可憐なる博徒 レイリ   作:tres

102 / 145
9話 ♯1「同じ日に」

彼女が喫茶メイドルチェにて柴岡と勝負した土曜日。その同じ日のこと…

 

 

 

(うーん、これでいいかなあ…?)

 

藍子は鏡の前に立ち、首を傾げる。

 

(どうしよ、決まらないよー…!)

 

ベッドの上に並べられているのはクローゼットから取り出した衣服たち。かれこれ吟味し始めてから30分が経過しようとしていた。

 

しかし、未だに今日のコーディネートが決まらない。

 

「おねーちゃん朝ごはん…ってなにこれ?」

 

自分を呼びに来た妹が部屋の光景を見て目を細めた。

 

「ちょっと迷ってて、えへへ」

 

「…気合入ってるね」

 

「まあね!」

 

気合が入るのも当然!なにせ今日は修せんぱいとのデートの日なのだから…!

 

…デートなのかな?デートっていうかお出かけ?桜ちゃんもいるし…やっぱりお出かけっぽい?

 

と、とにかく!そんな感じで気合入ってるわけで…!

 

「柚葉(ユズハ)はどれがいいと思う?」

 

せっかくなので妹、柚葉の意見も伺ってみる。

 

「いつも着てるのでいいんじゃない?」

 

興味無さ気に答える柚葉。少しは一緒に考えて欲しい。

 

「もう朝ごはんできるから来てね」

 

「はーい…」

 

柚葉はそう言い残し、食卓へと向かった。

 

…うん、そうね。ひとまず朝ごはん食べよう。食べてから考えよう。

 

 

 

ーーー

 

 

 

(ん?)

 

朝食を済ませ洗い物を終えた頃、桜にメールが着信する。

 

from藍子

「桜ちゃん!今日の服なんだけどどっちがいいと思うー?」

 

送られてきたメールには画像が2種類添付されていた。

 

(服?)

 

桜は画像を開く。画像はどちらも藍子が自分自身の首から下を写したものだ。違いは着ている服。

 

(どっちがいいって言われてもな…兄貴の好みも知らねーし)

 

桜にとってはどちらも甲乙付け難かった。故に視点を変えた意見を送信する。

 

to桜

「んーどっちもいいな。動きやすい方でいいんじゃねーか?」

 

返信はすぐに来た。

 

from藍子

「おー桜ちゃんがそういうならそうするね!ありがと!」

 

to桜

「ああ。その、頑張れよ。あたしも手助けはするから」

 

from藍子

「うん!またあとでね!」

 

桜はメールを確認すると携帯電話を閉じた。

 

(まあ…あたしも準備するか)

 

桜の中で小さく様々な感情が混ざるが、準備している間にそれらは水のように溶けていた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

藍子は予定時刻よりも30分早く待ち合わせ場所へ来ていた。

 

緊張しているのかそわそわと落ち着きが無い様子で携帯電話を操作する。

 

(早く来すぎたかな…?)

 

藍子は改めて服を確認する。桜からの助言通り、動きやすい服を選択した。

 

(桜ちゃんに着いたってメール送っておこうかな)

 

藍子がメールを作成しようとした時、隣から自分の名が呼ばれた。

 

「…えっ!?」

 

慌てて携帯電話から目を離し、隣を向く。

 

「ようアイコ、待ったか?」

 

声の主、桜がいつの間にか隣に立っていた。桜の後ろにはもちろん赤石も居る。

 

「う、ううん!今来たとこ!」

 

初めてデートする男女のように藍子はたどたどしく返事をする。このセリフは待った側が相手に気を使わせないように言う常套句のようなものだが、藍子は実際に今来たばかりであった。

 

「そうか、早めに出て良かったよ」

 

桜はそう言うと口を閉じる。いや、赤石のために間を作ったというべきか。

 

「藍子ちゃん、今日はよろしく」

 

赤石もそれを察したのか声をかける。

 

「こ、こちらこそよろしくお願いします!修せんぱい…!」

 

「ああ…」

 

藍子の緊張が伝わったようで、赤石は若干視線を逸らしながら答えた。

 

「その、服似合ってるな」

 

「あ…ありがとうございます!」

 

藍子は照れながらも笑顔を見せる。桜はそんな2人を微笑ましく見つめていた。

 

「じゃあ行くか」

 

「はい!」

 

 

 

ーーー

 

 

 

3人がまず訪れたのは市内のショッピングモール。

 

「あ、このブレスレットかわいい!」

 

アクセサリーショップの品々を見て目を輝かす藍子。

 

「ああ、そうだな」

 

どこか生返事の桜。とある売り物に見とれているようだった。

 

「?…桜ちゃん、何見てるの?」

 

「え?いや…」

 

藍子の声で桜は我に返る。桜の視線の先にあったもの、それは先端に猫を象った銀色がぶら下がっているネックレス。

 

「わー!猫だかわいいー!これ見てたの?」

 

藍子は桜に問うが、桜は気恥ずかしそうにそっぽを向く。

 

「…つ、次行くぞ」

 

それを払拭するように桜は進もうとするが、

 

「桜ちゃんって猫好きなんですか?」

 

「ああ。小さい頃から大の猫好きでな、猫が好き過ぎて猫と会話しようとにゃんにゃーーー」

 

「うあー!余計なこと言うんじゃねー!」

 

赤石の話し声が耳に入ると、すかさず引き返しふともも目がけて蹴りを入れる。

 

「うおっ、と」

 

しかし直前に赤石に躱され、その蹴りは空を切った。

 

「っ…!」

 

桜は顔を赤くして赤石を睨み付ける。

 

「ふふ、桜ちゃんかわいい!その気持ちわかるよー!生き物とお話してみたいよね!」

 

藍子の無邪気な笑顔によって桜は恥ずかしさを抱きながらも徐々に落ち着く。

 

「ち、小さい頃の話だよ…!」

 

「今は違うの?」

 

「今は…」

 

桜は不器用で正直な子である。恥ずかしくても藍子が悲しむような答えは言わない。

 

「…好きだよ、今も好きだ…!」

 

「良かった!猫とお話したいー?」

 

「…まあな」

 

「にゃんにゃあ?」

 

「にゃんにゃ…って何言わせんだ!」

 

「きゃー」

 

藍子は楽しげに柱の陰へと隠れる。

 

「ったく…」

 

「はは、さすがに藍子ちゃんに蹴りは入れないか」

 

「当たり前だろ。兄貴で間に合ってるし」

 

言うまでもない、という態度を見せる桜。

 

「いや俺にも控えてくれよ…」

 

その態度に赤石は小声で突っ込むしか出来なかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。