「改めまして。俺の名は徐庶。よろしく。」
太陽の向きで方角を確認し、北へと向かって歩き始めた4人。そこで徐庶が名を名乗った。
「私は戯志才と申します。」
「程立といいます〜。」
「私は趙雲だ。」
順に3人も名を名乗った。どうやら3人も旅の理由は徐庶と同じ様な物だった。少し違うのは、3人は仕える主君に足る人物を探しているという事だった。
「徐庶殿は誰かに仕える気は無いのですか?」
戯志才の問いに徐庶は少し困った様に笑う。
「正直考えてない・・・と言ってしまったら嘘だな。ただ、自分がまだ納得できる様な『答え』が出ないうちは、誰かを主人として仕える事はしたく無い。」
「答え・・・ですか。」
程立が首を傾げた。趙雲も少し難しい顔をしている。
「あー・・・まぁ、なんて言うか。昔ちょっと色々やらかしてしまってな。それで何が正しいのか、わからなくなってしまったんだ。」
苦笑いをしながら頭を掻いた。
「それで、自分の中で胸張って『正しい』って言えるなにかが見つかるまでは旅をしようかってな。」
「何が正しいか・・・ですか。難しいですね。」
戯志才が顎に手を当てる様にしながら呟いた。逆に趙雲は笑う。
「正しいかどうかは他人が決める事。要は、自分の正義を信じれば良いだけでしょう。」
「ま、それができれば1番なんだろうがな。」
趙雲の答えは徐庶もわかっている。だが、それが何より難しい。
「趙雲さんはその辺りは凄くしっかりしてそうだな。」
「当然。我が槍には偽るものも、隠す様な事も一切ありはせぬ。」
そう言ってニヤッと笑ってみせた。
「それで、その槍に叶う様な人物はいたか?徐州なら陶謙だっけ。」
徐庶の言葉に、趙雲は困ったような笑みで首を振った。同様に戯志才と程立も微妙な顔をする。
「最近派遣されてきたばかりの方ですからね。やはり地元豪族達とのいざこざに手を焼いてました。」
「どうも動きが遅く、その程度の御仁、と言う事ですね〜。揚州の方はどうでしょう?」
程立に聞かれ、徐庶は悩んだ。あの時は、互いの利という事でいくつか話あったが、それをここで他人に話す事に抵抗があった。
「運良く、周公瑾と出会って話ができた。詳しい事は省くが、あれ程の人が支えるのだから、孫堅は間違いなく大物だろうな。」
なので人物評のみ話す事にした。だがその名前を聞いただけで、やはり3人とも僅かに表情を変える。
「彼女がいる以上、孫家の中での立身出世は多少難航するかもな。」
「成る程。仕官云々は置いておいて、揚州の方も一度行ってみないといけませんね。」
「その前に先ずは無事に山を抜けないとなぁ・・・。」
そう言って徐庶は溜息を吐いた。