直ぐ近くにあった街。都市と言うには少し小さいがしっかりとした城壁に囲まれた街だ。その門の所に数名の兵と、それをまとめているであろう将が2人。
少し幼さが残る青年の男女。少し長い髪の男と、団子状にまとめた後ろ髪、両腕が完全に隠れる程の長い袖の女。
「お疲れ様でした。今回はあまり良くなかった様ですね。」
青年が一歩前に出た。そして徐庶を見る。
「そちらの方は?」
「徐庶殿だ。子瑜の妹の学友だそうだ。賊に巻き込まれる形になってしまってな。朱治はこのままここで待機。甘寧が戻ったらそれの手伝いを頼む。呂蒙は私達と共に来い。」
そのまま周瑜を先頭に案内された部屋。侍女が持って来たお茶を飲みながら話しをする事になった。
今、周瑜はここを中心に江賊の取り締まりと水軍の調練を請け負っているとの事だ。
「私はその補佐を務めています。先の女性は甘寧将軍。元江賊なんですが所謂義賊で、他の江賊から略奪した物を色々な村に届けたりしてました。だから彼等の行動がある程度予想できるそうですよ。」
「成る程。通りで船の扱いに慣れている様でした。江賊の者達を捕縛しようとしたのは兵への登用及び抜擢ですか。」
諸葛瑾と徐庶の会話を聞きながら、周瑜は頷く。
「まだまだ我々には人手が足りんのでな。特に船を手足の如く扱える様な水兵を育成するには金も時間もかかる。その点、江賊は一人一人の技量が一定水準ある。
だが、民の事を考えるなら、有無を言わさず軍を動かして手早く討伐すべきなのだろうがな。」
甘寧が良い例で、江賊も一枚岩ではない。それぞれ勢力があり、それを一つずつ力量を確認する様に時間をかけて討伐しているのだ。
「・・・遠い目で見るならば、今のうちにしっかりとした戦力を持つ事は、未来で国を守る事に繋がります。それに少しずつでも討伐は進んでいるのでしょう?ならそれで良いじゃないですか。」
「そう言ってくれるならありがたい。この辺りでは、やはり船がないと不便が多くてな。元々扱いに慣れている者も多いのだが・・・。」
揚州での移動手段、それに伴う人員や金銭、民間でのおおよその船の数等、軍内部とは直接関わる話を意図的に避けているのだろう。だが、徐庶にとってはそれだけでもかなり有用な話だった。
「っと、すまないな。少し一方的に話しすぎてしまった。申し訳ない。」
周瑜が頭を軽く下げる。徐庶は微笑みながら手を振った。
「お気になさらず。こちらとしては中々有意義な話でしたよ。俺がいた荊州では、民間の船はそれ程多くないですから。」
お返しにと、荊州では船はあるがそれが主ではない事、昔から学問や文芸が盛んである事、そして『劉表が軍備をやや疎かにしている事』を話した。
「最も、過激派は何処にでもいる物、黄祖将軍や蒯越という方はどちらかといえば軍事よりですね。」
現段階で徐庶が知り得る情報。だがそれは、他の勢力では知り得難い情報だ。平然と話す徐庶に周瑜と諸葛瑾は驚いた。
「そんな話を私達にして大丈夫なのか?」
「お気になさらず。一宿一飯の恩という事で。」
ニコッと微笑む徐庶に、周瑜と諸葛瑾は顔を見合わせ笑うしかなかった。
「中々食えない方だ。」
「周将軍には劣ります。」
「嫌味にしか聞こえんな。」
そう言って声を出して笑いあった。
その後も、互いにいくつか話をしあった所で、徐庶は諸葛瑾の案内で部屋を出た。
残された周瑜と呂蒙。
呂蒙は途中までは必死に話を聞いていたが、途中から頭が限界を超えたのであろう、ポカーンとしていた。
「亞莎、大丈夫か?」
「は、はい。途中までは・・・。」
「フフ。そうだろうな。あの者、武もそれなりだが、それ以上に知にも政にも優れている様だ。是非うちに欲しかったのだがな。」
周瑜が少し残念そうに微笑んだ。呂蒙がキョトンと首をかしげる。
「勧誘しないのですか?」
「こちらが欲している情報をあえて話した上で、『一宿一飯』と言った。明日の朝にはここを立つつもりなのだろう。仕官する気がない証拠だ。」
そう周瑜に言われ、やっと気が付いてハッとした。
「お前も、しっかり学べ。一角の将となるには武だけでは駄目だぞ。」
そう言われた呂蒙は力強く頷いた。
これから必死に勉強した呂蒙は目を悪くして眼鏡をかける様になったとさ。