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「ただいまー」
藍子は玄関のドアを開けて、いつものように帰宅を告げる。
「おかえり」
ちょうど廊下を歩いていた柚葉が、やはりいつものように挨拶を返す。
「おじゃまします」
「!…」
その聞き覚えのある声と共に現れた人物を見て、柚葉は不意を衝かれたように立ち止まった。
「レイおねーちゃん…!?ひさしぶり!」
「こんにちは、柚葉ちゃん」
彼女の微笑みを見て、柚葉の顔も綻んでいく。久々に会えた喜びに溢れているようだ。
(柚葉のあんな顔、久々に見たかも…レイちゃんに会いたがってたもんね)
藍子は姉として、妹の喜ぶ顔を穏やかに眺めていた。
ーーー
彼女、藍子、柚葉の3人は藍子の部屋で他愛も無い話を楽しんでいた。
「あのね、わたしかみの毛のばしてるの。レイおねーちゃんみたいなきれいなかみ型にしたくて」
「ありがとう。柚葉ちゃんの髪、綺麗ね」
彼女は柚葉の髪を撫でる。
「えへへ…あ」
直後、柚葉は何か思い出したように立ち上がり、
「ちょっと待っててね」
藍子の部屋を出た。
「私にもあんな笑顔見せてくれると良いんだけどねー…」
藍子は少し寂しげに呟く。
「見せてくれないの?」
「うん、最近あまりお姉ちゃんお姉ちゃんって言わなくなってきたし…これも成長なのかなー」
「でもレイちゃんには相変わらずでちょっと安心したかも」
「わたしも成長を見届けてみたい」
「ふふ、毎日見に来ないといけないね」
数秒後、柚葉が部屋に戻る。手にはデッキが握られていた。
「レイおねーちゃん、デュエルしよ」
柚葉はデッキを前方に翳す。
「柚葉、レイちゃんは今日カード持ってーーー」
「いいよ」
懐からデッキを取り出す彼女。
「きてるの!?」
藍子は準備の良い彼女に驚く。
「なんとなく、持参した」
「なんとなくなんだ…」
「おてやわらかにおねがいします」
柚葉はデッキを彼女に渡し、テーブルの前に座る。
「こちらこそ」
彼女も同様にデッキを柚葉に渡した。
お互いデッキをシャッフルして返す。じゃんけんの結果、彼女の先攻でデュエルが始まった。
ーーー
「《E・HERO エアーマン》でダイレクトアタック」
「うー、やっぱりレイおねーちゃん強いー」
デュエルの結果は想像に容易い。ただ年齢差を考慮すれば食らいついた方ではあったが。
「プレイング、うまくなったね」
「レイおねーちゃんと良い勝負ができるように練習したんだー」
練習の成果が出ていたようだ。
「しょっちゅうデュエルに付き合わされてたからね」
藍子は多少呆れを含みながら言う。
「ねーねーもう1回しよ」
「えーっ、次はお姉ちゃんに譲ってよー」
「おねーちゃんは今までいっぱいレイおねーちゃんとデュエルしてきたでしょ」
藍子は知っている。柚葉が彼女に憧れを抱いてること、そしてその憧れの相手である彼女とどれだけデュエルしたがってたかを。
しかしそれは藍子も同じこと。柚葉ほどでは無いが、藍子もまた彼女とデュエルできる日を楽しみにしていた。
「むー…じゃあ勝った方でどう?」
そのような事情も顧みて藍子は考えた後、提案する。
「うーん、いいよ」
柚葉も少し間を置いて受諾した。
「おねーちゃん、てかげんしないでね」
「もちろん!本気でやるからね」
彼女とのデュエルを賭けた姉妹のデュエルが始まった。
ーーー
「うー、あともうちょっとだったー…」
悔しさを漏らす柚葉。
「惜しかったね、柚葉」
寸前まで彼女を追い詰めた柚葉に感心する藍子。
「ぎりぎり勝てた」
追い詰められた末の勝利ではあったというのに、どこか嬉しそうに顔を綻ばせる彼女。
3人がデュエルを始めてから2時間、ついに柚葉が彼女に勝利する時が来たと思いきや、目前でそれには届かずという結果に終わる。
(前から思ってたけど、柚葉ってデュエルのセンスあるかも…!レイちゃん相手に結構いい勝負してたし、私そのうち追い抜かれそう)
藍子が姉越えを危惧する中、柚葉は「うーん」と座りながら体を伸ばす。
「ちょっと休憩しよっか」
「うん」
藍子の言葉に柚葉は頷いた。
しばらく先程のデュエルについての雑談などを交えた後、3人は流れでテレビゲームを始めようとしていた。
「あ、そのゲーム」
彼女は藍子が手に取ったゲームソフトに反応する。
「ん?これ?この前お店の中古で見かけたからゲーム機と一緒に買ってきたの。レイちゃん知ってるの?」
「うん、面白かった」
「やったことあるんだ!面白いよね!小学生の頃ゲームセンターでやって以来、いつか買いたいなって思ってたの」
彼女が面白かったと評するそのゲームとは、ゲームセンターで赤石と対戦したあのパズルゲームである。藍子が買ったのは家庭用にリリースされたものだ。
「おねーちゃん、早く早く」
「はいはい、ちょっと待ってね」
コントローラーを握った柚葉に急かされるように藍子はゲームを起動した。
(これで、いいのかな)
彼女は柚葉を参考に、見よう見まねでコントローラを握る。
以前赤石に言っていた通り、彼女がゲームのコントローラーを握ったのはあの1回だけだ。もちろんこのコントローラーは初めてである。
「レイおねーちゃん、このゲームどのくらいしたことあるの?」
柚葉の操作により対戦モードに入る。
「ゲームセンターで、1回だけ」
「じゃあしょしんしゃだねー」
「お手柔らかにお願いします」
「ふふふ、こちらこそ」
彼女 VS 柚葉、2勝先取、バトルスタート。