可憐なる博徒 レイリ   作:tres

112 / 145
9話 ♯11「答えは言わずとも」

ーーー

 

 

 

「うーん、確かによくわからないよね。椎名さんってたまに不思議っていうか、ちょっと読めないところがあるから…」

 

教室へと向かう途中、2人は歩きながら話す。

 

「椎名のこと知ってんのか?」

 

「うん、中学の時の同級生だった」

 

「そうだったのか」

 

(不思議で読めないところがある、か…その通りだな)

 

「でも悪い人ってわけじゃないの。かといって良い人ってわけでもない、かな…」

 

(どっちだ…)

 

「ううん、違う。良い悪いって言い方は良くないよね…」

 

藍子は直前の発言を撤回する。

 

「まあ、そう単純じゃねーからな。でも言いたいことはなんとなくわかるよ。気まぐれってことか?」

 

「うん、そんな感じかも。何ていうか良くも悪くも自由気ままで、でも軸はブレてないっていうか…あ」

 

藍子は何かを思い出したように立ち止まる。

 

「どうした?」

 

「あのね、前から思ってたことがあるんだけどね…」

 

「ああ」

 

「桜ちゃんと椎名さんがかぶる時があるの」

 

「かぶる?あたしが椎名と?」

 

「どうしてだろうって思ってたんだけど…今日改めてわかったの。桜ちゃんも椎名さんも自分に嘘ついてない。約束は守ってくれるし恩や借りもきちんと返してくれる」

 

「…」

 

「あと、不良っぽいところ?」

 

「あたしは不良じゃねーよ」

 

藍子の話を聞いて少し照れ臭くなったのか、桜は視線を逸らす。

 

「ふふ、そうだね」

 

「…ちょっと待て、借りはきちんと返すってことはやっぱりあれは…」

 

「うん、たぶんそうなんじゃないかな?」

 

「はあ…」

 

(だとしたら返し方が斜め過ぎんだろ、椎名…)

 

 

 

ーーー

 

 

 

昼休み。桜は隣のクラスから昼食を食べ終えたばかりの椎名を人の出入りが少ない1階のトイレへと呼び出した。

 

「何の用だ?」

 

椎名は面倒くさそうな表情を隠さずに問う。

 

「何であんなことしたんだ?」

 

「あんなこと?」

 

「プールの時見ただろ。その、あたしの胸を…!水着を下ろして」

 

桜の静まっていた羞恥心が甦る。

 

「見たかったから。それ以外に理由あるか?」

 

そんな桜に椎名は淡々と答える。

 

「あるだろ。何が見たかったから、だ。むしろ見たのはそれ以外の理由の方だろうが」

 

桜は強気に言い放つ。

 

「お前があんなことした理由は1つ。借りを返すためだった、あたしがキャッチした携帯電話のな」

 

「…」

 

椎名は反応せず桜にそのまま話し続けさせる。

 

「お前がそうすることによってどうなるか。あたしの胸を見たがってた連中にしてみれば、椎名からどんなものか聞き出すことで詳細を知れるようになった。結果あたしの、胸を見る必要が無くなった」

 

「胸そのものじゃなくあたしの、恥ずかしがる姿や必死に隠そうとする姿を見るのが目的だったとしても、既に椎名に見られてるという事実があるから連中からしてみれば、あたしに開き直られるかもしれない、そう考えればそれも期待できなくなった」

 

「つまり更衣室でもうあたしに迫る理由は無くなった。その証拠に帰りは群がって来なかったしな」

 

桜は時々詰まりそうになりながらも、なるべく感情を出さず冷静に理由を述べる。

 

(ふう、さっきアイコに話しといて良かった)

 

この結論は桜1人で至ったものではない。この出来事に対して客観的な視点を持つ藍子と共に2人で至ったものである。

 

「あと、お前無感情に見えて意外と優しいんだな」

 

「いきなり何言ってんだ」

 

桜の突拍子もない言葉に椎名が口を挟む。

 

「だってさ、他の奴に見られないようにあたしを壁の方に向かせてから行動に起こしたんだろ?」

 

「他にもアイコがお前の話聞いてたみたいでさ、『ウチが見てやった』って言ったんだっけ、それってこういうことだろ?」

 

「『ウチが見てやった、だからもうお前らが見る必要は無い』」

 

「まあその、サイズとか色々言ってたみたいだけど、この際それは勘弁してやる」

 

桜は冗談めいた口調で話す。

 

「お前がそう思うんならそれでいいんじゃねーの」

 

関心無さ気に返す椎名。

 

「ああ、そう思っとくよ。でもお前よく知ってたな。靴下だけ脱いですぐ更衣室から出て行っただろ?」

 

「お前の無駄にでかい垂れ下がってるやつを見たらわかる」

 

「なっ…!そんな言い方するんじゃねーよ!」

 

桜は反射的に両腕を組んで胸元を隠す。

 

(つーか垂れ下がってねーし…!)

 

「用は済んだか?」

 

椎名は携帯電話を取り出し開く。

 

「ああ、呼び出して悪かったな。それ無事だったか?」

 

「大事なデータなんてねーけどな」

 

そう言って携帯電話を閉じて再びポケットに仕舞う椎名。そのままトイレの出入り口の方へと向かう。

 

「おい、アイコはお前をかばってくれたんだ。後で礼くらい言っとけ」

 

椎名は出入り口の手前で足を止める。

 

「お前には言わなくていいのか?」

 

桜に背を向けたまま問う椎名。

 

「いいよ。借りは無し、だろ?」

 

桜の返事に椎名は少し間を置く。

 

 

 

「赤石」

 

「何だ?」

 

「悪く無い蹴りだった」

 

「…そりゃどうも。椎名こそ悪く無い反応だった」

 

「あと、お前意外と純粋なんだな」

 

「は?いきなり何言ってんだ」

 

桜、椎名ともに先程と同じようなやりとりをする。もっとも、発言者は逆になっているが。

 

「見たものをそのまま伝えたとは限らないし、見たとも限らない」

 

「あ?どういう…」

 

(!…)

 

桜は問おうとした瞬間、椎名の言葉の意味を察する。

 

「おい、そうなのか…?」

 

桜はまさかと思い訊いてみるものの、椎名は何も答えずトイレを後にした。

 

 

 

ーーー

 

 

 

(まだかな?昼休み終わっちゃう…)

 

同じ頃、藍子は桜の要望により椎名との話を誰にも聞かれないようトイレの外で見張りをしていた。

 

昼休み終了時刻が迫り、藍子がそわそわとし始めた頃、

 

「あっ」

 

椎名がトイレから姿を現した。

 

「用は済んだ」

 

椎名は歩きながら藍子にそう告げると、そのまま教室のあるフロアへと続く階段を上って行く。

 

 

 

椎名の姿が見えなくなって数秒後、桜もトイレから姿を現した。

 

「おかえり桜ちゃん、どうだった?」

 

藍子の問いに桜は「ああ…」と呟き、何か思うところがあるのか目を細めて遠くを見据える。

 

「何かあったの?」

 

藍子が不安そうに訊くと、桜は振り切るように目を閉じる。そして目を開けると、いつも通りの表情に戻った。

 

「いや…見張りありがとな」

 

「どういたしまして!」

 

「昼休み終わるな、戻るか」

 

「そうだね」

 

桜と藍子は急ぎ足で教室へと戻って行く。

 

(まったく、終始意味がわかんねー奴だったな)

 

戻る途中、桜はそのように評する。しかし、ぼやけて掴めずにいた人物像は幾許かくっきりとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。