「やったー、わたしのかち」
1試合目、後半追い上げられるも前半のアドバンテージが効き、柚葉が勝利する。
(さすがレイおねーちゃん、しょしんしゃとは思えない追い上げ。でも今はわたしのほうが、じょうず)
柚葉は余裕の表情で2試合目へと入る。
この時柚葉は理解していなかった。彼女の実力を。
(コントローラー、手に合ってきた)
後半の追い上げは偶然やゲームを理解し始めたというものではなく、ただ操作に慣れてきただけだということを。
「えっ…?」
(これが初心者の動き…!?)
異変に先に気付いたのは隣でプレイを見ていた藍子。
1試合目とは打って変わって彼女優勢で試合が進む。
(…!?)
柚葉も明らかに1試合目とは違う彼女のプレイングに気付いたのか、目を大きくする。
彼女のプレイングに負けじとコントローラーを操作する手を速めるものの、
「うー…」
対抗も空しく、2試合目は彼女の勝利となった。
3試合目、最早どちらが勝利するかは明白だった。
彼女のパフォーマンスに為す術もなく柚葉は敗北を喫するのであった。
「レイちゃんすごい!本当に1回だけしかやったことないの…!?」
「うん」
「天才だよレイちゃん!デュエルだけじゃなくてゲームもこんなに上手なんて…すごすぎるよ!最強だよ!」
藍子は目を輝かせ彼女を褒めちぎる。
「ありがとう。パズルゲームだったから、うまくできた」
彼女はテレビゲームに関しては言っていた通りゲームセンターで1回プレイしたのみで、家庭用ゲーム機のコントローラーの握り方すら知らなかったレベルだ。
では何故このような並外れたプレイングができたのか。それはゲームの内容が彼女が普段何気なく触れているものと似通っていたためだ。そう、パズルである。
彼女にとってはこのゲームは普段解いているパズルの、いわば延長線上に位置するものでありコントローラーという手が脳に追いついたその瞬間から、解き慣れたそれらと同じでしかなかった。
「わー…」
柚葉は彼女を尊敬の眼差しで見つめる。
「さすがわたしのそんけいする人です…レイおねえさまと、よばせていただきます」
「おねーちゃんが、いいな」
畏まる柚葉に彼女は優しくお願いする。
「えっと、レイおねーちゃん」
「うん」
彼女は微笑みながら頷いた。
ーーー
午後5時、彼女は玄関先でドアの前に振り返って立つ。
あの後少しして、藍子と柚葉の母が帰宅したのを機に今日はお開きとなった。
「また来てね」
寂しそうに彼女を見上げる柚葉。
「うん。また会いに行く」
彼女が柚葉の頭を撫でると、柚葉の顔から寂しさが消えていく。
「今日はありがとう。また遊ぼうね」
藍子はニッコリと笑顔を見せる。
「こちらこそありがとう。また遊ぼ」
彼女もそれに返すように口角を上げた。
「レイおねーちゃん、ばいばい」
「ばいばい、柚葉ちゃん」
彼女は柚葉の手の振りに応え、藍子の家を後にした。
ーーー
同日夜。彼女は携帯電話を手に取り、通話を開始する。
「もしもし」
「俺だ。突然だが今週の水曜の夜空いてるか?」
通話の相手は黒川。
「はい、空いてます」
「そうか。仕事ってわけじゃないんだが、お前と勝負したいって奴が居てな」
「どなたですか?」
「会えばわかるさ。水曜の夜7時、場所は黒蠍。レートは不明だが、まあ高くても昨日と同じくらいだろう」
「わかりました」
「平日で悪いな。それじゃ」
通話が終了する。
通話中、黒川は相手が誰なのか伝えなかったものの、
(あの人、かな)
彼女はその相手に心当たりがあるようだった。
ーーー
翌日。桑鴇高校、朝のホームルーム前。
「おはよー!桜ちゃん」
教室に入ってきた桜に藍子が挨拶する。
「おはよう」
「今日からプールだね」
「そうだな…」
桜は「はあ…」とため息をつく。
「どうしたの?」
「いや…面倒だなって」
(さすがに水着じゃ目立つよなー…体操着みたいに、ごまかし利かねーし)
桜は胸部に視線を移す。
「あ、わかるかも。着替えとかちょっと時間かかるよね」
「ああ、それもあるな…」
(まあ、通常の体育と違って完全に男女別だからまだマシだけど)
「ホームルーム始めるぞー」
「あ、先生きた」
藍子は自分の席へと戻った。
ーーー
「ということで今週も程々に頑張れ。じゃ数学始めるぞ」
時ほぼ同じくして、こちらは桐縹高校。ホームルームが終了し、1時間目の授業に移行する。
「前回の続き、教科書の52ページからだな」
教壇に立つ教師がチョークを持つ手を動かし、お世辞でも丁寧とは言えない字を黒板に書き連ねていく。
「それじゃ軽く復習だ。これの答えがわかる奴」
教師が振り返ると何人かの生徒が手を上げた。教師はその内の1人を指名する。
「そうだな、小松」
「27分の8です」
指名された生徒、綾芽は立ち上がり答える。
「正解。これは3乗することでーーー」
授業はつつがなく進行していく。