可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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9話 ♯4「知りたい朝に」

ーーー

 

 

 

彼女の「どうぞ」というメールを受信してから綾芽はすぐに彼女の家へと向かった。

 

(今日はお母さんもお父さんも休み…家に居たくない)

 

綾芽は自分の家から離れるように、心持ち速めに歩く。

 

(朝早くから「勉強しろ」とか「家事手伝え」とか、そんなのばっかり)

 

綾芽は「はあ…」と、ため息をつく。

 

(自由になりたいな…)

 

 

 

程なくして綾芽は彼女の家に到着し、インターホンを鳴らした。

 

ガチャっとドアが開く。

 

「!…麗梨さん!?」

 

ドアを開けた彼女の姿に驚く綾芽。

 

「入って」

 

そう言って綾芽を招く彼女は体にバスタオルを1枚巻いただけの、いわゆる風呂上りの姿だった。髪もまだ乾かしていないのか、彼女の足元に水滴がポツリポツリと落ちる。

 

「は、はい!お邪魔します…お風呂入ってたんですね、間が悪くてごめんなさい」

 

「気にしないで」

 

綾芽が靴を脱いで家に上がると、彼女は髪を乾かしに洗面所へと向かう。

 

(今日も麗梨さん1人…)

 

綾芽は家の中を見回す。彼女以外に人の気配は無い。というより、彼女以外に誰かが住んでる気配が無い。

 

(もしかして、ひとり暮らしなんでしょうか?)

 

綾芽は疑問を抱く。それと同時に綾芽の中で複雑な感情が生まれた。

 

羨ましさの中にぴたりと張り付くような違和感。その心に傾くほど、そばにいるはずの彼女の姿が靄がかる。

 

(…違う、羨ましいなんて思っちゃだめ。麗梨さんだって何か事情があるのかもしれないのだから)

 

綾芽は軽く「ふー」っと息を吐き、心を落ち着かせる。

 

「どうしたの」

 

その時、髪を乾かし終えた彼女が洗面所から戻ってくる。

 

「ひえ…!あ、何でもない…です」

 

綾芽は一瞬驚いて、冷静になる。

 

「…」

 

彼女は綾芽の前に座り、綾芽をじっと見つめる。

 

「え、えっと…何でしょうか?」

 

「知りたい?」

 

彼女の問いに綾芽は考える。

 

(知りたい、って何のことだろう…?)

 

(!…もしかして、さっきまで私が考えてたこと?)

 

綾芽も彼女に問い返すような目で見返すが、直視できなかったのかすぐに視線を外した。

 

(何だか見透かされてる気がします…だとしたら、隠さなくてもいいかな…?)

 

「…麗梨さんが良ければ、ぜひ教えて下さい」

 

綾芽は彼女に視線を戻し、しっかり視界に捉えて答えた。

 

 

 

「あ、ちょっと待って」

 

綾芽が答えてから開口一番、彼女は台所へと向かうと、

 

「綾芽」

 

綾芽の方に首を向ける。

 

「は、はい」

 

「レモンティーあついのと、つめたいの、どっちがいい?」

 

「えっと…じゃあ、冷たいので」

 

「メロンパン、食べる?」

 

「い、いえ。食べてきたばかりなので…」

 

「そっか」

 

それを聞いて彼女は2人分のアイスレモンティーを作り始めた。

 

(お話が始まるかと思いきや、このマイペースさ…麗梨さんらしいです)

 

 

 

「はい、どうぞ」

 

彼女は綾芽の前にアイスレモンティーを置く。

 

「ありがとうございます」

 

彼女も綾芽の対面に腰を下ろし、アイスレモンティーとメロンパンを置いた。

 

「朝食ですか?」

 

「うん」

 

彼女は頷くと、メロンパンを口に運びながら話し始めた。

 

 

 

ーーー同じ頃

 

 

 

(ピアノの先生がいらっしゃるまで少し時間があるわね)

 

琥珀は空いた時間を利用し「DUEL ONLINE」に繋ぐ。

 

(小松さんは…いないのね)

 

綾芽こと『Ryoga』はもちろんオフライン状態だ。琥珀はランク戦で対戦相手を探す。

 

相手はすぐに見つかった。琥珀は相手の名前を見る。

 

(!…な、なんてこと!)

 

琥珀は目を大きくして驚いた。

 

琥珀の対戦相手はランク『S』プレイヤー、『graybloom』

 

開始早々、最強の1人と当たってしまったのだ。その事実に琥珀は興奮する。

 

(いきなりランク『S』とは、驚いたわ!その実力、見せてもらおうかしら!)

 

琥珀は意気揚々と勝負に臨んだ。しかし『graybloom』の徹底したメタの前に為す術もなく敗北を喫してしまうのであった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「そうだったんですね…」

 

綾芽は真剣な表情で呟く。

 

彼女は綾芽の知りたいと思われることを話した。1年前から1人で暮していること、1人でも寂しくは無いということ、お金の心配も無いということ。

 

そして、今の境遇に対して不幸だとは思っていないということ。

 

(麗梨さんは強いです…私じゃこんな風に思えるかどうか…)

 

綾芽は彼女の強さの源を知る。しかしそれと同時に、やはり綾芽は羨ましく思っていた。彼女のその今が、綾芽が憧れていた自由な姿そのものだったからだ。

 

「綾芽」

 

彼女は少し間を置いた後、名を呼ぶ。

 

「はい、何でしょう?」

 

 

 

「知りたい」

 

彼女は再び綾芽をじっと見つめる。

 

「知りたいと言われましても…」

 

綾芽は先程と同じく視線を外す。

 

(話していいのかな…?)

 

綾芽は基本的に本心や本音を言わない子である。自分の気持ちを言わず周囲の機嫌を窺いながら生きてきた。

 

(麗梨さん、私は…)

 

しかし彼女と出会ってからというもの、少しずつではあるが自分の心に従うことも増えてきた。

 

「聞かせて」

 

彼女の目と言葉には魔力がある。全てを受け入れてくれると錯覚してしまう程の彼女の魔力に綾芽の心が揺れ動いたのか、綾芽は伝えたいことを打ち明けた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

ズズ、ズズズー…

 

部屋に麺を啜る音が響く。『graybloom』はインスタントラーメンを流し込みながら、とある掲示板サイトを閲覧していた。

 

『136:廃裂野郎は運営になんぼ貢いどるんや』

『179:廃人裂は今日も引きこもって不正勝利稼ぎに勤しむの巻』

『228:デュエルにどれだけ勝ってもリアルで敗さんみたいなwww』

 

 

 

(また変な呼び方が…ん?)

 

呆れながら掲示板の書き込みを読んでいると、メール受信を知らせる通知が表示された。「DUEL ONLINE」経由でプライベートアドレスに1通のメールが届けられたようだ。

 

(あれ?メールは受け取らない設定にしてるはずだけど…)

 

『graybloom』はメッセージや「DUEL ONLINE」からのメールを一切受け取らない設定にしている。イタズラやスパムの類でメールボックスがあっという間に埋まってしまうからだ。

 

(運営側のミス?)

 

そう思いつつ『graybloom』は受信したメールを開いた。

 

(…!?これは…!)

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