「というわけで桜、デッキ借りるよ」
「まあ…いいですけど」
(これは…見て学べってことか?)
桜は席を立ち、紫に席を譲る。
「アタシのデュエル、後ろでしっかり見てなよ」
(たぶん、そうっぽいな)
紫の後ろで桜が見守る中、紫と藍子のデュエルが始まった。
ーーー
「ドロー、スタンバイ、メイン」
(フィールドには《TG ハイパー・ライブラリアン》と攻撃力3100の《鬼岩城》と素材を使いきった《神竜騎士フェルグラント》、ね)
(墓地は温存してるといっても手札はこの2枚だけ…いける?)
紫は手札と墓地、エクストラデッキを確認しながら考える。
(…あっ!そうかこのルートなら、いけるな。おー《イービル・ソーン》の300が効いてるなー!)
状況を好転させる道筋が見えたのか紫はニヤリとして、
(よし、ブン回すかー)
動き始めた。
「墓地の《薔薇恋人》除外して効果、手札から《ダンディライオン》特殊召喚」
「《レスキューラビット》召喚。《レスキューラビット》効果で除外してデッキから《ジェリービーンズマン》2体特殊召喚」
「《ジェリービーンズマン》と《ダンディライオン》で《メリアスの木霊》エクシーズ召喚」
「《メリアスの木霊》効果でエクシーズ素材の《ダンディライオン》を取り除き、墓地から《ローンファイア・ブロッサム》特殊召喚」
「墓地に送られた《ダンディライオン》の効果で綿毛トークン2体特殊召喚」
「《ローンファイア・ブロッサム》効果で《メリアスの木霊》リリースしてデッキから《エンジェル・トランペッター》特殊召喚」
「《ジェリービーンズマン》と《ローンファイア・ブロッサム》で《虚空海竜リヴァイエール》エクシーズ召喚」
「墓地の《ローンファイア・ブロッサム》除外して《薔薇の刻印》発動。効果で《TG ハイパー・ライブラリアン》に装備しコントロールを得る」
「綿毛トークン2体と《エンジェル・トランペッター》で《氷結界の龍 ブリューナク》シンクロ召喚」
「《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果で1枚ドロー。手札1枚捨てて《氷結界の龍 ブリューナク》効果、《鬼岩城》をエクストラデッキに戻す」
「はい」
(大丈夫だよね、まだLP7700残ってるし…うん、このターン中は耐えきれるはず)
藍子は自分にまだ大丈夫と言い聞かせる。しかし、紫は止まらない。
「まだまだ行くよ。《虚空海竜リヴァイエール》効果でエクシーズ素材の《ジェリービーンズマン》を取り除き、除外されている《ローンファイア・ブロッサム》特殊召喚」
「墓地の《グローアップ・バルブ》効果、デッキの一番上のカードを墓地へ送り特殊召喚」
「《TG ハイパー・ライブラリアン》と《ローンファイア・ブロッサム》と《グローアップ・バルブ》で《氷結界の龍 トリシューラ》シンクロ召喚」
「効果で私から見て右の手札、フィールドの《神竜騎士フェルグラント》、墓地の《ローンファイア・ブロッサム》を除外」
(氷結界の龍が2体も…!)
これで藍子のフィールドにカードが無くなり、がら空きとなる。
(でもまだ900残ってる…)
「墓地の《エンジェル・トランペッター》除外して墓地の《スポーア》効果、レベルを4上げて特殊召喚」
(えっ…!?ってことは、もしかして…!)
藍子はおおよそ察する。
「《氷結界の龍 ブリューナク》とレベル5となった《スポーア》で《星態龍》シンクロ召喚」
(桜ちゃん、氷結界の龍だけじゃなくて《星態龍》も入れてたんだね)
そして敗北を認めると、心なしか嬉しそうに微笑んだ。
「バトル、《虚空海竜リヴァイエール》で攻撃、《氷結界の龍 トリシューラ》で攻撃、《星態龍》で攻撃」
藍子LP7700-7700=0
「負けました。お強いですね」
結果は紫の勝利。
「いやー強いかな?」
藍子に褒められた紫はまんざらでもなさそうだ。
(紫さん、あたしのデッキで勝った…!)
