可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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8話 ♯14「次は忘れずに」

「ん?樋口どうした?ぽかーんとして」

 

樋口はというと手にグラスを持ったまま固まっている。

 

「いえ…なんか、話についていけなくて。僕は遠くから眺めていただけでしたから…」

 

「あー、そういえばアンタらは見れてなかったのか」

 

「ええ。何かしらのトラブルがあったってのはわかりましたが、まさかそんな駆け引きがあったとは…すごいです。さすが元プロですね、桃山さん」

 

「まーなー。もっと褒めてもいいぞー」

 

紫は気分を良くし、酒を流し込んだ。

 

「ところで、ヘズさんもプロだったんですよね?」

 

樋口はヘズに問う。

 

「ああ、そうだヨ。あっちで2年だけナ」

 

「引退されてからこっちへ来たんですか?」

 

「そうだナ。引退してもデュエルは好きだったから、デュエルに関する仕事を探すために日本に来て…それからずっといるナ」

 

「そうだったんですか。日本語も上手ですね」

 

「ありがとウ。まだ難しい言葉はよくわからないけどネ」

 

「それは僕も同じですよ、日本語難しいですよね」

 

樋口は少々困ったような笑みを浮かべながら同意する。

 

「っぷはー!よーしまだまだ飲むぞー!」

 

「紫さん、飲みすぎです」

 

それをよそに酒を煽る紫。

 

「今日ぐらい許せー!レーリも飲むか?今日は許すぞー!」

 

「駄目ですよ桃山さん!レイリちゃんまだ未成年ですよ!?」

 

「真面目だな、樋口さんハ。ちょっとくらいなら問題ないヨ?」

 

「問題あります!というかそういう問題じゃないです!」

 

4人の夜は続いていく…

 

 

 

ーーー

 

 

 

夜の鶸櫨。ヘズは紫の手を肩に回しバランスを保ちながら歩いている。

 

「うー…ヘズすまんー」

 

だらーんと脱力した紫が舌足らずな声を発する。とてもじゃないが、自力で歩ける状態ではなさそうだ。

 

「まったく、歩けなくなるまで飲みやがっテ…」

 

「ヘズさん、大丈夫ですか?代わりましょうか?」

 

後ろを歩く樋口が提案する。

 

「大丈夫だヨ。ユカリの家はオレの家のすぐ近くだし、タクシーで一緒に帰るヨ」

 

「そうですか…あ、タクシーありましたよ」

 

ちょうどその時、樋口が停車してるタクシーを発見した。樋口は先に行って確保する。

 

 

 

「それじゃあオレとユカリは、ここデ。今日は楽しかったヨ」

 

「僕も楽しかったです。帰り道、お気をつけて」

 

ヘズは紫と共にタクシーに乗り込んだ。

 

「鈴瀬さん」

 

「はい」

 

ドアが閉まる直前、ヘズは彼女を呼ぶ。

 

「また勝負する時は教えてくれヨ?どこからでも駆け付けるからサ」

 

冗談混じりに笑顔を見せるヘズ。

 

 

 

「お待ちしてます、ご主人様」

 

対し、彼女も冗談っぽく微笑み返した。

 

「!…」

 

ヘズが言葉を返す間も無くドアが閉まり、2人を乗せたタクシーは去って行く。

 

 

 

「僕たちも帰ろうか、レイリちゃん」

 

「はい」

 

タクシーを見送った彼女と樋口は再び歩き出した。

 

 

 

ーーー

 

 

 

タクシーの車内にて、ヘズは今日の出来事を振り返りながら考える。

 

(先週は当事者として、今日は第三者として鈴瀬さんの強さを実感しタ)

 

(鈴瀬さんの実力は、もう疑う余地なく裏プロレベルの博徒ダ)

 

(次の勝負も是非、生で見ておきたいネ)

 

ヘズは隣に首を向ける。

 

(まあ、この横でだらしなく眠っているユカリも結構な強さを見せたけどナ)

 

(オレも裏でやっていくにはまだまだ足りないナ…もっと強くならないト)

 

(…それにしてモ)

 

ヘズはフーっと深く息を吐く。

 

 

 

(ご主人様は、『反則』だロ…)

 

窓から流れる景色を眺めながら、ヘズは軽く苦笑いをした。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「次はー、桐縹ー桐縹ー」

 

車掌のアナウンスが車内に響き渡る。2人は鶸櫨駅から電車に乗り、ここまで揺られてきた。

 

「レイリちゃんは桐縹駅で降りるんだよね?」

 

「はい。樋口さんは?」

 

「僕はもう1つ先だけど…送らなくても大丈夫?」

 

「大丈夫です」

 

「そっか、夜道は危ないから気をつけてね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

やがて電車が桐縹駅に到着し、彼女は下車した。

 

 

 

1人になった樋口は紫の言葉を思い出す。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「100万200万程度の額で揺らぐような子じゃない。アタシらよりよっぽど強いよ」

 

「でも…!」

 

「それに勝負を受けたのは他でもないレーリだからな、信じて見守ってやれ」

 

 

 

 

 

 

 

(…桃山さんの言う通りだった。勝負を止めるなんて余計なことせず、信じて見守る…それで正解だった)

 

(僕なんかより、よっぽど強いデュエリストだったんだな…)

 

樋口は一抹の寂しさを覚える。

 

(なんだか急に遠くに行っちゃった感じだなあ…たぶんこれからも、僕には信じて見守ることしか出来ないんだろうな)

 

彼女との距離を感じながら、樋口は車内の窓から空を見上げた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

桐縹駅構内を出て、彼女は携帯電話を取り出す。時刻は午後10時を回っていた。

 

「んー…」

 

体を伸ばし、あくびをする。朝早くから家を出たということもあり、眼鏡の下のまぶたは少々重そうだ。

 

(今日も、勝てました)

 

今日の勝利を振り返る。

 

(紫さんも、勝ちました)

 

それに賭けた紫の勝利も。

 

(《マドルチェ・エンジェリー》にも、なれました)

 

勝負服の衣装も。

 

(にぎやかで、楽しかった。お酒が飲めなくても、ごはんおいしかった)

 

勝利後の酒の席も。彼女は1つ1つを思い出しながら帰途につく。

 

充実した1日、どこにも後悔する場面など無かった。

 

無いはずだった。

 

 

 

(あ…)

 

が、しかし彼女は思い出してしまった。

 

今日の最後、鶸櫨の締めくくり。自分がしてしまった、らしくない失敗に。

 

 

 

 

 

(デザート、食べてない…)

 

次来た時は忘れずに食べよう。彼女はそう決心するのであった。

 

 

 

【第8話 終】

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