(命は保障するときたか。随分お優しい江賊だ。)
徐庶は腰にしていた剣から手を離した。荷の中身が何かは知らないが、量は決して多くない。正直、この状況なら商業的には痛手でも、背に腹はかえられないだろう。
だが船長の考えは違った。
「洒落臭い、者共!やってしまえ!!」
三下じみた台詞と同時に剣を抜く。それに合わせて周りの水夫や男達も武器を構えた。
「おいおい、本気かよ!?」
頭を下げながら船内へと下がる。上で騒がしい音が聞こえるが、仕方がない。
(こっちが無事に勝ってくれることを願うしかないか。)
時間としては十分もしていないだろう。音が大分減ってきた。徐庶はそっと顔を覗かせる。
(あー・・・これはダメな奴だ。)
船長と呼ばれた男とあと1人。その1人も今、目の前で女に斬り殺された。
「終わりだな。大人しく荷を渡せば良かったものを。」
パッと払った刀から飛び散った血飛沫が船上に斑点を刻む。それに怯えた船長が視線を彼方此方へと走らせる。そして徐庶と目があった。
船長が腰の袋に手を突っ込み、パッと投げる。小さな粉が飛び散った。所謂目潰しなのだろう。そして徐庶の方へと走ってくる。
「くだらん手だな。」
言うや否や、チリンと鈴が鳴ると同時に振り下ろされた切っ先。そのまま船長の首を刎ねた。ゴロンと転がる頭。それを目で追う女。そうなれば必然であろう。
「もう1人いたのか。」
徐庶と目があった。瞬間、放たれる殺気。
(あ、これやべぇ奴だ。)
咄嗟に船内から飛び出し、地を転がる。振り下ろされた刃は大きな傷を船に刻んだ。
(どう考えても刃渡りより切り口でけぇよ!?こいつも『気』の使い手か!)
転がりながら地面を叩いた反動で飛び、空中で態勢を整え、着地と同時に腰の直刀を抜き、構える。
「ほう。」
その身のこなしを見て、女が思わず声を漏らした。
(この男、先の奴らとは比べ物にならないな。)
(逃してくれる雰囲気じゃねぇよな・・・ヤベェって!?)
女が一瞬で間合いを詰めた。横に薙ぎ払われる刀を徐庶は腰を落として躱す。
女が振り切った反動のまま姿勢を捻り、顎を蹴り上げようとする。状態を大きく後ろへそらし、やはり躱す。
クルリと回って上段から振り下ろされる鋭い一撃。右足を大きく後ろへ引いての半身で紙一重で躱す。
地面を切り裂くと同時に弾けた刀で、無理やり横への薙ぎ払い。直刀で受け止め、その衝撃に乗り、大きく後ろへと下がって距離を取った。
(一発が重てぇな!?)
(これも躱すか。)
一旦距離が開いた。女がより表情を厳しくし、殺気が増す。
(こんな所で死にたくはないからなぁ。三十六計逃げるに如かずと行きたいが・・・さて、どこまで耐えられるもんか・・・。)
徐庶も深呼吸。自身の中にある何かを一段階、上へと切り替えた。
本気と書いてマジって読む?