可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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9話 ♯10「椎名の意図」

「さあ、栗原さん赤石さんもプールに戻りなさい」

 

教師は藍子と桜にプールへ戻るよう促す。

 

「わかりました。桜ちゃん、戻ろ」

 

「ああ」

 

2人がプールへと戻ろうとした時、

 

 

 

「待て」

 

すぐ後ろから声が飛んだ。

 

「椎名さん…?」

 

その椎名の声に藍子と桜は足を止め、声のした方へと振り向く。

 

「赤石」

 

直後、椎名は歩み寄り桜のすぐ隣に立つ。

 

「あ?」

 

桜は椎名に疑問の視線をぶつける。

 

「こっち向け。体ごとな」

 

「何でだよ?」

 

「いいから向け」

 

椎名の有無を言わせないような反応に桜は眉間にしわを寄せた後、しぶしぶ椎名の立つ方へと体を向けた。

 

「これでいいか?」

 

状況を説明すると桜の視界には椎名と、その先1メートル程の距離を経てプールを囲う外壁が映っているだけだ。

 

なお、藍子は桜の右後ろに立っており、教師は少し離れたベンチ傍でプールで泳ぐ生徒たちの様子を見守っている。

 

(何がしたいんだ?こいつ)

 

桜は椎名の意図がわからず鋭い目付きで椎名を注視する。

 

「ああ、それでいい」

 

椎名は桜の両肩に手を置く。

 

「あ…?」

 

そして桜の水着の両肩を掴むと、

 

 

 

「…!?」

 

一気にへそ辺りまでずり落とした。その衝撃で桜の胸部が弾けて露わになる。

 

「な…!な、なな…!」

 

(し、椎名さん!?)

 

椎名のあまりに唐突な行動に桜だけでなく藍子も固まった。

 

しかし、すぐに我に返った桜は左手で胸部を隠すと、

 

「てめえ!何しやがんだ!」

 

椎名の脇腹目がけて蹴りを繰り出した。この桜の声で再びプール中から視線が集う。

 

 

 

「!?…ぐっ」

 

パシッ!という音と共に桜は小さく唸る。

 

桜の繰り出した蹴りは命中する寸前に椎名の手によって足を掴まれる形で無力化された。

 

(こいつ…!入ったと思ったのに…!)

 

椎名は放り投げるように手を離す。

 

桜は少しよろけるが1歩下がってバランスを取り直した。

 

(くそっ!何なんだよ…!)

 

桜は羞恥と怒りが混ざったような表情で椎名を睨み付ける。

 

「おい、あれ見てみなよ!」

「うわ!赤石の水着すげえ下がってるんだけど!胸丸出しじゃね!?」

「椎名がやったみたいだよ」

「何?あいつも赤石の胸見たかったのか?」

「どんなのだったか、あとで教えてもらうか」

 

プールの方からのざわめきが徐々に大きくなると、それまで固まったように様子を見ていた藍子は「はっ!」として、

 

「桜ちゃん!と、とりあえず水着!」

 

「あ、ああ!」

 

急いで後ろから桜の水着を着せ直した。

 

「そこの3人!授業中よ!椎名はベンチ、赤石と栗原はプールに戻りなさい!早く!」

 

「はい!すみません!」

 

教師からの叱声が飛び、3人はそれぞれ指示された場所へと戻ろうとする。

 

「赤石」

 

「あ?」

 

椎名は桜の横を通り過ぎる瞬間、

 

「これで借りは無しだ」

 

と桜にだけ聞こえるよう囁き、ゆっくりとベンチへ戻って行く。

 

(…どういうことだ?)

 

桜は椎名の言葉に疑問を浮かべたが、

 

「桜ちゃん?」

 

「あ…ああ、戻るか」

 

ひとまず藍子と共にプールへと戻って行った。

 

 

 

「はい、今日はここまで。全員上がりなさい」

 

終了のチャイムが響き、女子生徒たちは次々とプールから上がる。

 

何人かの生徒は椎名の元に集い、顔をニヤつかせながら談笑している。もっとも、椎名はほぼ無表情であるが。

 

 

 

プールから帰って更衣室。桜は隣に居る藍子の影に隠れるようにして着替えている。

 

「はあ…」

 

「大丈夫?」

 

ため息を漏らす桜を藍子は心配そうに窺う。

 

「ああ、大丈夫だ。椎名以外には見られてねーしな」

 

「そっか」

 

見られたことに対しては気に留めない態度を見せる桜。ため息の理由は別にある。

 

「ただ、あんなことした意味がわかんねーっていうか…見たかっただけとは思えねーんだよな」

 

(それにプールに戻る時のあれも…何が言いたかったんだ?あいつは)

 

桜は椎名という人物像がぼやけて掴めずにいた。その苛立ちが顔に出かかる直前、藍子が口を開く。

 

「あのね、さっきベンチの前通った時に椎名さんたちの話聞こえてたんだけどね」

 

「ん?椎名の奴何か言ってたか?」

 

「えっと、『ウチが見てやった』とか『想像の範囲内』とか…あとはその、サイズとか形も」

 

「あいつ…!」

 

椎名に対して再び羞恥と怒りが湧き出す桜。

 

(けっ、椎名から聞いたからもう見なくてもいいってか?変態共が)

 

桜は心の中で悪態をつく。

 

プールへ行く着替えの時には獣のように桜を剥ぎ取ろうとした一部だが、今は誰1人桜に寄ろうともしていない。

 

(ま、こっちとしては興味が失せてくれた方が助かるーーー)

 

着替えを終えた桜がロッカーから荷物を取り出そうとした瞬間だった。

 

 

 

(!…まさか!)

 

唐突に桜の中で全てが繋がった。椎名の行動の意味、そして椎名が言いたかったことも。

 

(考え過ぎか?いや、でもそうとしか…!)

 

「…」

 

桜は開いたままのロッカーを見つめながら考える。

 

「…桜ちゃん?」

 

それを不思議に思った藍子が声をかけた。

 

「あ?ああ、ちょっと考え事」

 

「椎名さんのこと?」

 

「まあ、そうだな」

 

桜は荷物を持ちロッカーを閉める。ちょうど同じタイミングで藍子も着替え終わり、2人はそのまま更衣室を出て教室へと向かった。

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