒られちゃう。」
孫策が剣を収め、肩をすくめた。張飛が何か言おうと矛を振り上げているのを苦笑いしながら徐庶が後ろから羽交い絞めにする。
「下がってくれるならその方がありがたいよ。」
「そう。じゃあ帰る。」
五人の将に囲まれた状態でありながらも、呂布は悠々と虎牢関へ帰っていった。
「はぁ……。助かりました、孫将軍。この借りはいつか必ずお返しします。」
徐庶が痛む腕をこらえながら拱手、孫策に頭を下げた。一瞬キョトンとした孫策だが、笑いながら手を振る。
「良いの良いの。私が好きで勝手に前線に出ただけだら。でも、あとで冥琳にこれでもかってぐらい叱られちゃうんだろうなぁ。」
うんざりとした表情の孫策の背を甘寧が押しながら帰っていく様を見送った所で、徐庶が地面へとへたり込んだ。
「おお!?だ、大丈夫なのだ!?」
「ああ……正直あまり大丈夫じゃないかも。」
両腕どころが、足もしびれだす。さっきまでは全身に気を巡らせていたから耐えられたが、少し緩めただけでこのありさまだ。趙雲の肩を借り、なんとか義勇軍の陣まで下がっていった。
この裏で夏侯惇が目を負傷。この小説ではその描写は一切ない。
夏侯惇「はぁ!?な、なぜだ!?」
……いや、マジごめん。