可憐なる博徒 レイリ   作:tres

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9話 ♯12「昼から放課後」

ーーー

 

 

 

同じ頃。桐縹高校、職員室。

 

「ぐがーぐごー…」

 

机に突っ伏し、いびきをかく1人の教師が居た。

 

「葛城(カツラギ)先生、起きて下さい。もうすぐ昼休み終わりますよ」

 

別の教師が机に突っ伏してる教師、葛城に近付き体を揺する。

 

「ん…もう昼終わりか、ふああー…」

 

葛城は腕を伸ばし大きくあくびをする。

 

「次の授業に遅れますよ」

 

「悪いね、起こしてもらって」

 

「悪いと思ってるなら寝ないで下さい」

 

葛城を起こした教師は呆れながら答える。

 

「んじゃ行きますか」

 

「いつも起こしてる方の身にも…」

 

そんな教師の小言をよそに葛城は寝ぼけ眼のまま席を立つ。

 

「ってもう居ない!?」

 

教師が気付いた時には既に葛城は職員室から姿を消していた。

 

 

 

(昼休みはすぐ終わるなあ。あーねむ…)

 

葛城は目を細めながら廊下を歩く。

 

桐縹高校1学年の数学担当こと葛城。

 

身に纏ったよれよれの白衣とボリュームのあるボサボサヘアーが特徴の32歳、独身。

 

薄く無精ひげも生えていて若干不潔な印象を受けるが、顔立ちはそれなりに整っている。

 

飄々としているが不真面目というわけではない。また彼女らのクラス担任でもある。

 

(っと、あと1分しかねえ)

 

葛城は慌てるように次の授業を行う教室へと向かった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

放課後、デュエルハウス『ナチュル』。

 

藍子が前回の帰り道に言っていた通り、桜は藍子からエクシーズ召喚やその他諸々を教わっていた。

 

「はあ、レベルじゃなくてランクか」

 

「うん!だからレベルに関する効果を受けないし、その対象に選択する事もできないの」

 

「そうなのか…ん?ってことはシンクロ召喚の素材には…」

 

「レベルじゃないからできないね」

 

「なるほど」

 

「試しに1回デュエルしてみよっか。エクストラデッキ貸してあげる」

 

「ああ、頼む」

 

 

 

ーーー

 

 

 

「《神竜騎士フェルグラント》で《鳥銃士カステル》に攻撃!」

 

「ああ、受ける…って、あたしの負けか」

 

「うん、これでちょうど桜ちゃんのLPが0だね」

 

「あー勝てると思ったんだけどな。さすがアイコだな」

 

桜は少し悔しさを滲ませたような微笑みを見せる。

 

「最後にドローしたカードに助けられたかな、桜ちゃんのプレイングも良かったよ!」

 

「お、そうか?」

 

「うん!シンクロだけでなくエクシーズも使いこなしてたし!」

 

「それはアイコの説明がわかりやすかったからな」

 

「えへへ、どういたしまして」

 

藍子はにっこりと返事をした。

 

「ところで、喉乾いたね」

 

「そうだな、何か飲むか」

 

桜も藍子も喋り続けていたからか、喉が渇いているようだった。

 

 

 

「うん…?」

 

桜が飲み物を注文しようと店員を呼ぼうとした時だった。

 

「サービスです。料金は頂きません」

 

店員がテーブルに2人分の飲み物を置く。それはまるで2人の会話を聞いて準備していたかのよう。

 

「えっと…いいんですか?」

 

藍子は困惑しながら店員の顔を窺う。

 

「どうぞお飲み下さい」

 

それを聞いて藍子は遠慮がちにテーブルに置かれた飲み物、リンゴジュースを手に取る。

 

「じゃあ、いただきます」

 

「そちらの方もどうぞ」

 

店員は桜にも飲むように勧める。

 

「あ…ありがとうございます」

 

桜もリンゴジュースを手に取って喉を潤した。

 

「おいしー!でも本当にお金いいんですか?」

 

藍子は再度確認する。

 

「構いません。この人が払ったので」

 

店員は体を横に引き、後ろに立つ人物を2人に見せる。

 

その人物は桜と藍子が気付かぬ内に店員の後ろに忍び寄っていたようだ。

 

(わ、いつの間に…)

 

藍子はその人物を見てもそこに居たことに軽く驚くだけだったが、

 

 

 

「!…ぶふっ!」

 

桜はその人物を見るや否やリンゴジュースを噴いた。

 

「も、桃山さん…!?」

 

「よう桜、偶然だな」

 

桜は噴出の原因となった人物、紫に目を見張る。

 

「桜ちゃんの知り合いの方?あ、口から垂れてるよ」

 

藍子はハンカチを取り出し桜の口元を拭う。

 

「あ、ああ…悪い」

 

「ま、桜とはちょっとした知り合いだねー。アタシは桃山、フリーデュエリストやってる。よろしく」

 

紫はテーブルを拭きながら藍子に向かって話す。

 

「えっと、栗原藍子です。桜ちゃんのクラスメイトです」

 

「へえ、藍子ちゃんかー」

 

何か納得したような表情を見せる紫。

 

「あの…?」

 

「ああいや、何でもない。桜と仲良くしてやってね」

 

「は、はい!」

 

藍子は詰まりながらも元気良く答えた。

 

 

 

紫と桜の関係は桜の兄、赤石修哉が黒川と組んだのをきっかけに始まったものである。

 

赤石は彼女と同じように、彼女よりも前から黒川と組んでいた。生活費等を稼ぐため、そして妹を守るために。

 

仕事をこなしていく過程で赤石は紫とすぐに知り合った。ただ桜の方は紫はおろか黒川の存在すら知らなかった。赤石が心配かけまいと話さずにいたからである。

 

とはいえいつまでも隠し通せるほど赤石は器用な人間ではない。桜に見抜かれ全てを話すことになるまで時間はかからなかった。

 

程なくして紫と桜は知り合いになり、今では紫にとって桜は年の離れた後輩のようで、兄共々同様にかわいがっている。

 

ちなみに紫の方は黒川から話を聞いていたこともあり、赤石と黒川が組む以前から赤石兄妹の存在は知っていたようである。

 

 

 

「それで、何でここにいるんですか?」

 

桜は疑わしげな視線をぶつける。

 

「仕事に決まってんだろー。いやーナチュルは平和で良いね、桑鴇のデュエルハウスとは思えないわ」

 

(色んなところに出現するな、この人は…)

 

紫は特にどこかのデュエルハウスに所属しているというわけではなく、またデュエルハウス以外の場所でも働いているので実際至る所に出現している。

 

「修哉に聞いてた通りデュエル始めてたんだな。まだまだ初心者みたいだけど」

 

「見てたんですか?」

 

「まあね。ちょっとデッキ貸してみ」

 

桜がデッキを渡すと紫はデッキの中身を1枚1枚確認しては、時折頷いたり「へえ」と声を漏らす。

 

(なんかデッキ見られるのって恥ずかしいな…)

 

「…どうですか?」

 

「なるほどね」

 

桜が自信無さげに問うと、紫はデッキを束ねて藍子に視線を向けた。

 

「藍子ちゃん、1回アタシとデュエルしてみよっか」

 

「私とですか?」

 

「そう、桜のデッキを使ってね。どう?」

 

紫はデッキを藍子の前に置く。

 

「はい、いいですよ!お願いします」

 

紫の提案に藍子は快諾し、自分のデッキを差し出した。

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