桜はこの結果に少し驚く。流石に元プロの紫でも初心者の自分が組んだデッキで勝てるとはあまり思っていなかったようだ。
「桜、見ての通りアンタのデッキで勝たせてもらったわ」
「…よく勝てましたね」
(ってことは、つまり…)
「これで答えわかったろ?」
紫は席を立ち、桜の顔を見る。
「デッキと同じようにプレイングも重要、ってことですか?」
「そういうこと。多少デッキ構築が甘くてもプレイング次第で何とかなったりするもんよ」
「んー…やっぱりあたしのデッキは構築が甘いですか」
桜はデッキを見返す。
「いや、デッキはそれで良いと思うよ。結構役者も揃ってるし」
「えっ?でも…」
手の動きを止め、紫の方へと首を曲げる桜。
「デッキの組み方なんて人それぞれだし、構築が甘いか甘くないかなんて主観でしかないからな。そのデッキもアンタがカードを1枚1枚選んで組んだデッキなんだろ?」
桜は紫の言葉に頷く。
「自分が納得できるデッキが組めたらそれでいいんだよ。デュエルは楽しんでなんぼだからな。ま、アタシが言うのもあれだけど」
(楽しんで、か…)
笑顔でそう主張する紫。かつてはプロの表舞台で、今はフリーとして生きる紫というデュエリストが放つその言葉に桜は確かな重みを感じたようだ。
「勝った負けたも大事だけど、それに囚われすぎず楽しむ心を忘れるなよ」
「…はい!」
桜は強く返事をした。
「ま、勝ちを最優先に考えるとかプロを目指すってんならまた話は違ってくるけど。あ、そん時はアタシに声かけろよ?鍛えてやるからさ」
「はは…厳しそうですね」
冗談っぽく笑う紫に、桜も遠慮がちに笑った。
ーーー
同じ頃、桐縹高校。
「これで片付けは終了ですね」
「ええ。遅くまで手伝ってもらって悪いわね」
「いえいえ。これも仕事ですから」
琥珀と綾芽は生徒会の仕事を終えたばかりであった。他の生徒会のメンバーは既に帰宅しており、生徒会室には琥珀と綾芽だけが残っていた。
「小松さんだけだわ、ここまでしてくれるの。他の方ときたら、すぐに帰ってしまって…」
琥珀は不満そうに溜め息を漏らし、それに合わせるように綾芽は軽く苦笑いを浮かべる。
「毎日お疲れ様です」
「ありがとう、小松さんこそご苦労様。では帰りましょうか」
「はい」
2人は生徒会室の鍵を返しに職員室へと向かった。
職員室からの帰り途中、教師に遭遇する。
「栃浦(トチウラ)先生、さようなら」
「おお橡、に小松。こんな時間まで生徒会か?」
「ええ…」
琥珀は栃浦という教師に対してどこか警戒した様子で返事をする。
「それはそれは疲れたろう、肩を揉んでやろうか?」
「いえ、結構です」
「何、遠慮することは無い」
栃浦は琥珀の肩に手を置こうとするが、
「遠慮してません!」
琥珀の手によって跳ね除けられる。
「セクハラですよ?先生」
琥珀は呆れと怒りが混ざったような表情で栃浦を見つめる。
「肩揉むくらい良いじゃないか、なあ?小松」
栃浦は同意を求めるように綾芽に視線を向けるが、
「嫌がってるなら、駄目なんじゃないかと思います…」
苦笑いを浮かべて否定される。
「小松はどうだ?肩凝ってないか?」
しかし、栃浦は同じように綾芽の肩にも手を伸ばす。
「いえ…私も結構ーーー」
「帰りましょ、小松さん」
断ろうとした綾芽を琥珀は言い終える前に強引に手を引っ張り、その場を去ろうとする。
「え?あっ、会長…?」
「はは、気を付けて帰るように」
去り際、綾芽は引っ張られながらも栃浦に愛想良く一礼して、琥珀と共に校舎を後にした。
栃浦は2人の姿が見えなくなった後、
(お堅い生徒会長と気弱そうなクラス委員長か。中々の美形コンビで良いじゃないか。2人とも出るところは出てるしな)
口元を緩めながら再び歩き出した。