可憐なる博徒 レイリ   作:tres

11 / 145
2話 ♯1「一夜が明けて」

ーーー午前9時

 

彼女は目を覚ます。

 

かばんに入ったままの札束が昨日の出来事を思い出させる。

あの後、シャワーを浴びてすぐ眠ってしまったようだ。

 

(学校…あ、今日は土曜日か)

 

座ったままうーん、と体を伸ばす。

 

(昨日のはやっぱり夢じゃないよね)

 

どうやらまだ実感が薄いようだ。

 

(…朝ごはん食べよ)

 

 

 

ーーー午前10時

 

彼女にメールが着信する。

 

from瑞希

「今日そっちにお邪魔していいー?」

 

to麗梨

「いいよ」

 

from瑞希

「お昼くらいに行くねー!」

 

to麗梨

「うん」

 

友人の瑞希が来るらしい。

 

中根瑞希(ナカネ ミズキ)。彼女の同級生。

昨日彼女と一緒に帰った子だ。

独特な雰囲気を持つ彼女を慕っている。

 

 

 

ーーー午後1時

 

彼女は来客を招き入れるためドアを開ける。

 

「やっほー!れーりちゃん」

 

「今日も元気ね、入って」

 

「お邪魔しまーす!」

 

 

 

「れーりちゃんさっきまで何してたの?」

 

「お昼ごはん食べてた」

 

テーブルには食べかけのオムライスがある。彼女が作ったものだ。

 

「おおーオムライス!おいしそー!」

 

「食べる?あとちょっとしかないけど」

 

「いいの!?」

 

「いいよ」

 

彼女は瑞希に食べかけのオムライスをあげた。

 

「いただきまーす!」

 

「おいしー!さすがれーりちゃん!」

 

瑞希はおいしそうに頬張っている。

 

「ありがとう」

 

(あ、スプーン…まあ、いいかな)

 

 

 

「ごちそーさまでした。あ、お皿洗っておくね!」

 

「うん」

 

 

 

皿を洗い終えた瑞希が戻ってくる。

 

「ねー、れーりちゃんデュエルしよ!新しくデッキ作ってきたんだ」

 

「それは楽しみね」

 

彼女はかばんからカードとデッキを取り出す。なお、札束は瑞希が来る前に棚へと仕舞ってある。

 

 

 

じゃんけんの結果、先攻は瑞希。

 

「私のターン!」

 

「ヘカテリス捨ててヴァルハラサーチ。ヴァルハラ発動して効果でアテナ特殊召喚!」

 

「フレイヤ召喚。アテナ効果で600ダメージ!カードを1枚セットしてエンド」

 

 

 

「ドロー」

 

(あ、たぶん勝った)

 

「サイクロン発動」

 

「あー奈落がー!」

 

「サイバードラゴンを特殊召喚。エヴォリューションバースト発動。アテナを破壊。パワーボンド発動、手札と場のサイバードラゴン2体を融合。サイバーツイン召喚」

 

「ひー!」

 

(来るなら来なさい!オネストでーーー)

 

 

 

「異次元の女戦士召喚」

 

「負けました」

 

彼女の後攻1ターンキルが決まる。

 

「相変わらずれーりちゃんの引きすごいね」

 

「今のは偶然」

 

「その『偶然』が多すぎる気がするんだけど…うー、もう1回同じデッキで勝負!」

 

 

 

その後お互いにデッキを変えたりして何度か彼女に挑むも、ほとんど返りうちにあう。

 

「あー勝てない!れーりちゃん強すぎ!」

 

「そんなことないよ」

 

「そんなことある!何でそんなに強いの?もしかして、ひそかに鍛えてるとか?」

 

「鍛えてはいないかな」

 

(あれは、鍛えてるとは言わないよね)

 

彼女はデュエルで生計を立てている。大会での実績は無いが、その点では間違い無くプロだ。

おそらく自身も気付かないうちに鍛えられていたのであろう。幾度もプレッシャーのかかる場面を乗り越えてきた彼女は既に瑞希のそれを凌駕していた。

 

「うーん不思議だ」

 

瑞希も決して弱くはない。同年代の中ではそれなりの強さだ。

 

「れーりちゃんってまったく手加減しないよね?」

 

「そうかな」

 

負けることの恐ろしさをよく知っている彼女には手を抜くという考えが無い。無意識に勝ちに行く癖が染み付いている。

 

「うん、私はそんなれーりちゃんが好き!」

 

それは瑞希好みの癖のようだ。

 

「照れる」

 

「照れてるようには見えないよ!?」

 

「それは残念」

 

「何が!?何が残念なの!?」

 

「…ふふっ」

 

瑞希の突っ込みに彼女は思わず笑い声が少し漏れる。

 

「あ!今笑った!」

 

「笑ってない。笑ってるようには見えない」

 

「れーりちゃん照れてる!かわいい!」

 

「かわいくない」

 

彼女は口角を上げるだけの微妙な作り笑顔はたまにするものの、はっきりとした笑顔や笑うことなどは滅多に無い。

なので彼女の心境は照れてるというよりは困惑してると表現した方が近い。どうして笑えたのだろうという困惑。

 

(…昨日が冷たかったから、今日のあたたかさがとても効いてるのかな)

 

彼女なりに分析する。

 

(………)

 

 

 

「…どうしたの?何か考え事?」

 

何も言わず一点をじっと見つめてる彼女に対して瑞希が心配そうに訊く。

 

「ね、瑞希はデュエル、好き?」

 

「好きだよ!特にれーりちゃんとするデュエルは大好き!」

 

「そっか」

 

彼女は幾分穏やかな表情で返す。

 

「れーりちゃんは好きじゃないの?」

 

瑞希は悲しそうに問う。

 

「…わかんない。気まぐれの隣人だもの」

 

「日替わりの人参?」

 

「…」

 

(あ、すべったっぽい…)

 

「好き嫌いの前に、ずっと隣にいる気がするから」

 

物憂げな彼女を見て、瑞希なりに言葉を紡ぐ。

 

「じゃあ家族だ!隣人じゃなくて家族だよきっと!」

 

「家族…」

 

「うん!だから好きとか嫌いとかじゃなくてえーっと…」

 

「…そっか、そうね」

 

言葉に詰まる瑞希をよそに、彼女は紡がれた言葉に納得する。

 

「そ、そう!そうなの!」

 

(言いたいこときっと伝わったよね、うん!)

 

「というわけでデュエルしよ!」

 

「うん」

 

彼女は何かスッキリしたような面持ちだ。

 

(間をとって隣にいる家族ってことにしておこう)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。