可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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♯S-2「始まりの少し前」

ーーー5月某日

 

 

 

紫は喫茶店に黒川を呼び出した。

 

「で、話って何だ?」

 

黒川はコーヒーを啜りながら呼び出した理由を訊く。

 

「桐縹に現れるゴロ少女」

 

「あ?」

 

「こんな噂、聞いたことないですか?」

 

「…いや、初耳だ」

 

「アタシその噂の子と何回か会ったことあるんです。昨日もフリードでデュエルしました」

 

「ほう、どんな奴なんだ?」

 

黒川はあまり興味無さそうな口調で問う。

 

「今年高校生になったばかりの子で、1人暮らし。デュエルハウスでの勝ち金で生活している噂通りのゴロです」

 

しかし、話を聞く内に

 

「実力は並のゴロを大きく上回ります。アタシじゃ相手になりませんでした」

 

少女に対する興味が膨れ上がっていき、

 

「容姿もかなり整ってます。第一印象としては物静か、って感じですね。あ、あとはパズルが好きみたいで解くのも早いです」

 

黒川の心を魅了していく。

 

「そんな奴がいるのか」

 

「はい、いるんですよね」

 

 

 

「…それで、俺に話す理由は何だ?」

 

数秒の間の後、黒川は紫の真意を問う。

 

それを聞いた紫の表情は心なしか険しくなった。

 

「アタシの中で2つの心が、せめぎ合ってるんです」

 

「あの子の身を案ずる心と、あの子がどこまでやれるかを期待する心…」

 

「他人のアタシがどうこうするもんじゃないってわかってますし、あの子の好きなようにさせるのが良いとは思っているんです。でも、今のままだとまずいんです」

 

紫の顔に真剣さが増す。

 

「今はまだ大丈夫だと思いますが、このまま噂が広がると…あの子の身が危険です」

 

「下らない奴らに目を付けられたが最後、利用されるだけされて…気がつけば行方知れずになって、デュエリストとしても結局ゴロのまま終了…そんな最悪の可能性すらあります」

 

「そんな事態は避けたいんです。早めに手を打たないと失うかもしれないんです」

 

紫は強い目で黒川を見つめる。自身が何を言わんとするかを伝えるように。

 

 

 

「随分気にかけてるんだな」

 

そんな紫の目に合わせるように黒川の表情も些か厳しいものとなる。

 

「事情はわかった。近いうちに調べておく」

 

言葉は無くとも紫の言いたいことのおおよそは察したようだ。

 

「ありがとうございます」

 

紫は軽く頭を下げる。

 

「だがいいのか?俺もその下らない奴らと同じように利用するぞ?」

 

「黒川さんは利用する代わりに安全を保障してくれるじゃないですか」

 

穏やかな表情で答える紫。

 

「他人をあてにするな、自分の身は自分で何とかしろ」

 

それに対し黒川は優しく忠告した。

 

 

 

その後、黒川は「後日連絡する」と言い紫と別れた。

 

そして3日後、今度は黒川が紫を同じ喫茶店に呼び出した。

 

 

 

「噂の少女についての情報が集まった」

 

「流石の早さですね」

 

黒川はコーヒーを啜り間を取る。

 

「…大方お前の言っていた通りだったよ。驚いたな、今のところごく狭い地域内での噂程度で収まってるが…こりゃ何もせずにいると広まっちまうだろうな。かと言ってこっちからの接触は避けたいからな…」

 

黒川は再び間を取る。

 

「どうするんですか?」

 

「少々強引な方法だが…桐縹と周辺の目ぼしいデュエルハウスを押さえておく。で、奴が現れたら予め用意したデュエリストに勝負を挑ませる」

 

「もちろん高額レートの勝負だ、拒否するようなら奴の個人情報をチラつかせ勝負を受けさせる」

 

「…そうする意味は?」

 

紫は不可解な面持ちで問う。

 

「意図せず窮地に立った時の力、その人間が持つ真の実力を測りたい。もし勝てばその力を評価し、利用させてもらう。負けるようならそれまで、ゴロを引退するように強いるってことだ」

 

「なるほど、どちらにしても最悪は防げるってことですか…でも目ぼしいデュエルハウスって、桐縹周辺って結構デュエルハウスありません?」

 

「押さえるのは数件だけだ。『問題無く』高額レートの勝負が出来る店は少ないからな」

 

「確かに店側としては色々リスクが高いですもんね、アイツが良く顔を出すフリードとかは…まず無理でしょうね」

 

「そうだな、限られた時間帯に数少ないそこに上手いこと飛び込んでくれるかどうか」

 

「これは時間かかりそうですね…」

 

「まあ、奴がデュエルハウスに現れる時間はおおよそ把握してるからいいとして、店の方は完全に運次第だな」

 

「アタシがそれとなく誘っておきましょうか?」

 

「いや、それは駄目だ。あくまでも奴が自らの意思で店に来たという形でないとな」

 

「そうですか。運次第なー…」

 

 

 

「これは俺の勘だが、押さえた店で来るとしたら黒蠍だな」

 

「黒蠍ですか?ちょっとアイツの家から遠いような…」

 

「ただの勘だよ。なんとなくそう感じただけだ。さて、と」

 

黒川は椅子から立ち上がる。

 

「もう行くんですか?」

 

「ああ、警官としての仕事が残ってるんでな」

 

「アイツのこと、よろしくお願いします」

 

「任せておけ。じゃあな」

 

黒川はそう言い残し喫茶店を去った。

 

 

 

1週間と数日後、黒川の勘は的中したのであった。

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